蒼空との合流
車窓から文字通り、赤いレンガでできた建物が見えてくる。シンとにぃなは大通りで車を降りると、救援要請のあった一号館へと向かって歩き出す。
「蒼空って人、もう来てるのかな?どんな人だろう」
「文面からは真面目そうな印象を受けたけど・・・なんで急に?」
「ウチらのチームに入ってくれるかなぁ〜って・・・」
フィアーズに身を置いているWoFユーザーは少なくない。そこで満足している者もいれば、出世を狙おうと、任務に励む者もいる。
その中には当然、抜け出したいと思っている者達もいる訳だが、上の者に気に入られようと、誰が上層部の内通者をやっているのか分からない状況で、無闇に勧誘は出来ない。
ある程度信頼できるくらいの絆は築かなくてはならない。その点で言えば、真面目そうに見えるというのは、逆に上層部への忠誠心が厚いとも取れる。果たして蒼空はどちらなのか。
一号館の内部は、二人がおうぞうしていたものよりも広く、一階は主にショップフロアとなっていた。様々な横浜の土産が並び、やはり名所と上がるほどのところ。人が多く混雑していた。
「倉庫っていうほど倉庫っぽくなかった・・・?」
「そりゃぁ明治の終わりの頃に作られたものが、そのままの用途で使われるなんてことはないでしょ。当時では最新鋭の倉庫として出来たらしいよ?」
行ったことはないと言ったはずのにぃなが、妙に詳しげに説明していた。シンが思っていた以上に、もしかして彼女は博識なのだろうか。これまでの言動や行動に違和感を感じ、何かを一心に見ている姿を見て、シンは彼女の手元を覗き込む。
すると、その手には3D表示される電子パンフレットの端末があった。
「なぁんだ、妙に詳しいと思ったら・・・」
「何よ!敵城視察は基本中の基本でしょ!?」
敵城ではないと思うが、これから恐らく彼らが迎えるであろう何かとの戦闘において、地形や建物の形状を把握しておくに越したことはない。
それに、ホールと言われてもこの広さだ。実際にはどの辺りなのか、シンとにぃなには詳しく分からない。
蒼空の提示してきた待ち合わせ場所は、一号館の三階にあるホールとだけ伝えられていたが、三階にはレストランやカフェ、お洒落なバルコニーでの食事を行えるところなど、お店も入っている。大きなホールが一つ設けられているというようではないようだった。
二人は店内を見て回りたい気持ちを抑えながら、三階への階段を上がっていく。すると、待ち合わせの場所らしきホールへと出る。そこにはライブの準備をしているのだろうか、多くの同じ格好をした人達が機材の点検をしていた。
「ここがホールか・・・」
「ライブの準備だぁ!確かもうすぐって書いてあったもんねぇ」
周囲をゆっくり見渡し、内部構造を確かめるシンの目に、一際目立つ場違いな格好で椅子に腰掛け、準備の様子を見守る人物のシルエットが入ってくる。
静かににぃなの肩を叩き、その人物のいる方を指差す。すると彼女は静かに頷き、両サイドに設けられた階段を左右に分かれ上がっていく。
そして、先に目があった方のシンがその人物に問いかけた。
「アンタが蒼空、で間違いない・・・よな?」
すると男は立ち上がり、待っていたとばかりに両腕を広げ彼を歓迎した。
「おぉ!よく救援に駆けつけてくれた!そうとも、僕が“蒼空“だ。よろしく、シン」
思っていたよりも友好的に接してくる彼に戸惑いつつも、シンは蒼空と求められるままに握手を交わす。そして、反対側から近づいていたにぃなへ視線で合図を送り小さく頷くと、その様子を見た蒼空が彼女の方を振り返る。
「それじゃぁ貴方がにぃなさん?僕は蒼空、よろしく」
同じように握手を求め、手を差し出す蒼空。しかし、何故か彼女はその手を取らず、何処か表面上の笑みを浮かべて自己紹介を返した。スキンシップを好まないタイプなのかと思った蒼空は、その手を引っ込める。
「救援・・・という割には随分と落ち着いてるな?」
「あぁ、今はね・・・。座って、まずは状況を説明するよ」
そう言って二人を、今よりも見晴らしのいい上の席へと案内する蒼空。ホールの観客席の中でも、最後部の席へとやってくると蒼空は中央辺りに腰掛け、二人にも適当に座ってもらうよう指示する。
シンは蒼空との間に一つ席を空けて座り、にぃなはシンよりの別の段で腰掛ける。何故彼女が蒼空との距離を取るのか少し妙にも感じたが、全く気にしない様子で話を始めようとする蒼空に、耳を傾けた。




