勇士達の帰還
彼女は確かに、先程の建物に置いて来てしまった筈。だが二人の目の前には、アリスと寸分違わぬ姿があった。どうやってここまで、あの僅かな時間内で来れたのか。
二人と同じ透過の能力なのか。それとも何かしらの能力、或いはアイテムによる移動か。しかしどこを見渡しても、移動ポータルのようなものは伺えない。
「アリスッ!?何故ここに・・・」
「しッ!静かに・・・。気配を消して、先ずはあの女から遠ざかりましょう。今度は魔法やスキルは使わないで下さいね・・・」
瑜那と宵命は、状況が把握できないまま少女に連れられ、建物を移動する。裏口から外へ出ると、薄暗い入り組んだ路地裏を進み、他の気配に気を張りながらデントラルシティを離れる。
暫くして、痺れを切らした宵命が少女に尋ねる。
「お前、一体どうやってあそこから移動して来たんだ?俺らみてぇに移動系の能力でも使ったのか?」
「いいえ、違います。あまり詳しくは言えないんですけど、あれは私であった私でない。情報は共有してるんですが、あの子は別の私・・・」
「別の・・・?」
彼らと同じく双子という訳でもなさそうだ。もし双子なら、あんなにあっさりと見捨てられる筈がない。それは瑜那と宵命の共通の認識であった。なら、あそこにいたアリスは一体何者なのか。
詳しく話せないとは、自身の素性や能力、クラスを明かせない理由でもあるのだろうか。
そしてもう一つ気になるのが、情報の共有がなされていると言った事だった。別々の存在であっても、そう遠くない存在だということを意味しているのだろう。
「さっきのお前はどうなる?あの女に捕まっちまったのか?」
「多分あの女は、捕まえたりなんかしないと思います。私にも、どういう理由で人やモンスターを飲み込んでいるのかは分かりません。満足したら帰っていくとしか・・・」
「帰る場所がある・・・?」
「ぁ、ごめんなさい。正確には何処かへいなくなってしまうとしか・・・」
少女の反応に、少しがっかりした様子を見せる瑜那。もしも何処かへ帰っているのなら、そこからあの女の素性に迫れる情報を得られ得るかもしれないと考えていたからだった。
後を追うと言う意味で、瑜那はとあることを思い出す。
「そうだ!アリス、君はさっき他の君と情報を共有していると言ってたね?」
「はい」
「じゃぁ君の言う、もう一人の君が今どうしているのか分からないか?」
あのままいけば、置いて来たアリスはあの女と接触していることだろう。生きているにしろ死んでいるにしろ、それで女の行方を確かめられないだろうかと踏んだのだ。
しかし、予想に反し少女の反応はあまり芳しくはなかった。
「そこから追跡しようとしているのですか?ごめんなさい、それはできません。距離が離れてしまうと共有出来なくなってしまうんです・・・。それに同じようなことを試みたことは、過去にもあるんですが・・・」
「結果は、上手くいかなかった、と?」
少女は瑜那の質問に無言で頷いた。どうやら彼女とその仲間も、あの女について調べようとはしたものの、詳しい情報は得られなかったのだそうだ。
一向が異常な雰囲気を放つ女から離れ、セントラルシティを出ようとしたところで、アリスは足を止めた。どうしたのかと瑜那が尋ねると、少女は案内できるのはここまでだと語る。
「ここまで来ればもう大丈夫。あの女も流石に追っては来ないでしょう」
「できればもう少し詳しく話を聞きたかったけど・・・」
「しゃぁねぇよ。離れられねぇって言う事情があるのは、俺達にも分からなくはねぇからな」
彼女は街に残してきた仲間の元を離れることは出来ないと言っていた。それは瑜那達にも分からない話ではない。どこの世界かも、何が起きているのかも分からない世界で孤立すると言うことは、命の危険に晒されるということに等しい。
瑜那達が怪しい人物でないことは分かってもらえても、それでも心を許せる仲間がいるのならそちらへつくのは、至極当然というものだろう。実際、逆の立場なら二人もそうしていたに違いない。
そして、セントラルを抜けた二人の元にちょうど白獅から撤退の連絡が入る。そこには既に朱影も撤退し始めている事と、シンが敵対組織に潜入している事が告げられていた。
「また近くに来る機会があれば連絡して下さい。何かお力になれる事があるかもしれません。それに味方は少しでも多い方がいいですからね!」
少女アリスとの友好関係を築いた二人は、危険な地に残る彼女を心配しながらも別れを告げ、その場を去っていった。二人を見送った少女は、再び暗い街の路地へと姿を消した。




