痕跡を探して
引き続きアジトの捜索を行う三人。通路や各部屋には、争いの後が生々しく残っている。転送装置を使ったとはいえ、無傷での脱出劇とはならなかったようだ。
所々に血痕が付着している。中には引き摺ったようなものもあり、大きな怪我をしたことが伺える。
サスキや白獅の報告から、襲撃してきた相手はノイズ一人と思われる。しかし、これだけ色んな場所に痕跡があると、本当に一人の犯行かどうか怪しく思えてくる。
「なぁ、本当に敵は奴一人だったのかよ?」
「え?えっと・・・そうですね、報告ではそうなります」
「でもよぉ、流石にどっかで暴れりゃぁ他の連中だって逃げるか戦うかするだろ?なら、戦闘の痕跡はこんなに散らばらねぇんじゃねぇか?」
ベルシャーが疑問に思っていたことを、二人の少年の片方が代弁した。そうなってくると、考えられるのはノイズが武器、或いは相棒のように使っていた機械蜘蛛の仕業とも考えられる。
それに、ノイズは実体の壁やデータによって作られたアジトの床を透過できる能力がある。本人が素早い身のこなしで、片っ端から襲いかかったとも考えられるが、彼の能力を共有する武器や道具も透過できるとなれば話は別だ。
ベルシャーですら、その気配を察知することができなかったノイズの道具。生物とは違い無機質な存在が故、気配や殺気を読み取るといった技術が通用しない相手。
それこそ頼りになるのは聴覚や視覚による手段に限られてしまう。その上相手は機械。高性能なカメラやデータによって彼らの温度や微量な音まで聞き分け、先手を打ってくる。
アサシンギルドのメンバーの中でも、ベルシャーはそういった所謂野生の感が特に働く方だったのでが、それでも至らぬだから相当なものだろう。アジトのあちこちに鋭利なもので抉られたような痕跡もある。
ベルシャーの見た一機だけでないとするならば、考えられない話でもないだろう。しかし、あれほど高度なものをどこで手に入れたのか。ノイズ本人が作った代物ではなさそうだが。
「どうだ、お前ら?何かそれらしきモンは見つかったかよ?」
確かな手がかりを掴めぬまま、三人は最後の部屋へと辿り着く。そこは白獅らが移動に使った転送装置が置かれている場所で、彼らを狙う“敵“が調べるとしたら最も重要視する場所だ。
「ここまでは何も・・・」
「そうですね、ここまでは。ただ、相手側もこちらの移動手段には気がついていた筈です。何かしらの痕跡が見つかるとしたら・・・」
二人も察しているようだった。ここまで見つけられたのは、物理的な痕跡に過ぎない。そこから推測出来るものには限りがある。
ならば期待できるのは、端末へのアクセスによるデータ上の痕跡だ。目に見える以上の情報を得ることのできる可能性が望める。だが果たして、彼らの期待通りに手掛かりは見つかるのだろうか。
戦闘であれだけキレのある動きやセンスを見せた男ノイズ。端末へのアクセスは恐らく、あの機械蜘蛛がしている筈。物理的な面は、本人であるノイズが。細かい面やシステム面に関しては、機械蜘蛛が。
互いの足りない部分を補うように組んでいる、或いは暴走しがちな男を制御するために組まされているのか。
何にせよ、装置にアクセスし調べれば分かることだ。三人は早速転送装置の端末へアクセスし、アサシンギルドの者ではない誰かが彼らのデータベースへ侵入したどうかを調べ始めた。




