横浜散策
人が多く集まる繁華街ということもあり、赤レンガ倉庫の周辺を散策するだけでも既に何体かのモンスターの群れと遭遇した。
プレジャーフォレストで経験したような、変異種は見当たらなかった。WoFでもよく見掛けるようなモンスターが数体で行動しており、WoFユーザーを探しているのだろうか、目的もなく周囲を警戒しながら動いているのを目にした。
シンとにぃなは、二人で倒せる範囲のモンスターの群れを駆除しながら、散策をする。モンスターを見つけると周囲の状況を確認し、他に寄ってきそうなモンスターがいなければ攻撃を仕掛ける。
例え大したことのない相手であっても、今は戦力が乏しい。万が一、その群れの中に変異種が混ざっていれば、これから大事な作戦を控えているのに戦闘に耐えられなくなってしまう。
無茶をしないことを決まり事とし、少しでも周囲の敵を減らしておこうと、モンスターを倒し続ける。
「やっぱり繁華街だ・・・。モンスターの数が多い。人が集まるところに現れるのは確定的だな」
「うん・・・。でも変じゃない?何でこんなにモンスターが多いのに、互いに争わないのか・・・。だって、全部が同じ種族って訳じゃないんだよ?」
にぃなの疑問は、プレジャーフォレストでアナベルから聞いた話にも繋がるものだった。
モンスターが力をつけたり、食らったものの能力を継承することで変異種へと進化することは、アナベルの話にあった。それはWoFのユーザーやモンスターを食らったりすることで、謂わばレベルアップのような現象を引き起こしているという話だった。
これだけ多くの種類のモンスターがいれば、野生動物にも見られる縄張り争いや食物連鎖という概念が起こり得るものだと、普通は考える。
しかし、シン達のいる赤レンガ倉庫周辺に集まるモンスター達には、そういった傾向が見られなかった。
それはまるで、WoFのユーザーだけを狙うようにシステム化されているかのように。
「俺達みたいなユーザーがいなくても、モンスター同士で勝手に争って変異しててもおかしくない・・・よな?確かにそれは妙だ・・・」
「ねぇ、何もないよね・・・?」
にぃなはフィアーズの影の他に、別の脅威がこの横浜に潜んでいるのではないかと、不安そうな表情を浮かべてシンに問う。当然ながら、彼にもそんなことは分からない。
だが、それならそれで有益な情報にもなり得る。モンスターの敵意を意図的に別の対象へ集中させることが出来れば、来たる謀反の時にモンスターさえも利用しフィアーズの抑えることができるかも知れない。
ただ問題は、それが更に別の者や別の組織によるものだった場合だ。
二人は赤レンガ倉庫から、カップヌードルミュージアムやコスモクロック21がある方面へと進む。モンスターの数や種類にこれといった変化はなく、依然として多い印象だった。
違和感があるとすれば、それはこれまでこれほど多くの人達の前で戦闘を行ったことがないというくらいだろうか。それが何に関係している訳でもないが、自分やモンスターの攻撃が街を行き交う人々を透過していく光景が、シンにはまだ違和感に感じていた。
当たるはずはないのだが、モンスターの側に人がいると未だ攻撃の際に、僅かな躊躇いを持ってしまっている。やはりまだ現実の世界で戦うには、シンにはまだ場数が足りなかった。
いざという時に動けないのでは、周りや仲間を危険に晒すことになる。この戦闘の違和感に慣れるという意味でも、シンは多くのモンスターと戦い、克服したいという思いがあった。
「こっちには高い場所が多い。見晴らしが良ければ、戦況を把握しやすく戦いやすくなるかも」
「そうだね、ライブ会場でもある室内での戦いが厳しそうなら、こっちの方に移動するのもありだね!他にもいい場所がないか、探してみよう!」
彼女は前向きに“いい場所“と表現していたが、これは少しでも有利に戦える場所を探すという意味の他に、これが罠だった場合の逃走経路の確保と確認という意味も込められている。
そして同時に、様々な場所を移動することで、もし二人をつけて来ている監視役がいるのなら、それを見つけるチャンスも生まれるかも知れない。
するとそこで、何かを追っているかのように走る四足獣のモンスターを見つける。
「あれは・・・?」
「今までのと違うね・・・。何かを追ってるのかな?」
視線をモンスター達の先へ移す。街を行き交う群衆の中に、何かに怯えるように物陰に身を隠す者の姿があった。
その怯え方は尋常ではない。現実の世界で生きているのなら、そうそう見るような人の反応では無いように思える。仕切りに覗き見るように頭を出し、何処かを確認するように見ているようだ。
「あれって・・・」
「そうだよね!?周りの人も、まるであの人が見えてないみたい!」
シンとにぃなは、今までの経験と直感で、その者が異変に巻き込まれた覚醒者であると分かった。これだけの人混みの中でようやく見つけたWoFのユーザー。決して見過ごせぬと、二人はすぐにその者の元へと駆けつけた。




