獣の生態
それからアナベルは、いよいよシンが待ち遠しにしているであろう話の核に迫る話題へと触れる。
「さて、それは私達の話なんだけど、ここでみんなにも聞いておきたいことがあるんだけど・・・」
WoFのゲーム内で実装されている成長システムと、現実世界で彼らが成長するにあたり必要なこと。それらは別の形ではあるものの、確実に彼らの身に起きている事実。
「聞きたいこと・・・?」
「そう。WoFの世界ではさぁ、定期的に街や村とかの拠点には、大型のモンスターや小型の群れが襲撃してくるレイドバトルが発生していたと思うんだけど、それって何でだと思う〜?」
WoFでは、クエストが永続的に起こるようなシステムが採用されており、季節やイベント、その他にも突発的なクエストなどが自動更新されていた。
その中の一つに、戦闘クエストである襲撃イベントというものが発生し、街や村といった拠点に訪れているユーザー同士でパーティーを組み戦う、レイドバトルが行われる。
設定としては、突然変異で強大化したモンスターが現れたという報告が出回るといったものや、増殖し過ぎたモンスターが徒党を組み拠点を襲撃しに来るといったものだ。
ちなみに、このイベントクエストに敗北すると、街や村の施設が暫くの間利用できなくなったり、立ち入り自体が不可能になってしまう。
しかしそれはあくまで一時的なもので、ゲーム内時間で数日経つことで再び利用可能になる。その際に、施設の利用料や店の物価が暫くの間上昇してしまうデメリットがある。
報酬が設けられている為、近くにいるユーザーは比較的積極的に参加するレイドバトルになっている。それを目的に各地を移動して回るプレイも存在し、金策や珍しいアイテム、限定の装備や商品などの恩恵も多い。
「初期の方の村とか街とか、レベルが上がってくると行く機会がないからなぁ。そういう定期的なイベントがあると、飽きないし報酬も美味いから、ユーザーを離れさせない良いシステムだと思うけど・・・」
シンの意見に、にぃなも鎧の男も賛成していた。実際に彼らも参加していたようで、ゲームを楽しむ上でも必要なものだと感じていたようだ。
「でも、どうしてそんな事を・・・?」
「これは私や、今まであって来た人達の推測なんだけどさぁ。現実世界でも同じことが起こってるんじゃないかなぁ〜って」
アナベルが言ったのは、現実の世界にやって来たモンスター達も、その突然変異や急激な繁殖といった要素が持ち込まれているのではないかと言うものだった。
「巨大なレイドボスみたいなのは、私もまだ遭遇したことはないけどさぁ。なぁ〜んか、人が集まるような場所に限って、モンスターの数が多かったり群れがいたりするんだよねぇ〜」
モンスターがもし、異変に目覚めたWoFユーザーを狙っているのだとしたら、納得のいく理由ではある。それが運営や何者かによって、そうさせられているのかは分からない。
だが、事実としてシンやにぃながいた東京には様々な種類のモンスターや、変異種といった他の個体とはしがったモンスターがいた。彼らもそれを聞かされて、妙に納得のいく部分があるようだった。
「それで、ここからが重要な話になるんだけど・・・」
アナベルの声のトーンが落ち、真面目な雰囲気に変わる。モンスターが集まる要因となっているのが、人の集まる拠点であるという情報を得られただけでも、モンスターの発生の傾向や生態を知る上で有用な情報ではあったが、これ以上に何か重要なものがあるようだ。
「どうやらさぁ、モンスター同士でも戦闘ってするみたいでさ。相手を倒すと、勝ち残った方のモンスターが成長してるみたいなんだ」
「えっ・・・?」
「それって、つまり・・・」
「私達があっちの世界でやってたように、“モンスターもレベル上げ“をするみたいなんだよ」
彼女の口から語られたのは、WoFでは聞いたこともないような話だった。ゲームを通常プレイする上では、一般のユーザーには知ることのない話だが、動物の生態系を再現しているのであれば不思議ではない。
「そんでもって、そのレベルの上がった個体が群のリーダーになったり、新たな進化を遂げてるんじゃないかなぁって思うんだ」
「じゃぁ、その変異種っていうのも、その過程で起きた変化だということですか?」
その可能性も、勿論捨ててはならない考えではあるが、どうやらアナベルが推測していたのは、それよりももっと辻褄が合い、可能性としては高いものだった。
「それも勿論あるんだろうけど、私が思うに変異種のモンスターは、“WoFのユーザーを殺した個体“なんじゃないかなって思うんだ。そしてその残骸を食べることで、人の言葉や感情を手に入れてるんじゃないだろうかぁ・・・」
アナベルの話の通りなら、人の言葉を話すモンスターの謎にも納得がいく。否、人を食べて言葉を話せるようになるなど、到底納得がいくものでもないが、今はその可能性を信じる他なかった。




