怒涛の連撃
今度は動き出す前に、何体かの始末が出来た。シンの影による援護と朱影が投げ放った槍の回収及び投擲。引き続き朱影は槍の投擲を続けるが、着弾と同時に蜘蛛の子を散らすように動き回る小型モンスターを、全て捉えることはできなかった。
「クソッ・・・!これじゃぁまた振り出しだッ!」
「思った以上に親玉のモンスターの防御力が高かった・・・。まさかあれ程の一撃を浴びてもろともしないとは・・・」
「悪かったなッ!弱っちくてよぉ」
小型のモンスターはすぐに物陰に隠れ、その姿を眩ます。すると朱影は何を思ってか、天井に何本かの槍を次々に投擲し、突き刺していく。
「何を・・・?」
「こんなところに居たんじゃ探せねぇだろ。俺が動き回って上から探すから、お前は下から探せ」
そう言うと朱影は、まるでジャングルの蔦を手掴みで渡っていくように、一本目の槍を掴むと次々に渡っていき、水路の向こう側へと飛んでいく。その途中で仕切りに顔を動かし、小型のモンスターの動きを見つけると、器用に別の槍を取り出しては投擲していく。
だが、彼が向こう岸へ飛び降りようかとしたところで突然、水の中から大きな影が近づき、その巨体で朱影を襲った。
「しまったッ!狙われてるぞッ!!」
「分かってんだ・・・よッ!」
朱影は最後の手を離さず移動の勢いをわざと殺すと、大型モンスターの拡げる大口の真上で、天井に突き刺さった槍を引き抜き、そのまま口の中へと落ちていった。
「なッ何やってんだぁッ!?」
「外殻にダメージがねぇってんならよ・・・。お前のやって見せたように、直接内側にぶち込んでやるッ・・・!」
落ちながら朱影は、空中でくるくると身体を回転させ投擲の勢いをつけると、再び威力の高い一撃を大型モンスターの口の中へと撃ち放つ。
槍は舌に突き刺さり、動きを止める。そして朱影は、その槍を足場に口の中で更に攻撃を続ける。新たに出現させた槍を手に、口内をこれでもかと言うほど切りつけていく。
彼の予想通り、外殻とは違い血肉が次々に飛び散っていく。生臭い血の雨を浴びながら、まるで野獣のような鋭い目で全力を尽くす朱影。しかし、当然モンスターもそのまま大口を開きっぱなしにする筈もなく、すぐに小さな人間を丸呑みにしようと閉じる。
口が閉じるまでそれほど時間は掛からなかった。だが、口を閉じようとするモンスターの動きを察した朱影は、一瞬の判断で足に力を込めると、大きく上へと飛び、間一髪で脱出する。
天井に張り付くように着地した朱影の手には、別の槍が握られていた。彼の攻撃はあれで終わりではない。口を閉じた隙を突き、その顔面にもう一撃入れてやろうというのだ。
「チッ・・・!有効そうな場所がねぇな・・・」
通常なら、どんな生物でも弱点になり得る眼球を狙おうとしていた朱影だったが、このモンスターにはそれらしい部位が見当たらなかった。やむを得ず唇らしき場所を狙い、あわよくば口の中にと投げはなった槍は、予想通り貫通することなく突き刺さる。
が、その刹那。彼の槍は再びモンスターに吸い込まれるように沈み、その姿を消した。その着弾点の周りには、他の部位よりも濃い影が渦巻いていた。
シンは朱影の攻撃に合わせ、影を動かしていたのだ。自分では彼ほど強力な攻撃を放つことは出来ない。ならば彼の一撃を、最高の一撃にしてみせる。自分ではない、誰かを輝かせる影の功労者こそ、シンの望んだ戦闘のスタイルなのだ。
大型モンスターの口の中に、もう一本の槍が突き刺さる。着水したモンスターは、堪らず口を開けながら頭らしき部位を水中に向け、逃げるように潜っていく。
「逃すかよッ・・・!クソ野郎ぉッ!!」
「待てッ!深追いはッ・・・!」
シンの言葉は間に合わず、朱影は追い討ちを仕掛けようと水の中に飛び込み、大型のモンスターにもう一撃入れてやろうと後を追う。
だが、これが間違いだった。小型のモンスターを生み出せる能力を持ちながら、下水道に放った小型モンスターの数は、絶妙に多くもなく少なくもないといった数だったのだ。
何故大量のモンスターで物量作戦で来なかったのか。その答えは水路に敷かれた水の中にあった。
アサシンの暗視能力は朱影にも備わっており、暗い下水の中でも周囲を見渡せるくらいには視界が開けていた。そしてそこで目にしたのは、まるで彼が飛び込んでくるのを待っていたかのように彼を取り囲む小型モンスターの大群だった。
その口は、まるで人の口のように不気味な笑みを浮かべているかのように、彼を包囲していた。




