研究と実験
「研究って・・・どんなことを？」
「俺らでも知り得ないことだ。どうすればWoFのユーザーのように別の世界へ行き来できるのかとか、如何やったら元の世界へ戻れるのか」
考えてみればおかしな話でもある。シン達のいる現実の世界へは、WoFのモンスターが来ていたり、またアサシンギルドのメンバーやここにいる対立組織の者達は、それぞれ異なる時代、異なる世界からやって来ている。
その中でも、元いた世界へ戻って来れるのはシンやイヅツの様に、WoFを元々遊んでいたユーザー達だけなのだ。
原理は分からないが、彼らが元いた世界へ戻るにはWoFのユーザーを徹底的に調べるのが、最も近道なのかもしれない。
「だが、調べるったって何を調べるんだ？出生や生い立ち・・・？」
「まぁ、それも調べはするんだろうが、あまり有力とは言えないな。俺も研究について聞いたことはないが、小耳に挟んだことはある。奴らが主に集めてるのは、俺達のデータらしい」
「データ・・・？WoFのって事か？」
イヅツはシンの問いに黙って頷いた。確かにそれなら可能性はあるかもしれない。WoFのユーザーが別の世界へ行っている、と思っているのはあくまでゲームとして存在している、WoFという仮想世界をベースに作られている世界であることは間違いない。
ただ、普段のゲームと明らかに違うのは、あまりに現実味のある痛覚や触感など、五感に働きかけるものと、ゲーム内には見られないイベントやストーリー、そして通常ではあり得ない設定の難易度で組まれたボス戦や目標などだ。
つまり、シン達がログインしているのはWoFというゲームによく似た、WoFではない別の世界である可能性もあるということだ。
しかし、ログイン自体はゲームの時と同じ。つまりデータ通信を行っているサーバーも同じであると思われる。だとするならば、いちいちユーザーを調べるよりももっと手っ取り早い方法があるのではないかと、シンはイヅツに尋ねた。
「それなら、WoFを制作提供している本社を調べた方が早いし確実なんじゃないか？ハッカーなら今の時代、いくらでもいるだろ？そいつらを捕まえてさぁ・・・」
「おいおい待てって。こんな事をちまちまやってる連中が、それを試さなかったとでも思うのか？俺達がその話題に触れるのは禁止されてるが、きっと失敗したか不可能だからこんな事をしてるんだろ？」
「何故禁止されてるんだ？聞いてみることもできないのか？」
「今のお前と同じように、色々と奴らの事を詮索してた奴がいたんだが、そいつらは真っ先に実験体に使われるのを見た・・・」
二人がそんな話をしていると、先ほどガラス張りの装置に入れられたオートマタの魔物が、悲鳴のような声を上げながら装置から出ようと、ガラスへ体当たりし始めた。
「なッ・・・何だ！？」
「始まったか・・・。あれが今、新たに始めてる研究だとよ」
よく分からぬまま、魔物の行く末を見守るシンと組織の者達。オートマタは暫く苦しそうにもがくと、次第に弱り始め動かなくなる。それを見た組織の者達は、場がしらけてしまったと言わんばかりに装置から離れていった。
「一体何をしたんだ・・・？」
「モンスターに自分達のデータやWoFのユーザーのデータをインストールしてるんだよ」
イヅツの言葉にシンは衝撃を受けた。そんな発想など微塵も頭になければ、考えたこともなかった。そもそも、そんなことをするのにどんな意味があるのか。
「はッ！？何だってそんなこと・・・」
当然の反応だろう。イヅツはそういった様子で目を閉じ、ゆっくりと瞼を上げる。ここに来た誰しもが、同じ質問を彼に投げかけて来た。そしてそれは、他の勢力であるアサシンギルドも知り得なかった情報で、恐らく彼ら以外そんなことを試みたことはなかったであろう研究だった。
「発端については分からないが、あの実験でデータのインストールに成功すると、人格というか・・・システムの上書きが出来るみたいなんだ」
「人格・・・？それってつまり・・・」
「お前の想像した通りさ。モンスターの身体に、インストールした人間の人格っていう改造人間の出来上がりって訳さ」
異常な発想だった。確かに肉体的な面で言えば、人間の身体よりも魔物の身体の方が便利で強靭な場合がほとんどかもしれないが、何故今のように失敗というリスクを負ってまでそんな事をするのか、シンには理解が出来なかった。
