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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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初めての汚れ仕事

 装置の入口を開け、倒れたオートマタの後片付けを始める組織の隊員。その中の一人の男が、胸部に短刀を突き刺しまるで心臓を貫き、息の根を止めるような動作をしている。


 それを見ながらシンは、目の前で行われる実験が実った時、一体どんなことが起こるのかイヅツに質問をした。


 「そこまで知ってるなら、この実験が成功した時、一体どんな成果が得られるのか・・・。アンタは知ってるのか?」


 少しの間口を紡いだイヅツは、重々しく鼻から息を漏らした後に、彼自身が見たという実験の結果を語ってくれた。


 「俺が見たのを、“成功“というのかは分からないけどな・・・」


 今目の前で繰り広げられた光景と同じように、その時の実験施設でも装置の中に魔物が入れられ、データのインストールが行われていたのだという。


 しかし、今とその時で違ったのは、魔物が息絶えなかったことだ。データのインストールに成功したと思われる魔物は、装置の中大人しくなり何か言葉のようなものを発しようとしていたのだそうだ。


 それはまるで、初めて言葉に触れる人間のように、喋れなくなっていた者が再び言葉を発するかのように、辿々しくも言葉にはならない呻き声だった。


 「あっ・・・あぁぁ・・・ぅぁあああぁっ・・・」


 「おい、死んでねぇぞ!すぐに安定剤を打て。眠ったら研究室の方へ運んでおけ」


 その時の研究施設に居たのも、今と同じスペクターだったようだ。まだ何も知らなかった頃のイヅツは、そこで腰を抜かすほど驚いたらしい。何を隠そう、目の前で行われた実験に使われた元のデータというのは、彼が初めて現実世界で殺めた人のキャラクターデータなのだ。


 勿論、好き好んで人を殺めた訳ではない。世界に起きた異変や、WoFに起きている不可思議な事態に戸惑っていたイヅツは、まだ現実世界での戦い方を知らない頃に、組織に出会ってしまったのだ。


 命の危険に晒されたイヅツは、仕方がなく同じ境遇にあるWoFのユーザーを狩る任務に駆り出された。その時彼の監督役になったのが、スペクターだったらしい。


 標的となったユーザーは、イヅツと同じく組織に勧誘紛いのことをされたらしいのだが、彼は誰から教わったのかWoFのキャラクターを自身に投影する方法を知っており、スキルを駆使して追手を振り切ったのだという。


 事情を知られ、自分達の組織の存在を公にされることを望まない彼らは、その逃げ出したユーザーの所在を突き止め、イヅツの戦闘訓練がてらに“人殺し“を命じて来たのだ。


 逃げ出したユーザーを追い詰めたイヅツとスペクター。しかし、初めに戦闘を行ったのは標的とイヅツの一対一。上官のスペクターは手を出すことはなかった。


 そして対峙した二人が、同時に自身のスマートフォンを手にし、キャラクターデータを投影する為、ゲームへアクセスしようとしたその時。先手を打ったのはイヅツだった。


 「なッ・・・一瞬でッ!?」


 イヅツはスマートフォンを手にすると、顔の前で視線を切るように画面をスライドさせた。すると、彼の身体はそれだけでキャラクターデータの投影を完了させたのだ。


 当然、逃げ出したユーザーはそんなことは出来ず、急ぎWoFへログインしキャラクター選択画面を開き投影を開始する。が、既に投影を完了したイヅツの攻撃に間に合うわけもなく、突っ込んできた彼の剣技を受ける。


 次に驚きの表情を見せたのはイヅツの方だった。できればこの一撃で終わって欲しかった。長引けば長引くほど、戦闘経験の浅いイヅツが不利であることは明白。


 戦術的にも、不意の一撃となる初手が最大のチャンスであった。だが、辛うじてデータの投影を完了させた相手のユーザーが、イヅツの剣を受け止め壁へと叩きつけられる。


 一見派手に食らったように見えたが、実際は直撃しておらず血も出ていない。その光景を見て、やはり自分の行った行為は間違っていたのかもしれないと動揺してしまうイヅツ。


 しかし、今更裏切る度胸も湧いてこない。死への恐怖が彼の背中を押し、なるべく早く終わらせるのだと、畳み掛けるように剣を振るい、蹌踉めく相手へと斬りかかる。


 脳を激しく揺らされ、目眩を起こしている様子の相手だったが、不意打ちの一撃ほど有効な攻撃を与えられず、イヅツはすぐに反撃を受けてしまう。


 イヅツの一振りを躱した相手は、強烈な打撃によるカウンターを彼の腹部へお見舞いする。油断したところに貰ってしまった一撃が故、ダメージ以上の効果を彼へ齎した。


 一歩二歩と後退りし、腹部を押さえるイヅツ。相手は格闘による攻撃から、武術系統のクラスであることは想像がつく。彼にはイヅツを殺す意思はなく、気絶させた後でスペクターの目を掻い潜り、この場を逃げ出そうとしているようだった。

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