来る時に備え
こちらから動くことを避け、相手の動きにいつでも対応できる準備を整える方針で、一行はそれぞれの支度を始める。
慎はまだ、現実世界での戦闘に慣れていないと言うことで、彼らの足となる車の運転を任された。
ここで疑問に上がるのは、自動で目的地へ向かっているのなら、わざわざ手動に切り替える必要はないのではないかということだろう。
しかしそれは、ある程度の自然現象等の影響を踏まえた範囲だけの自動運転であり、事故や災害、他者による妨害などのケースは含まれていないのだという。
つまり、不足の事態に直面した場合、自動運転は無効となり、手動による運転か新たな情報のアップデートが必要となるようだ。
更に言えば、情報のアップデートつまり更新を行う場合、現時点の道路状況などのリアルタイムな情報をネットワーク上にあげる必要がある為、ハッカー集団や今回のアサシンギルドを襲撃してきた者達のような連中に逆探知され、ハッキングされる恐れがあるのだという。
「・・・仕掛けてきませんね」
「何かを待ってるのか、或いは俺達が目標地点に向かうのを待ってるんだろう」
朱影の言う目標地点という言葉に、慎は緊張を紛らわす為に質問をした。相手側の目標地点が、慎達の目指す東京のセントラルにある電気施設でないことは分かっていた。
それでは一体、どのような場所で相手は仕掛けてこようとしているのか。当然彼らがそんなことを知るはずはない。だが、少なくとも戦闘経験が慎よりも多いであろう彼らの予想が聞きたかったのだ。
「目標地点・・・?それは一体どんな・・・」
「詳しい事は分からん。だが俺なら、逃げ場のないところで奇襲を仕掛けるだろうな・・・」
「僕もそう思います。なんなら、その逃げ場のないところに、少なくとも数人編成の部隊を配置します。戦力に余裕があるのなら、それこそ複数部隊・・・」
高速道路は基本的に高い位置に作られることが多い。その為、行く手を阻まれればそれすなわち、逃げ場のない場所ということになる。
更に言えば、彼らのいう逃げ場のない場所は恐らく、最も高度の高い位置。道路が破壊された際に、落下で全滅させられるような場所を目標地点にしている可能性が、非常に高いと言える。
「逃げ場のない場所・・・。高速は既に逃げ場がないんじゃ・・・?」
「道を塞ぐなんてので終わる訳がねぇよ。俺達を殺すにしろ捕らえるにしろ、抵抗できないような状態にしてくるだろうな。そう考えた時に手っ取り早いのが・・・」
「一番高度の高いところで道を断つ・・・でしょうね」
「そうだ。爆破って手段も考えられるが、煙に巻かれて見失うなんて失態をしかねない。その為に周囲に他の仲間を配置し、凡ゆる方向から俺達の行方を追えるようにしてるんじゃねぇかと思うんだが・・・」
後をつけてくる者達だけが全てだと思うのは浅はかだろう。朱影や瑜那のように、やはり他の仲間が待ち伏せしていると考えるのが妥当。
つまり、慎達はこれから敵が待ち伏せしている罠の中へと突入していくことになる。
「まぁ、初めから分かってたことだ。敵さんが何もしねぇで俺達を素通りさせる筈がねぇってことぐらい。後はその上で俺達がコソコソするか派手にいくかの違いってだけだ」
「やっぱり後者じゃねぇスか!?後者だろ!?」
「どの道、相手の包囲網を気付かれずに抜けるのは不可能でしょうね・・・。我々に気付かれぬ内に、近隣のアジトさえも見つけてしまうような相手です。見逃してくれるとは思わない方がいいでしょうし・・・」
戦いは避けられない。これから始まるであろう命のやり取りに身体が強張る慎と、事を静かに収めたかった瑜那。
それとは対照的に、火照る気持ちが溢れ出ると言わんばかりの宵命と、休憩を挟み俄然やる気になる朱影。
馳せる気持ちに胸を高鳴らせていると慎達を乗せた車は、いよいよ高速道路上で最も高度のある位置へと差し掛かろうとしていた。




