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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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憧れのその先へ

 「会場にお越しの皆々様。そしてレースを完走なされた参加者の皆様。大変長らくお待たせ致しました。フォリーキャナルレースの総合得点に関する集計が終了しましたので、これより各賞毎の順位から発表させていただきます」


 すっかり日の暮れた夜の港町に、星々の光のような煌びやかな照明が灯る。レースを完走した海賊や参加者は、その疲れと鋭気を養いながら、会場に来賓している観客と同様、最も楽しみにしていたであろう今回のレースの覇者がどこの誰になるのか。


 酒も回り早る気持ちを抑えきれずにいるといった様子で、歓声を上げながら発表を待った。


 各ポイント毎の順位が順番に発表されていく。レース中に組み込まれた財宝やアイテムの入手量、レア度を加味したトレジャーハンターや、モンスターや賞金の掛かったライバル海賊を討ち取った数など、上位三名または団体が次々に発表され、会場に設けられたステージの上で賞金や贈呈品などを受け取っていく。


 学生の時にあった賞状の授与式や卒業式のような光景に思えたが、特に異例と感じたのは、ステージへ上がる人物達がほぼ変わらないといったところだろう。


 どうにも、このレースでは当たり前の光景らしく、殆どが三大海賊であるエイヴリー、キング、チン・シーの三組がその名を呼ばれるばかりだった。


 それでも会場が盛り上がっていたのは、今回はどこの海賊団が一位になるのかという予想が立てられていたからだ。それこそ、三大海賊の順位に多額の金が賭けられるほどだった。


 現代でいう博打やギャンブルといったものと思っていいだろう。予想が当たれば会場で金を賭けた者であれば、多額の金額を入手することも夢ではないロマンなのだという。


 賭ける順位の項目も幾つかあるそうで、今回特に大きく荒れたのは言うまでもなく到着順位だった。


 何しろ、初参加であるシンが二位に入賞しており、唯一エイヴリー海賊団が賞を逃した項目として、大いに注目を集めていた。当然、的中させられた者などいなかったが、歴史的出来事にシンへの歓声と喝采は例を見ないものとなった。


 そしてもう一つ注目を集めた発表があり、それがレースの中で特に活躍を見せた船の紹介だった。無論、観客達の歓声を大きく集めたのはエイヴリー海賊団の戦艦や、見た目が派手なジャウカーンの小型船だ。


 しかし、この発表の中にも到着順位を大いに狂わせたシンと同じく、観客や他国から来賓した重役達の目に止まる注目の乗り物があった。それこそ、このレースに命を賭けた一人の少年の想いが込められた、異例の乗り物である水上ボードだった。


 何より、到着順位を争った四人がこぞって同じ乗り物に乗っていたのだから、当然の結果といえば当然の結果だろう。


 幸か不幸か、或いは仕組まれていたことなのか。異例のレイド戦となったリヴァイアサン戦後の血に染まった海。そこからいち早く抜け出せたのは、ツバキのボードを除いて他にいないのだから。


 大量に生産することで、海軍にも用いられるであろう技術が見込まれ、ツバキの期待した通り彼の名を大きく広める結果となったのだ。何台ものカメラが彼に向けられ、フラッシュの中ボードの特徴や製造の話、レースの感想などを求められなかなかステージから帰ってこなかった。


 その様子は、レースの開催地であるグラン・ヴァーグにも映像で伝えられていた。いつもと変わりなく、予約で埋め尽くされた仕事をこなしていくウィリアムは、モニター越しに聞こえてくる記者の声と、我が子同然のように育ててきたツバキの声に耳を傾ける。


 涙ながらに語るツバキの姿に、顔を拭うウィリアム。彼の頬を伝うものは、汗であるのか涙であるのか。それは本人にしか分からない。


 そしてインタビューの最後に少年は、恩師であり親代わりでもあるウィリアムにコメントを残した。一匹のまだ雛だと思っていた鳥が巣を離れ、大空へと飛び立っていくように、少年もまた弟子ではなく一人の造船技師として、憧れのウィリアムに並び立つ存在になるのだと、宣戦布告をした。


 「造船技師、ウィリアム・ダンピア!俺はもうひよっこじゃねぇ。一人の技師としアンタを越え、世界一の造船技師になってやるッ!!」


 少年の宣言は、その場にいた者達や中継を見ている者の心に残り、いずれ偉業を成し遂げる新たな伝説となる技師の誕生の、生き証人となった。

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