掃討
作戦通り、大型のモンスターにも気付かれず、後続の小型モンスターに騒がれることなく、出だしはかなりの好調だった。この調子で数を減らしていければ、残りは大型のモンスターとの単騎戦に持ち込める。
「驚いた・・・。こんなに見事に決めるとは・・・」
アサシンのクラスにとって、静かに相手を仕留めていくのは得意分野だが、それはあくまで人間や弱点の分かる相手に限られる。中には相手の弱点を見破るスキルを持つアサシンも、シンがWoFをゲームとしてプレイしていた時にはいたが、シンも朱影も相手の弱点を見破る能力を持っていない。
それに何より、今回の相手である不気味な姿をしたモンスター達は、一見して弱点と呼べるものがあるのかさえ分からない。
よくぞ一撃で屠れる物だと、シンは朱影の腕前に感心してしまっていた。引き続き彼は、シンの仕掛けた影のトラップに入り込んでいくモンスターを見送り、飛び出したところをまるで鋭い弓矢で射抜いていくかのように仕留めていく。
「さぁて、もうすぐいなくなりそうだぜ?」
「もうそんなに・・・!?これなら大型の奴だけを相手に出来る・・・!」
着実に数を減らしていき、遂に二人は小型モンスターを全て始末してしまった。残るは水中にいる大型のモンスターのみ。その巨体は隠し切ることなど出来ない。
それまで水中の方に注視していなかったが、よく見れば水面に波が立っているのが窺える。だが、小型と違いどうやって戦ったものか、二人は戦闘のビジョンが浮かばなかった。
「残すはあのデケェ奴だけだ。速攻で畳み掛けてやりゃぁいい!」
「確かに・・・。アンタの力があれば、それも可能か・・・」
あれだけの技と技術を見せられれば、朱影の言うように二人で畳み掛ければ勝負がつきそうに思えてくる。だがそんなにあっさりいくだろうか。それに小型モンスターの召喚も、あれで終わりとは限らない。
やはりここは、アサシンの流儀で一瞬の内に仕留める方法を探るべきではないかと、シンの頭の中で思考が巡り躊躇わせる。
「なぁ、アンタは余力をどれだけ残しているんだ?本当に仕留め切れるだけの力があるのか?」
「あぁ?疑ってんのか、俺の力を」
「そっそういう訳じゃない!ただ・・・もし仕留め切れなかったら・・・」
シンの発言に虫の居所が悪くなったのか、彼は大きなため息を吐きながら槍を出現させ、再び小型のモンスターを貫いた時のように、手首の周りでくるくると回し始める。
「何だよ。それなりに力は見せてやったつもりだったんだがな・・・。あれだけじゃ不服かよ?」
朱影の気性の荒い部分を見たシンは、これ以上彼の機嫌を損ねるのはマズイかもしれないと、出来るだけ彼の案を尊重することで落ち着けようとした。
「・・・分かった。出来るだけ一気に畳み掛けよう。ただ、俺も加勢するがそれは許して欲しい」
「構わねぇぜ?俺の邪魔にならなきゃな・・・」
小馬鹿にするように、嫌な笑みで答える朱影。槍の回転を止めて水中へ視線を向けると、獲物を探す漁師のように水面の変化に集中する。
そして身体の向きを変えたのか、僅かに波の動きが停滞すると、小型のモンスターを仕留めていた時とは明らかに長さも太さも違う槍を、同じ速度か或いはそれ以上の速さで投げ放った。
静かに地を踏み締めた足からは、まるで筋肉の隆起が伺えるかというほど周りの空気をピリピリとさせていた。一度右に大きく捻った身体を勢いよく左に振り絞り、振り上げた腕を目にも止まらぬ速度で振り抜く。
その姿は宛ら、WoFの世界の聖都で戦ったイデアールのグングニルを彷彿とさせた。あまりに強烈に溜めた力に、下水道内の空気が震え、彼の手元の空間が歪むほどだった。
大砲のように撃ち放たれた朱影の槍は、大きな水飛沫を上げながら、水の中に潜む怪物を捉える。
「ギャァァァーーーッ!!」
その声は怒号か悲鳴か。鼓膜を振るわさん程の轟音で水路に響き渡るモンスターの声。水中から飛び上がったその巨体には、朱影の放った槍が突き刺さっていた。




