表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World of Fantasia  作者: 神代コウ
760/1694

魔物の群れ

 手始めに、最寄りのエリアにあるアトラクションを目指し、端末でプレジャーフォレストの案内マップを確認しながら進む。人混みを気にすることなく歩けるというのは便利なものだが、ついついすれ違う人を無意識に避けてしまう。


 その様子を見て、にぃなは笑った。


 「それ、私も昔よくやってた」


 「・・・ん?」


 「人、避けてるでしょ?この身体でいる時は認知されないし、ぶつからないのに」


 「あぁ・・・。こんなことも癖になってるんだ・・・。視界に入るとついつい身体が勝手に避けちゃうんだな」


 ほんの些細なことでも、生活や日常が変わればおかしく思えることが見えてくる。手元のスマートフォンに視線を向けていても、その視界の端に映る物や人を無意識に避けるように歩いている。


 これも生活の中で身に染み込んだ習慣というのだろうか。小さい頃は難しいと感じていた自転車の運転を、どうやって乗っているのか上手く説明できないように当たり前になっていた。


 「俺達ってこのままアトラクションとかに乗れるのかな?」


 「どうだろう・・・。でも車とか乗れてるからね。・・・ねぇ、試してみよっか!」


 「そう・・・だな。自分達のことももっとよく知っておかないと」


 異変に巻き込まれてから、あまり気の休まることはなかった。休息があっても、心のどこかで自分はどうなってしまうのか、このままおかしな状態のまま生きていくことになるのかなど、不安は常に付き纏ってくる。


 恐らく他のユーザー達もそうだろう。本当に命の危険を体験すると、それがトラウマになり無心と呼べる時間が極端になくなってしまう。その影は、ふとした瞬間に訪れ、心や思考を覆い尽くしていくように侵食し始める。


 前向きに生きようとしても、ネガティブなものはポジティブよりも強力な因子なのだと、つくづく思い知らされる。一体いくつのポジティブがあれば、一つのネガティブを忘れることが出来るのか。


 それが今はどうだろう。不安は確かにある。だが、不思議に興味を持ち始めるということは、ポジティブな気持ちにならなくとも、悪い思想を忘れさせる要因にはなるのかもしれない。


 ウキウキと歩くにぃなの姿を後ろから見ながら、シンは少しだけ穏やかな時を過ごしていた。


 が、突然近くの施設の中から大きな物音と、人の悲鳴のようなものが聞こえてきた。


 驚いてもの音のした方へ視線を向ける二人。周りの人々は全く意に介せずといった様子でリゾートを満喫している。それだけで二人は、すぐに異変に纏わる事件であることを悟った。


 目を丸くして振り返るにぃなに、シンはすぐに様子を見に行こうと真剣な顔色で頷く。


 アトラクションへ向かう時とは逆に、今度はシンが先陣を切って現場へと向かう。すると、建物の中から人が後ろ向きで壁を透過して飛び出してきた。


 そのままその人物は転んでしまい、建物の方を怯えた目で見つめながら後退りしていた。


 「誰かッ・・・!何これ、嘘でしょ!?あり得ないってッ・・・!!」


 「おい、どうした!何があった!?」


 そこにいたのは、ボーイッシュな格好をした十代くらいの女の子だった。シンの呼び声に反応し、涙を浮かべた瞳でこちらに助けを訴えかけていた。地べたについたその腕には、鋭利なもので切られたような傷がついている。


 「なっ中にゲームのモンスターがッ・・・!居るの!ここに居るの!!何で!?」


 それを聞いたシンは、いつでもすぐにスキルを放てるように準備をして、彼女の指差す建物の様子を伺う。


 シンもにぃなも、内心ホッとしていた。モンスターで良かったと。もしフィアーズの誰かや、別の交戦的な人間の方がずっと厄介な相手だからだ。


 遅れて彼女に駆け寄ったにぃなが、すぐに傷を癒す回復スキルを使用して当てする。淡い緑色の光と共に、腕につけられた傷がみるみる治癒していくのを見て、彼女は痛みが癒えていくことよりも、目の前で傷が何事もなかったかのように消えていくことに驚いていた。


 彼女の飛び出して来た建物から、唸り声と共に複数の二足歩行をした爬虫類の見た目のモンスター、リザード種の群れが姿を現した。その中には、後方で大型のリーダーらしき個体が、武装をしてこちらを静かに睨みつけていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