迫る機器への調査と推理
第一波を凌ぎ切り、遠目に見える第二波に備えるエイヴリー海賊団の本隊。ロイクが危惧していた通り、依然上空で次の攻撃に備えるリーズ。その中に、魔力に反応するカウンタートラップが紛れ込んでいるとも知らず、余裕の様子を見せる。
「船長、ロイクさんが戦線を離れ、巨大モンスターの方へ向かいました」
「あの野郎・・・まだ気にしてやがるのか。おい!無線機の通信距離を伸ばす。誰か新しい通信室に待機させておけ」
エイヴリーは、ロイクがマクシムとの件を気に病んでいる事を察し、彼が一人で何かを成そうとしているのだと推測する。そして何かあれば、向こうからコンタクトを取って来るだろうと踏み、通信環境を整えいつでも受信出来るように通信装置や周辺機器をクラフトし強化する。
「氷塊が来るぞッ!外に出ている者達は直ぐに中へ戻れ!衝撃に備えろ!」
蟒蛇の第二波は、ロイクの無線を待たずしてエイヴリー海賊団の元へやって来た。依然、変わらぬ様子で迎撃しようとするリーズと、やや形を変えたエイヴリーの乗る船。
作戦は第一波と同じ、受け身の体制を整える。そして、遂にその時が来る。第二波の攻撃を知らせるように、先頭を突き進んで来た氷塊が、エイヴリーの強化装甲で固められた船に命中する。
何処かに座礁したような衝撃こそあれど、船自体の耐久に問題はない。次々にやって来る氷塊の流星群に彼らの鎮座する海域は、大きく揺れた。他の船体の強化も間に合い、海上の部隊は問題なく氷塊を防いでいた。
そこへ突然、キングが感じたものと同じ異変が、エイヴリーの元へ伝わる。装甲に氷塊が命中する重く鈍い音とは明らかに違う、何か熱線に焼かれているようなジリジリとした音が外から聞こえて来る。
「・・・?何だぁ、この音はぁ・・・?」
直ぐに異変に気付いた学者を彷彿とさせる衣装に身を包んだ男が、内側から船体に触れ目を閉じる。そして、まるで外の様子が見えているのかのように、船体から発せられる音の正体を見破る。
「これは・・・。魔術による高密度の一点集中攻撃を受けていますね」
「“アルマン“か。丁度いい所にいた。修復や強化は必要か?」
男は静かに首を横に振り、その必要はないと告げる。そしてその音から伝わる情報を分析し外で起きている事を語る。
アルマン・ルヴィリエ。
偵察や探知、魔術や文学など様々な知識を有する、考古学者のクラスに就くエイヴリー海賊団の幹部の一人。上空から爆風に巻き込まれ、散らばった仲間達を悉く回収出来たのは、一重に彼の考察力や探知能力があってこそのものと言っても過言ではないだろう。
クラススキルを駆使し、振動や痕跡、音や温度などありとあらゆる情報をかき集め、周囲の状況を正確に読み取る能力に長けている。学者風の衣装を見に纏い、如何にも頭のキレそうな眼鏡を掛けた、やや猫背で細身の病弱そうな男。
シン達とも交流のあるヘラルトがエイヴリー海賊団に加入すると、その性格や能力からアルマンの部隊に加入することになり、まるで尋問かのようにヘラルトのこれまでの旅で得た知識や経験を絞り取っていたのだという。
ヘラルトが加入時に提示してきた条件の中に含まれていた、世界に散らばる謎の書物、死海文書はアルマンの元で保管され、研究されている。
「ジリジリと装甲を焼くような音、そしてその時間が短いことから、強固な壁に穴を開ける為に放たれたものではないことが分かる。それにこの音は、今も尚他の箇所を焼いては途中で途切れている・・・」
彼は典型的な研究家で、自分の好きな事や得意分野のことになると説明したがる癖がある。その為、一度スイッチが入ってしまうと説明が終わるまで終わらない。殆どの船員はまた始まったかと、各々今できる作業を探しに行ったが、それでもエイヴリーとアルマンの部下達は真剣に彼の話を聞いていた。
「外の部隊から何も報告がないということは、肉眼では確認できない、或いはし辛い形状をしたものが氷塊の群れに紛れているのかもしれない。そしてそれは、何かを引き金に形状を変え、高密度のエネルギー状になり射出されている」
「その引き金とは何だ・・・?」
高密度のエネルギー体ともなれば、外で迎撃する部隊が心配になる。その引き金について知ることで、船の損壊や船員の損傷、部隊の壊滅が未然に防ぐことが出来るかもしれない。
しかし、如何にそういった情報をかき集める能力に長けたアルマンであろうと、そこまでは突き止めることが出来なかったようで、それが悔しかったのか親指の爪を噛むような仕草をしていた。
「・・・衝撃?・・・熱量?・・・それとも生命エネルギーか・・・?」
肝心なところは分からずとも、用心することに越したことはない。直ぐに周囲の部隊へ知らせようとするエイヴリーだったが、それはリーズの身に起きる事態によって解明されることとなる。




