目標の船へ
モンスターが弱体化したことで、天候や海の様子は大分落ち着きを取り戻した。雲海は相変わらず黒ずんだ雲をしているが、突風や雷は発生しなくなっていた。
海の方も海流はそれまでのモノとは変わり、ある程度船での移動が可能なくらいには落ち着きを取り戻していた。このチャンスを見逃すまいと、一気呵成に畳み掛ける海賊達。その攻撃は、再生能力を失ったリヴァイアサンの身体にも有効だった。
ただ、ダメージを負ったことで身体の負傷に驚いたリヴァイアサンが、身体の進みを加速させて巻き込むような海流を起こしていた。海流に舵を取られながらも必死の攻防を繰り広げている、海上の海賊達。
砲撃音やエイヴリーのレールガンによる雷撃の音、それに様々な魔法が放たれる音がそこら中で聞こえてくる。消炎の匂いと、僅かに香ってくる血の臭いがする中、シンとデイヴィスはツバキのボードに乗り、リヴァイアサンの身体に攻撃を仕掛けているキングの船を目指す。
ツクヨ程の操縦技術はないが、必死にハンドルを握り、荒波を裂くようにボードを走らせる。彼らは攻撃に夢中で、まだこちらの接近には気づいていない。しかし、トゥーマーンの水の結界がある限りこのまま海上のルートは辿れない。
薄らとした蜃気楼のような景色の歪みが近づくと、頃合いを見てデイヴィスがシンの肩を叩き、海中へ潜る合図を出す。少しだけ顔を横に向けて、力強く頷くシン。
そして身体をグッと下がめて踏ん張ると、迫る大きな波に合わせてボードを弾ませた。二人を乗せたボードは大きく飛び上がり、その勢いを使って勢いよく海の中へと飛び込んで行った。
ボードの推進力は失われ空回りしている。直ぐにエンジンを切り、影の中へとボードを仕舞い込むシン。彼の身体をしっかりと掴んでいたデイヴィスは、もう片方の腕に装着したガントレットを、海の中を泳ぎ回る小型のモンスターに向け、そしてアンカーを撃ち放つ。
獲物に狙いを定めた獣のように真っ直ぐと撃ち放たれたアンカーは、見事にモンスターに命中する。驚いて二人とは反対方向へ泳ぎ出すモンスター。その勢いを利用し、キングの船のある方へ運んでもらおうとする。
アンカーを巻き取り、ワイヤーをピンと張ると、二人の身体を前へと運んでいく。だが、期待していたよりも前には進まない。モンスターがアンカーを嫌がり暴れ出したところで、デイヴィスはアンカーを外しワイヤーを巻き取ると、別の標的へと再びアンカーを撃ち放つ。
何度か繰り返したところで、トゥーマーンの水の結界の中へ入り込んだと判断したデイヴィス。海上には幾つかの船の船底が見える。息の限界がくる前に、手始めに最も近い船底に向けてアンカーを撃ち込んでみる。
海中であることもあり、大きな物音は立たなかった。この分なら、外の戦闘音に紛れ、気づかれることもないだろう。ワイヤーを一気に巻き上げ、海の中を海面に向けて浮上していくシンとデイヴィス。
徐々に明るくなる海面に近づいて来たデイヴィスは、頃合いを測りアンカーを外す。海面付近では気づかれないように、自力で上がるようシンに促す。二人は泳いで海面に顔を出すと、勢いよく呼吸を再開した。
見上げると周りにはキングの船団である海賊旗が掲げられた船が何隻もあった。しかし、これではどの船にキングが乗っているか分からない。遠目に見ていたからこそ、キングの派手な能力によりその位置を特定できていたが、これでは周りの様子を見ることは出来ない。
「キングがいる船はどれなんだ!?」
「さぁ・・・。だが、俺の気配を察知する能力で、奴の強力な力を探すことが出来る。ボードは使わずに行こう。ある程度音を立ててもバレない筈だからな。移動はこのガントレットのアンカーと泳ぎで行くぞ」
試しに浮上に使った船に近づき、そっと手を触れて目を瞑るデイヴィス。しかし、どうやらその船にキングはいなかったようで、彼は首を横に振った。次の船を指差し、シンを掴んでアンカーを撃ち込む。
二人の身体を引き摺るように海面を移動する。そして次の船にやって来ると、先程の船の時と同様にキングの気配を探る。だがデイヴィスの表情を見るに、ここにもキングは乗り合わせていないようだ。
戦闘音と船に打ち付ける波の音で、周りの様子が分からない中、騒音に紛れ威勢の良い声が聞こえたような気がした。それに気がついたシンがデイヴィスの方を向くと、彼もその声を聞き逃していなかった。
「今のッ・・・!」
「あぁ、間違いねぇ・・・。これは奴の声だ!この辺りの船の何処かにいるぞ・・・!」
グラン・ヴァーグの酒場で聞いたキングの声を思い出すシン。ミアが別の海賊に因縁をつけられ、もめているところに加勢してくれた彼は、不思議な力で大柄の男を引き寄せ、軽々と吹き飛ばして見せた。
彼が只者でないことは、シンにも直ぐに分かった。だがそれが一体どんな能力なのか、デイヴィスはその能力を知っているのだろうか。
周囲の船に意識を集中させるデイヴィス。暫くすると、何かを見つけたように目を見開いた彼が、シンの方を向く。どうやらすぐ近くにキングの気配を察知したようだ。
もうコソコソするのはやめだと、ここからは目標の地点までボードで一気に向かおうと、シンに影に仕舞い込んだボードを取り出すように急かすデイヴィス。確かにこの様子なら、慎重にならなくとも目立たなければバレることはないだろう。
シンは言われた通りボードを取り出すと、海面に浮かべ身体を引き上げ、デイヴィスの指差す船に向かって進む。




