神速の月輝流
二人が再度、戦闘の構えを取ると、最初に動き出したのはシャーフの方だった。
未だ見たことのないアーテムの二刀流の構えに臆することなく、鍛え抜かれた抜刀術で先手を取る。
間合いを一気に詰め、放たれた一閃をアーテムが刀と小太刀を交差させ受け止める。
シャーフの凄まじい一閃に押され始めたアーテムは、防ぎきれなくなる前に二刀でシャーフの一閃の軌道を変えて、ふり抜かせる。
空を斬るシャーフの一閃。
隙だらけとなったシャーフ目掛けて、アーテムが刀を振り下ろす。
しかし、空振りにされた攻撃を手首を返し、素早く反転させたシャーフは、すぐ様アーテムの攻撃を刀で防ぐ。
二刀でも防ぐのが精一杯だったシャーフの攻撃を片手で防ぎ切るのは不可能。
だが、アーテムにとっては少しの間だけ時間を稼げれば問題ない。
それは、もう片方の手に持った小太刀で攻撃する隙を作るためだったからだ。
アーテムは小太刀でシャーフの首元を狙う。
「アーテム・・・、お前は聖騎士になってからの俺を知らない。 お前が成長してきた様に、俺も更なる次元へと成長したんだッ・・・!」
アーテムの小太刀が迫る中、息を整え何かを狙うシャーフ。
「月輝流・月型・・・鏡月ッ!!」
シャーフは受け止めていたアーテムの刀から、今度は小太刀の方へと刀を振るう。
しかしこれでは、アーテムの刀の方がガラ空きになる。
そう思った矢先だった。
それはまるで、シャーフ刀が二手に分かれたかの様に、アーテムの刀と小太刀の両方を同時に弾いた。
「何だッ・・・!?」
突然のことに理解が追いつかない。
二刀を弾かれ、ガラ空きになったアーテム目掛けて、刀をくるりと回転させ、肩から入る縦斬りを仕掛けるシャーフ。
ハッと我に返ったアーテムは、刀と小太刀の二刀でそれを受け止める。
「くッ・・・!?」
攻撃を確かに受け止めた筈のアーテムの身体から、鮮血が飛び散る。
「何をもらったッ・・・!? 確かに防いだ筈なのにッ・・・」
後ろへよろめくアーテムへ更に追撃の一撃を打ち込んでいくシャーフ。
今度の一撃は、横薙ぎの一閃。
アーテムの目には、確実にその一撃が見えている。
どこから来たのか分からない一撃に備え、今度は片手でシャーフの攻撃を受け止めるアーテム。
「はッ・・・!」
刀身に映り込んだ“何か”に、漸くシャーフの攻撃のカラクリに気がついた。
それはまるで、シャーフの太刀筋を水面に反射する虚像が模しているかのように、対角線上に同じ斬撃が繰り出されているのだ。
つまり、右からの横薙ぎ一閃を放てば、左からも同じ横薙ぎ一閃が全く同じ速度で放たれているということ。
急ぎ反対の手に持った小太刀を振り上げると、見えぬ反対側からの斬撃を受け止めることに成功した。
「気が付いたか・・・アーテム。 鏡月は対象を挟み撃ちにするように俺の攻撃を、対角線上に模す技。お前の二刀流とは違い、両手に持つ必要がない・・・、故に力は分散しないッ!」
次々に斬撃を打ち込んでくるシャーフ。
アーテムはそれを受けるだけで精一杯になってしまう。
それどころか、刀と小太刀、それぞれに片手分の力しか込められないアーテムに対し、シャーフは一撃一撃に全力を注ぎ込めるため、アーテムは捌き切れなくなっていく。
「くそッ・・・! このままじゃ・・・」
「やはりお前は成長していなかったか? 仲間を集い、シュトラール様に争っていたようだが、結局は何も変わらない。 先生の甘い戯言では、正義を実現することなど出来ないッ・・・!」
シャーフは連撃を止め、技の構えに入る。
「月輝流・天満月ッ!!」
