再会と新たな出会い
現実世界で出会ったその男は、他人には理解されないものに悩まされていた。それは彼にしか感じ取ることが出来ず、誰に話しても伝わることはない。
次第に彼は誰にも話さなくなり、相談することもなく孤立していった。本人も煩わしい思いをするくらいなら、いっそその方が楽だった。
誰にも理解されないならそれで構わない。どんな手を使っても彼は、彼の人生を狂わせたその原因を突き止めようと決心する。
捕まえるべき対象の犯罪者達に交渉を持ちかけ、協力を得ることで技術を身につけた。そして改造を施したドローンを使い、彼の感じる気配をより強調させることに成功した。
見えぬ何かは確実にそこにある。男は自らが担当する事件の現場にそれを持ち込んでは、独自の調査を行っていた。
そんな折、不自然に事件現場へ現れた人物、麻倉慎と出会う。
彼が何者であるのかは分からないが、彼の存在は男の追い求めているものに関与している可能性が高い。何とか話を聞けないかというところで、その存在は別の何者かに奪われてしまった。
やっと掴んだ手掛かりだったのだが、痕跡は残っておらず何処へ姿を消したのかも分からない。ただ、男の中に希望も見えた。彼以外にも同じような境遇にあっている者がいるかもしれない。
そしてその繋がりが、世界で人気のVRゲームWoFであることも。
目の前に居たはずの明庵は姿を消し、何者かに背後から引っ張られた慎は、見知らぬ屋内にいた。瞬きをするように一瞬の出来事で、脳の理解が追いつかない。
自分の身に一体何が起こったのか。周りを見渡すも、照明が付いておらず、薄っすらと壁のようなものに囲まれていることくらいしか分からなかった。
だが、牢獄や廃墟といった屋内とは違った印象を受けた。似たような雰囲気を、慎は一度経験している。その屋内はまるで、初めてアサシンギルドに訪れた時の感覚によく似ていたのだ。
「・・・ここは？出雲さんは？俺は一体・・・」
ぼんやりとする頭で、あの時一体何があったのかを順を追って思い出そうとする。しかし不思議と恐怖はなかった。普通、突然見知らぬところへ連れて来られれば不安になるものだろう。
僅かに感じたアサシンギルドの気配が、慎の恐怖心を和らげたのかもしれない。少なくとも、自身に危害を加えて来るような者の犯行ではない。
そして、いくつかの足音が近づき、慎がいる薄暗い部屋の扉を開けた。それほど強くない光を背に現れたのは、慎をアサシンギルドへ導いた白獅と見知らぬ三人の姿だった。
「白獅・・・？」
「すまなかったな慎、暫く連絡が取れなくて。お前があっちへ行ってから、こちらでも色々あってな。お前のログに気づいたのはつい最近だったんだ、許してくれ」
WoFの世界から何度か連絡を取ろうとしていた慎。ゲーム内のシステムとは別の手段で現実とのやり取りを可能にする、白獅の開発したテュルプ・オーブ。
しかし、肝心なところでその機能が使えず、ロッシュやロロネーといった海賊達の戦いでは、未知の攻撃に苦戦を強いられ、あわや命を落としかねないs瀬戸際の激戦を繰り広げた。
故障だと思っていたが、白獅の言葉から如何やら慎の知らぬところで現実世界でも良からぬ動きがあったようだった。
「いや、それはいいんだ。それより・・・」
「おっと。重ねてすまないが時間が惜しい。話は移動しながらにしよう。お前から送られてきたデータにも興味深いものが多くあった。すぐにお前に渡したオーブと記録を参照し分析したい」
「おい、白獅。こいつが何者なのか、俺達に説明してくれないのか？」
「それもおいおいな。まずは慎の目に移植したオーブのデータを確保したい。また何があるか分からないんだ。失う前にバックアップをとるのは基本だろ？」
白獅に強い口調で言葉をかけた長身の男。慎にとっても彼らは初対面であり、何者かも知らされていない。だが、おおよその検討はつく。白獅と共にいるということは、彼らもまた別世界からこちらへやってきたアサシンであるか。
或いは慎達と同じく、WoFの“異変“に巻き込まれ、現実とWoFの世界を行き来できるようになったユーザーであるかのどちらかだろう。
ここが何処なのか、何故明庵との対面を遮ってまで慎を移動させたのか。何の説明もないまま彼らは部屋を後にし、白獅に連れられアジト内の薄暗い通路を歩いていった。
