ロバーツのクラス
不可視の魔の手は、贖罪人の執念の前に明るみへと引き摺り出された。悍しい姿を晒した獣は、スポットライトを浴び、犯した罪の証拠を叩きつけられた罪人のように戸惑う。
唯一にして信頼する心強い武器を取り上げられてしまった獣に、処刑人の鋭い視線が向けられ、その息の根を止めた。
「チッ・・・!やはり最初に殺るべきはアイツか・・・」
ウォルターのやりたい事を悉く潰すのは、彼と最も長い時間を過ごしたアンスティスだ。互いの能力や性格をよく知っている筈の二人は、この戦いにおいて弱点を知っている者同士の天敵となっている。
「これは・・・?ウォルターの爆弾か?」
「この船で戦うのであれば、奴の見えない爆弾への対策は既に打ってある」
「じゃぁ狙われるとしたらアンタだな。俺がアンタを守ってやろう。ロバーツとやら、お前は奴を討ち取るに値する刃となり得るか?」
攻撃よりもどちらかというと防御に自信のあったダラーヒムは、ウォルター戦において要となるアンスティスの護衛を買って出る。ロバーツもウォルターの事を知らない訳ではない。
実際にリヴァイアサンとのレイド戦の地で、デイヴィス達の到着を待つ間、共にリヴァイアサンの猛攻を防いでいた。しかしそこでは、ダラーヒム達に披露したような不可視の爆弾は見せなかった。見せる必要がなかったのだ。
大きな大戦であったり、大勢で戦う敵が大型のモンスターである場合、見えない爆弾は帰って味方の邪魔になってしまう上に、隠す必要性もないからだ。ロバーツはウォルターのクラスである、レヴェリーボマーの能力については知っている。
だが、その全てを知っている訳ではない。あくまで一緒にいたのは、冒頭のレイド戦のみ。それ以前や、デイヴィス海賊団解散後のウォルターについては、アンスティスの元で右腕のように働いていると言うことぐらいしか知らない。
「どうだろうな・・・。善処はするが、確実に奴を仕留め切れる保証はない。それに奴のレヴェリーボマーの能力についても、全て把握している訳じゃないからな・・・」
「それなら僕が教えよう。ウォルターがどこまで狡猾かは分からないが、知ってることの範囲でアドバイスを出していく」
「そう言う事なら・・・。では早速、こいつらを使って奴を惑わせるとしようか」
そう言うとロバーツは、アンスティスの薬剤で無力化した爆弾蜘蛛を手にし、思わせぶりな表情をする。これまでの戦闘で、一切自身のクラスを活かした戦い方を披露してこなかったロバーツ。
だが、彼の能力は目に見えない形で既に使われていたのだ。爆弾蜘蛛を鷲掴みにし、顔に近づけると目を合わせながら、赤子を寝かしつける子守唄のようにそっと囁く。
「“術者の元へ帰り、起爆しろ“」
そしてゆっくり爆弾蜘蛛を床に下ろすと、まるでロバーツの命令を忠実に実行する機械のように、ウォルターの元へと帰っていく。その間ロバーツは、アンスティスにある確認をする。
「お前の薬品を浴びたアレは、再び爆弾として機能するのか?」
「ある程度この場から離れれば可能だが、既にこの船には僕の薬剤がばら撒かれている・・・。後は時間経過だろうか。奴の周りには薬剤を撒いていないから或いは・・・」
「それが聞ければ十分だ。要するに奴にも“いつ爆発か分からない“という事だな?」
静かに頷くアンスティスを見て、ウォルターの元へと戻って行った爆弾蜘蛛の方を見るロバーツ。アンスティスの言うように、まだ爆発は起こっていないようだ。
依然として三人へ向けて爆撃を行うウォルター。狙いはアンスティスのようだが、悉く攻撃を防ぐダラーヒム。やはり防御に徹した彼の守りは堅牢で、思うように的へ攻撃を当てることが出来ない。
そこへ、ロバーツの差し向けたウォルターの爆弾蜘蛛が、彼の視界に入り込む。何故与えられた役目を果たさずにいるのか。そもそも何故戻って来たのか、一瞬頭の整理が追いつかず、敵の策略かと身構えるウォルター。
「ッ・・・!?」
爆弾の不発に加え、不可視の解除と立て続けに能力を看破されたウォルターは、これもアンスティスの策略かと疑ったが、彼にそのようなことができるはずがないと、ふと我に帰る。
では一体誰の仕業か。ダラーヒムとアンスティスと戦っていて、二人のメインとなる武器と戦い方は把握したつもりだ。ならば消去法で一人しかいない。彼を追うように後から戦場に到着した、デイヴィスの計画を現実のものへと押し上げた首謀者であるロバーツだ。
「ロバーツの奴か・・・?一体何をしやがった・・・」
デイヴィスの元から離れ、解散後も彼らとあまり交流を持たないようにしてきたウォルターは、デイヴィス海賊団時代のロバーツしか知らない。その後の彼がどんな生き方をし、何をして来たのか。
要点を絞って言うならば、ロバーツが一体どんなクラスに就いているのか。或いはクラスチェンジしたのか。それがウォルターには分からなかった。
レースが始まり、襲撃を受けてロバーツに拾われた後も、彼はその戦闘方法を一切明かさず、部下やウォルターに任せていた。積極的に戦闘を好むタイプではないことは分かっていた。
ウォルターはすぐ側にまで迫って来た、自身の生み出した爆弾蜘蛛に目掛けて短剣を投げ、それ以上近づかないよう串刺しにした。床に固定され、もがき苦しむように暴れ回った蜘蛛は、徐々に動かなくなりそのまま消滅する。
「訳の分からねぇものは、近づけねぇこった・・・。どうする?このまま気にせず攻撃を続けるべきか。それともこいつの使用は避けるべきか?」
しかし、直線的な爆撃だけでは決定打に欠ける。加えてアンスティスの妨害もあり、ロバーツも加わった今、手数を減らしてしまえば逆に追い詰められかねない。
仕方なくウォルターは、危険と承知の上でも不可視の爆弾を継続して使っていく事を選ぶ。今度はロバーツが何をしているのかを探るため、注意深く観察していると、丁度ウォルターの死角になるところに逃げ込み、代わりに出て来たのが爆弾蜘蛛だった。
またしてもウォルターの元へと向かってくるそれを、ウォルターは再び自らの手で破壊すると、別の角度からやって来たロバーツの息のかかる爆弾蜘蛛が、ウォルターの近くで起爆した。
「何ッ!?何故俺のところでのみ起爆する!?」
その様子を見ていたロバーツが、どの辺りでなら蜘蛛が起爆するのかを徐々に掴み始めていく。




