四散する鎧の謎
現在、聖都ユスティーチ国内においての戦況。
聖都と市街地を隔てる城門前、イデアールとシンの戦闘は、前半のイデアールが完全武装によるダメージの無効化、及び軽減の効果で体力を温存、終盤の凌ぎを削る戦闘の末、僅かな差でイデアールに軍配が上がる。
全身に傷を負い、聖都の階段に沈むシン。
そしてイデアールの姿はそこにはなかった。
聖都内にて、シュトラールの思想に対立するルーフェン・ヴォルフの隊員達を、“裁き”の光にて殺害するリーベ。
それを目撃した、ミア・ツクヨ・ナーゲルを口封じのため死に至らしめようと、戦闘に突入。
死闘の末、ナーゲルが戦闘不能になるものの、辛うじてミアとツクヨ側の勝利となる。
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ナーゲルを抱えるツクヨと、負傷を負ったミアはその足で聖騎士の城にいると聞いた、シャルロットの元へと向かう。
「だいぶ時間を食ってしまったな・・・。 シャルロットはまだいるだろうか・・・?」
聖都で会った聖騎士から、シャルロットが城にいると聞いたものの、モンスターとの戦闘やリーベとの死闘を繰り広げたお陰で、もし城にシャルロットが居たとしても、既に任務や救援で居ない可能性が大きくなってしまった。
「その時はその時だよ。 いなかったら聖騎士の人達に聞いてみよう・・・、何か別の情報が得られるかも知れない」
「そう・・・だよな」
ツクヨは、考えていても仕方がないと、ミアを促し、城への足取りを早める。
そして、城の前まで来ると、二人は何も言わずとも何かの異変を感じ取る。
「人の気配が・・・しない? もうみんな避難したからか?」
「いや・・・、それにしてはおかしい。 聖都内や市街地ではまだ、あちこちで戦ってる様子がある。 逃げ遅れた人や騎士達が、城に来ないとも限らない。 ・・・それなのに城を無人にするなんて・・・あり得るかい?」
ツクヨが状況を確認していると、城の上層部で鋼がぶつかり合うような音が僅かに聞こえてくる。
ミアとツクヨはその音を耳にすると、もしやと思い顔を見合わせる。
「・・・ッ!?」
「・・・急ごうッ!」
聖騎士のリーベと戦うような状況を経た二人にとって、聞こえてきたその音は、嫌な予感しかさせない音であった。
大きな戦火も上がっていない城内、聖都にいたようなモンスターが相手なら外壁が壊れていても不思議ではない。
と、なれば自ずと答えは見えてくる。
人間同士で戦っているのだと。
そして戦うような、対立している組織など一つしかない。
逸る気持ちが、二人の足を前へ前へと走らせる。
城内に入ると、その異様さは更に強まる。
開けた城内で、人の気配もしなければ影もなく、ただただ薄っすらと聞こえてくるのは、先ほどからしている鋼の音だけ、それだけが城内にあるモノだった。
「誰も・・・いないのか・・・?」
「上層へ急ごうッ! ・・・シャルロット・・・無事でいてくれ・・・ッ!」
ミアが先行して階段を駆け上がると、バラバラに壊れた鎧が廊下に散らばっている光景を目にする。
「なッ! ・・・なんだッ・・・コレはッ!?」
「聖騎士の鎧だッ・・・。 中の人は一体・・・」
散乱する鎧の一部を手にしてみると、バラバラにされている割にはやけに綺麗な状態であることに気がつくミア。
「破壊された・・・って感じじゃないな・・・」
ナーゲルを抱えていて、手が離せないツクヨは、鎧を手にしたミアが何かに気がつく様子を目にする。
「どういうことだい・・・?」
「分解された・・・って感じか・・・? 自分で脱ぐにしても、わざわざこんなに細かく分解する意図が分からん・・・」
その異様な光景から、何も知らないまま向かうのは危険だと感じたツクヨは、コレは気にするべき事柄だと判断する。
「ミア・・・このままにしておくには危険な気がするッ・・・。 もし、これが敵の能力だとするなら・・・?」
「分解する能力・・・だと?」
「私にはこの世界の知識がない・・・。 だから、そんな発想になっているのかも知れないが・・・。 君の知識から分かることはないかい? 予想でも何でもいい・・・何か・・・」
ツクヨの言葉に、少し考え込むミア。
WoFの世界において、鎧を綺麗にバラバラにできるクラスやアイテムなど、現時点において思いつくものを、片っ端から考えた。
「分解・・・。 すぐに思いつくのは錬金術による分解だな・・・」
「錬金術・・・、 えッ? 現実世界にもあるアレかいッ!?」
錬金術というものは現実世界においても、様々な文献や資料、フィクションや創作物に用いられる人気の題材。
有名どころだと、科学的手段を用いて卑金属を貴金属に変えようとする研究や、人体の不老不死に関する事柄などはよく耳にするだろう。
WoFの世界でいう錬金術の分解とは、スキルの程度にもよるが簡単なもので言えば、今ミア達が目にしている鎧の分解なんかは、錬金術士のクラスにつく者であれば、それ程難しいことではない。
逆に、高レベルのスキルであれば、物体を原子レベルにまで分解し、組み合わせを変えて再度構築することによって別の物やアイテムへと変えることができる。
「このくらいの分解であれば私でも可能だ・・・。 あとは機工士や発明家のクラスであれば、鎧の分解が可能だろう」
要するに組み立てられた物の分解であれば、然程技術はいらないということだ。
「・・・これを言い出したらキリがないが、あとは巧みな攻撃スキルによる分解・・・。 剣で部品を外す、弾丸でネジを飛ばすとか・・」
ミアが言った通り、攻撃のスキルによる分解まで視野にいれてしまえば、ほぼ全てのクラスに可能なこととなってしまい、見当がつかなくなる。
「でも今回の例では、もう一つ条件があるよ。 ・・・それは短時間で分解したってことだ」
この動乱の最中、時間をかけて鎧を分解するメリットを、ミアもツクヨも感じていなかった。
「ミア・・・そもそも構築されていなかった場合って、考えられるかい?」
「ん? ・・・どういうこと?」
「何かの力で、鎧が鎧の形を保てなくなったとか・・・。 魔法だってあるんだろ?」
それは意外な盲点だった。
ミアは物理的な方法でばかり考えていたが、ツクヨの言っていることはつまり、鎧の部品が魔力によって鎧を象っていただけで、魔力が途絶えたことによりバラバラになったという意味だろう。
「なるほど・・・物自体に力を宿す・・・傀儡師や妖術師、陰陽師に念動師・・・そこら辺か・・・」
「なんだか日本じゃ聞き馴染みのあるようなクラスが多いね・・・」
そしてクラスを絞ることで見えてきたものがあった。
それは、物に力を宿すのに準備が必要なクラスが多いということだ。
「なるほど、見えてきたな。 これは物理的なクラスの者の仕業じゃなさそうだな」
中身のない鎧で、尚且つバラバラになっていることから、二人はだいぶ多くの情報を得ることができた。
知り得た情報を確認していると、二人の背後から何者かが現れ、気配もなく手にした剣を振り下ろす。
「・・・ッ!? ミアッ!!」
ツクヨは忍び寄る影に気づき、咄嗟にミアを押して、振り下ろされる剣の軌道上から彼女を外した。
「ッ!?」
そして体勢を整えた二人の前に姿を現したのは、今正に調べていた鎧姿の聖騎士だった。