半円を描くように下から上へと刀を振り上げると、上にシャーフが作った光る半月が、下には鏡月の技が作った逆半分の半月が作り出される。
そしてシャーフが踏み込みと共に、剣道の面打ちを更に加速させ、大振りしたような打ち下ろしをアーテムへ繰り出す。
勿論、それも鏡月により挟み撃つように、つまり下からも同じ面打ちが襲ってくる。
「ぅ・・・ぉぉおおおッ!!」
即座に後ろへ飛び退くアーテムだったが、シャーフの繰り出す技から完全に逃れることは出来ず、剣先部分がアーテムを捉える。
後ろへ飛びながら、二刀で上下からくる斬撃を防ぐも力で押し負け、アーテムの身体は玉座の間、後方入り口の扉の方まで勢いよく吹き飛ばされた。
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その頃、城の上層部を目指して走るミアとツクヨ。
その道中には、先程相手にした空っぽの鎧がバラバラに散乱する現場を、いくつも目撃していた。
「何だ・・・一体誰が・・・?」
「アタシらよりも先に上を目指して向かった者がいる・・・。 そう考えるべきだろう」
だが、ミア達の前に現れたのは、バラバラになった鎧だけではなかった。
「ツクヨッ! 横の通路に何かいるぞッ!」
「あぁ! 影が・・・見えてるッ・・・よッ! 聖騎士殿ッ!」
剣を構えながら通路に入り込むと、剣を構えていた鎧の手から、その剣を弾き飛ばす。
「貴方は・・・“人”・・・ですか?」
外見からでは、鎧の中に誰がいるのか判断出来なかったため、一度言葉をかけるツクヨ。
暫くの沈黙があったが、彼の問いに鎧が答えることはなく、コレが答えだと言うように、別の武器を取り出し再び動き出す聖騎士の鎧。
「そうか・・・、なら遠慮はしないッ・・・!」
ツクヨは素早い踏み込みから鎧の片足を、足の付け根から吹き飛ばし、流れるように足と同じ側の腕を肩から飛ばすと、背後をクルっと周り、もう片方の腕も鮮やかに胴体から切り離した。
あっという間に片足立ちとなった鎧の足を、最後にツクヨは膝裏から蹴ると、鎧はバランスを崩し、床に倒れる。
「・・・見事なもんだな・・・」
「もう、要領は掴んだからね。 人が相手じゃなければ問題ない・・・」
そう言うと情け容赦なく、倒れる鎧の残された片足、足の付け根部分に剣を突き刺すと、まるでトロッコのレバーを倒すように剣で足を分解した。
「これでもう動けない。 さぁ、先を急ごう!」
こうして二人は何体かの、空っぽの鎧を相手にしながら城の上層部へと駆け上がっていき、先に上を目指した者がバラバラにしていった鎧の痕跡を辿る。
そしてその痕跡は、玉座の間付近で途絶えていた。
「・・・あそこで鎧の残骸が途絶えてる・・・」
「あの中に誰かが・・・?」
二人が中にいる何者かの存在を危惧していると・・・。
大きな物音と共に、扉を吹き飛ばし、何かが飛び出してきた。
「・・・ッ!?」
「何か出てきたぞッ! ・・・アレは・・・」
扉を突き破り、廊下の壁に激しく打ち付けられた人の形をしたもの、それはミアにとって見覚えのある顔だった。
「お前はッ・・・! アーテムッ・・・!? 一体何が・・・」
ミアが呆気にとられていると、突き破られた扉から、煙を巻き上げ突き進んでくるもう一人の人影が現れる。
「・・・ッ!? ミアッ!待って! もう一人いるぞッ! どうやら彼と戦っていたのはあの人・・・みたいだ」
ゆっくりとそのシルエットを二人の前に現したのは、聖騎士隊隊長最後の一人、シャーフの姿だった。




