本能による一撃
エイヴリー海賊団の後ろ盾を得たシン達は、少しでも貢献度を稼ぎ、ダメージを出す為にリヴァイアサンへと近づく。彼らとて、上位入賞を諦めている訳ではない。ツバキとの約束に、レースで注目を集めるというもあるので、彼の技術力を知らしめる活躍をしなければならない。
「さて・・・、私は狙撃で攻撃することが出来るが、二人はどうする?ツバキのボードも、一台取られちまったんだろ?」
「面目ない・・・。貴重な移動手段を・・・」
シンは自分の失敗でボードを失ったという責任を感じていた。だが、ミアやツバキ達もそれを責めるつもりはなかった。むしろ、ツバキに関しては良くやったと褒めていたくらいだ。
「なるほどな、それでか。キングの奴が、あの怪物の周りを走り回ってるのは・・・。だが、俺にとっては好都合だぜ!これで優勝候補の海賊団である、チン・シーんとこのハオランと、シー・ギャングのボスであるキングに俺の作った乗り物が渡ったんだからな」
レースへ参加する海賊団の中でも、特に有名で二人に使ってもらえるのであれば、注目度は間違いなく上がる。ましてや、それでゴールまで辿り着いてくれれば、自ずと製作者であるツバキの名も知れ渡ることになる。
「私もある程度の距離ならば、遠距離攻撃が可能だ。まぁ、あれだけ大きな相手に対してダメージが与えられるのかと問われれば、素直に頷毛ないけどね・・・」
「俺の投擲も、申し訳程度の攻撃になるだろうし・・・。貢献度を稼ぐなら、やはり接近戦になってしまう」
「それならシン、君がもう一台のボードを使うと良い。ツバキも構わないよね?」
ツクヨの提案に、ツバキは二つ返事で首を縦に振った。彼の中では、また作れば良いくらいの考えなのだろう。それに、知名度を上げる目的は、半ば完了したようなもの。更にシン達が上位入賞を果たせば、無名の者達を上位へと食い込ませた乗り物として、様々な者達がツバキの技術を求めてやってくるに違いない。
「いいのか?また失ってしまうかもしれないが・・・」
「おいおい。まさか同じ失態は繰返さねぇだろ、流石に」
冗談で言ったツバキの言葉が、シンの胸に突き刺さる。だがそれ以外に方法もなければ、ただこのままお荷物になっている訳にもいかない。シンは意を決し、再びボードを使ってリヴァイアサンの元へ向かうことを決める。
「無線機を持っていけ。そう遠くに離れない限りは、これで連絡がつく。それに、マクシムを救った時みてぇに連携も取りやすいだろ?」
シンはツバキの言葉に、一瞬疑問を感じ呆気に取られた。それは何も、ツバキがシンを心配する様な態度をとったからではない。そもそもシン達は、WoFというゲームの機能に備わっているメッセージで連絡が取れるからだ。
無論、それも万能なものではないが、見えるくらいの範囲であれば何ら支障はない。シンが驚いたような反応を示したのは、あたかもこの世界にいる者であれば備わっている機能だと思い込んでいたからだった。
忘れてしまいがちにはなるが、シン達とこの世界の住人では住む世界が違い、彼らには分からない特殊な機能も幾らか存在するのだ。
「ん?どうしたよ、ホラ」
適当に投げてよこした無線機を受け取ったシンは、ふと我に帰りツバキにお礼を言って、ボード手にして甲板へと向かう。すると、彼の足音の他にもう一つ、後を追うように迫る足音があった。
「シン、さっきはあぁ言ったが、無茶だけはするなよ?ツバキも言っていたが、ボードはまた作ればいいんだから。命を最優先してくれ・・・」
「分かってる。もう馬鹿な真似はしないよ・・・」
彼の脳裏に過ったのは、ヘラルトが真っ黒な穴に飲み込まれていく瞬間だった。直接的な死を見せつけられるよりも、何処か不気味さを残す別れが、妙にシンの心の中に強く残っていた。
シンはミアに別れを告げ、荒れる大海原へと身を投じる。船の外は、これまでよりも更に激しさを増している。それはリヴァイアサンが自我を失い、生物としての本能で暴れ回っているからだ。
そこに知性はなく、ただ有り余る魔力をぶつけるように放っているだけだった。だが、計算された攻撃よりも野生的な今の方が攻撃が読みづらく、思いのほか苦戦を強いられていた。
そんな中、上空でシンを襲っていた水圧のレーザーが、人間側の最大戦力である、エイヴリーのレールガンに向けて放たれる。力任せに放たれる魔法は、自我を失えどその鋭さを失うことなく、レールガンの砲身を掠めていった。
「マズイッ・・・!レールガンは無事かッ!?」
「砲身やエネルギーの放出に問題はありません!しッ・・・しかし、砲身の可動装置がやられ、狙いがつけられなく・・・」
リヴァイアサンの攻撃を防ぐ術はなく、水のレーザーはエイヴリーの戦艦をレールガンごと撃ち抜いたのだ。そして意図せず放ったその一撃は、彼らの最大火力を誇る武器に深刻な大打撃を与えたのだ。




