ロールプレイング
前衛部隊のリザード兵達は、シン達のよく知るモンスターのように直線的な動きで攻めて来ていたが、ボスの周辺にいる取り巻きや近衛兵のように立ち並ぶ者達は、まるでパーティープレイをするユーザー達のように役割というロールを持って戦っているようだった。
勿論、ゲーム上でもそのように役割を持って動くNPCもいる。だが、シンがこの異変に巻き込まれてからというものの、こんな動きをするモンスターと遭遇するのが初めてだった。
その中でも、シンを特に悩ませたのが、リザード兵のボスによる学習能力だった。もしゲームにそのようなものを実装したら、プレイヤーのレベルやクラスによって何もさせてもらえなくなってしまう事態に陥りかねない。
謂わば、こちら側の持っている戦闘手段という手持ちカードを、一枚ずつ封じられていくようなもの。場に出せる手札がなくなって仕舞えば、その時点で敗北は決まったようなものとなる。
相手はこちらの行動に対する対策を完璧に備え、何をしようと通用しなくなるのだから。
「くッ・・・!余計なことをする取り巻きから始末しなきゃ、奴にまで届かないか・・・」
シンは作戦を切り替え、先ずは杖のような武器を持つ支援系と思われる役割を持ったリザード兵へ、狙いを定める。
ボスの影でなければ、他のリザード兵の影には移動できる。シンは再び素早い動きでボスの視界から消えるように、近場の木々や建物の影の上を駆け回り、隙を突いて移動を開始する。
彼が影の中へ入り、一体の杖のリザード兵の影へ移動し、弱点部位目がけて影の中から飛び出す。
しかし、それを待ち構えていたかのように、飛び出してきたシンを狙いリザード兵のボスが既に武器を構えていたのだ。
「なッ・・・!?」
宙に舞ってしまったシンに、ボスの一撃を避けることは出来ない。身体を捻り、勢いよく振われた戟を間一髪短剣で受け止めるも、その力に押されシンの身体は大きく吹き飛ばされてしまう。
シンの身体は、歩道の脇にある大きな木にぶつかり、勢いよくへし折って停止した。直撃よりもダメージは浅いが、にぃなの支援魔法も受けていなかったシンは、全身に走る痛みに苦痛の表情を浮かべる。
「ッ・・・仲間を・・・守ったっていうのか・・・?」
その様子は、後方で戦っていた二人の目にも映っていた。
「えっ・・・!?」
「ちょっとッ!?あれ大丈夫なの!?」
見た目こそやや大柄で武装してはいるものの、リザード種というポピュラーなモンスターに二度も攻撃を防がれたところを見たにぃなは、何か普通ではない事態が起きていることを察する。
「ごめんッ!ちょっとだけ離れるよ」
「えっ・・・!?大丈夫なの、貴方一人で」
「大丈夫よ。私だって少しは戦えるんだから・・・!」
そう言って少女の元を離れたにぃなは、急ぎ地面に倒れ必死に立ちあがろうとするシンの元へ駆け寄る。
しかし、そんな彼の元へ向かっているのはにぃなだけではない。ボスの指令を受けたかのように、取り巻きのリザード兵数体がシンに止めを刺さんと向かっていた。
そして、移動し始めたにぃなを追うリザード兵達も、彼女につられて集まる。せめてにぃなを安全に送り出そうと奮起する少女だったが、執拗なリザード兵による攻撃に、その場からの移動を拒まれてしまう。
「ちょっとッ・・・!邪魔すんじゃないってのッ!!」
にぃなはじ走りながら自身に防御力上昇の魔法だけをかけると、リザード兵よりも先にシンの元に辿り着けないと判断した彼女は、魔法の範囲内に入ったところで詠唱を始め、先にダメージを負ったシンに回復だけでもとスキルを放つ。
彼女の後を追っていたリザード兵達がそうはさせまいと、手にしていた槍を投げる。風を切って飛んでいった槍は、彼女の身体を掠めていく。そしてその中の一本が、にぃなの足を貫き体勢を崩した彼女は地面に倒れ込んでしまう。
だが、にぃなは痛みに耐えながらも詠唱をやめることはなく、見事シンに回復魔法掛けることに成功した。
身体の痛みが引いていくのを感じたシンは、地面に倒れるにぃなの姿を見つける。それを見た彼は、自分に向かってくるリザード兵を無視して、にぃなへ接近する追手に目掛けてナイフを投擲する。
身を犠牲にしながらも回復魔法を掛けに来てくれたにぃなを救おうと、彼女の元へ駆け寄るシン。彼の狙いは正確で、投げ放ったナイフは見事リザード兵の頭部を貫く。
そして追手を食い止めたシンが、傷を負いながら倒れるにぃなの元へ辿り着くと、そこには彼と同時にその場へと辿り着いたもう一つの影が立っていた。




