若き構成員
一人薄暗い船室に取り残されるシン。正直なところ、黒コートの男達が甲板に向かわないという保証もない。二人の姿を見れば、キングの一味の者でないことはすぐにバレ、気づかれる事だろう。
そうなれば、いらぬ騒ぎが起こってしまう。慌てて船室から顔を覗かせ、二人の出て行った道を覗き込む。シンが長身の男を見送ってから数秒ほどしか経っていない。
船室の外は長い廊下になっており、左右にはいくつかの部屋がある構造だった。扉を開け閉めする音は、近くでは聞こえていない。大方移動が激しいのは甲板に近い上層階であり、シンのいる階層は僅かに遠のく男達の足音だけが、耳に残っていた。
しかし、シンが廊下を覗き込んだ時には、既に男達の姿はなかった。キングの船の構造は分からないが、階段があるであろう開けたスペースは奥の方に見える。
シン達のいた船室から違う階層に向かおうとすれば、その僅かな数秒の間で階段へ向かうのは不可能だ。それこそ全力で走るなり、駆け抜けるなりしなければ。彼らは気付かれないように脱出したのだろうか。
だが、そんな不安も僅かな間に過ぎない。思い返せば、口の悪い方の男はシンと同じ影のスキルのようなものを扱えるのだ。わざわざ正面や裏口から出ていかなくとも、どこからでも船から離れることは可能なのだ。
一先ずは安心したシン。このままデイヴィスに言われた通り、彼は余計なことはせず、そのままミア達の待つ船へ戻る為、潜入した時と同様、影のスキルで通り道を作ると外に出て、ツバキのボードを取り出し乗り込む。
船の上の方では、依然騒がしく多くのシー・ギャングの船員達が、慌ただしく働いているであろうことが伺える。キングは一体何処にいるのだろうか。デイヴィスは無事、キングを見つけられただろうか。
後ろ髪を引かれる思いを押し殺し、シンはボードのエンジンを入れその場を後にした。
シンと別れた後、デイヴィスはキングのいるであろう甲板を目指していた。上層に上がるに連れ、潜伏の難易度はグンとました。当然ながら外では、リヴァイアサンと小型モンスターの対応に追われている。
如何やらシンやデイヴィス、並びにコートの男達の侵入には気づいていないようだ。一心不乱に戦い、砲台に砲弾を込める様子から、それは伺える。あれだけの戦いがありながら気付かれなかったのは、レイド戦で人員が上層に集中していたことが大きい。
潜伏のスキルが長けているクラスが活きている。彼のクラスでなければとっくに気づかれていてもおかしくない状況にある。少しずつ物陰に隠れながら、着実にキングの元を目指す。
いつ終わるか分からないレイド戦。コートの男による、リヴァイアサンの弱体化が効いているのか、海賊達の作業や意識は戦闘に集中している。もし序盤の時のように、リヴァイアサンへの攻撃が上手くいっていないのなら、別の動きが見られるはずだ。
甲板への道中、船員達の動きは単純化されており、同じような場所を往復することが多い。如何しても排除しなければならない船員を、デイヴィスは殺すことなく静かに気を失わせ、身体を目立たないところへ運んでいく。
その最中、デイヴィスはある事に気がつく。キングのシー・ギャングに属する船員達は、そのほぼ全てが若い年代の者で固められていたのだ。中には年端もいかぬ、海賊になるには若過ぎる者もいた。
「やはり・・・。野郎、人身売買事業に手を染めてるって話は確実だったか・・・」
妹の行方を探る中、何処かへ売り飛ばされたという情報を掴んでいたデイヴィスは、キングを追えば真実に辿り着けると信じていた。恐らく、妹を直接売り飛ばしたのはキングではないかと疑っていたデイヴィスは、この若い船員達で構成された組織を目の当たりにし、より疑いは濃いものとなっていく。
それと同時に、キングへの怒りが増していく。それこそ自我を失ってしまいそうになるほどだ。事前にロバーツと会っていてよかったと、心の底から思う。もし彼と会話をしていなかったら、以前のように自分を見失い、周りの者を巻き込んでしまい兼ねなかった。
今、冷静でいられるのはロバーツやシンプソンら、昔の旧友と行動を共にしていたことが大きい。デイヴィスは勝手ながら、脅されて働かされているであろうその若い船員達を、休ませてやろうという思いで優しく眠らせていき、遂に甲板への道を切り開く。




