戦地へ向かう戦力
計画の助力を承諾した一行は、デイヴィスと共にキングを襲撃する場所へと向かう為、船を走らせる。彼は本当に一人であの島に居たようで、仲間を集めるような様子はおろか自身が乗って来たであろう船すら、その場に置き去りにしてしまう程身が軽い。
「それで?船は何処へ向かわせればいい?」
「このままレースを続行してくれれば問題ない。キングを襲うのはレースの道中だ。だが余りのんびりは出来ない。出来るだけ急いでくれ」
どうやらデイヴィスは、レースのコース上でキングを襲撃するらしい。しかしシン達の船は何とか生存しているものの、先頭グループからはかなり出遅れてしまっているに違いない。
ただでさえ余裕のない彼らだったが、洗礼により操縦士のツバキを負傷し、チン・シー海賊団を襲うロロネーの濃霧に巻き込まれ、予期せぬ大幅なタイムロスをしてしまっている。これは優勝候補である彼女らにとっても深刻だったようで、ハオランに先陣を切らせレイド戦が行われているであろうステージへ向かわせていた。
そんな彼からも遅れを取っている状況で、少し急いだところで先を行っているであろうキングの船に追いつくことが出来るのだろうか。手を貸すとはいえ、準備もあるだろう。まだどんな手段で乗り込むのか聞いていないシンの代わりに、ミアがデイヴィスに尋ねる。
「そんなんでキングの船に追いつけるのか?こっちはまだどんな手段でアンタを送り込むのかさえ聞いてないんだ。隠さず話して貰いたいものだな」
「なに、隠すつもりなんてないさ。キングを襲撃するのはレース後半の山場、ウィリアムのお弟子さんならよくご存知だろう?」
そう彼はツバキの方へと話の話題を振った。それを聞いて、考えるまでもなく彼の中で答えが出た。彼らの間でもしばしば話に上がっていた、レースやトレジャーハントで稼げなかった者達が一発逆転の機会を得られるレースの一大イベントであった。
「・・・レイド戦か・・・?」
「ご名答!このレースでは終盤にレイド戦が設けられていて、いくらキングやエイヴリーといえど直ぐには倒しきれないような大型のモンスターが配置されてたり、或いは海域で悪さをしているモンスターの群れや主を誘き出して、参加者達に倒させようとする主催者側の都合が含まれることもある」
要するに、レイド戦で足止めを食らっている間に追いつこうとしているのだろう。体力のみならず、ステータス全般が非常に高い大型モンスターであれば、それだけ時間を稼ぐことが出来るだろう。
そしてもしレイド戦が、数の多いモンスターの群れであった場合であっても、その数を殲滅するのに時間を有することに違いはない。大型のモンスターよりも、小型・中型のモンスターの方が動き回る分、持ち合わせているスキルによっては更に時間を食われることがある。
「そして俺が嗾けた海賊から聞いた政府の情報だと、今回のレースはいくつか特例が組み込まれているらしい。その内の一つに、レイド戦があったって訳だ。つまり今回のレイド戦はいつもと違うということ。俺自身、ここまで辿り着くまでの道中、前に参加した時よりも難易度が上がっているように感じた・・・」
レースの特例には、シン達もいくつか心当たりのある部分がある。先ず、開会式の時に現れたキングですら知らない黒いコートを着込み、顔を見せなかった謎のスポンサーの存在。
そしてその男が持ち込んだアイテムというのが、シン達の現実世界へと通じているかもしれない、異世界への転移ポータルという如何にも怪しげなアイテムだ。
他にも、通常のクラスでは獲得し得ないであろう能力を有したロッシュ。ロロネーとの人体実験の末、WoFのクラスでなし得なかった未知なる域へ、能力を引き上げ見事ものにして見せた。
ロロネー自身も、人の域を逸脱した人智を超えた力を手にし、チン・シーやシン達の前に立ちはだかった。激戦の中で覚醒したツクヨの剣、布都御魂剣もまた通常ではあり得ないような能力を発揮して見せた。
この世界の者には力を発揮することが出来ず、ツクヨやシン達のようなWoFのユーザーによって初めて真価を発揮する神話の剣。ゲーム上のシステムなのかもしれないが、それにしては一風変わった能力だった。
シン達がこの世界に異変を感じているように、この世界の住人達もまた、自分達の身の回りに起きている異変に気がついているのだろうか。
「つまり、今回のレイド戦も今までより強力なモンスターが送り込まれているに違いない。・・・まぁそれはさて置き、キングを襲撃するのはそのレイド戦の最中だ。今までと違ったレイドになろうと、混戦になるのは必然だ。それに乗じて嗾けた連中と力を合わせて、キングの船団を包囲するって計画だ」
本来であればレイド戦とは、標的を倒すまでは協力し合い互いの船や味方に攻撃を仕掛けないのが暗黙の了解となっている。モンスターを倒すことに集中しているところへ、不意打ちの総攻撃を仕掛け、混戦状態にするのが彼の計画のようだ。
「不意打ちを食らって混乱するキングの船団に、アンタのスキルで気付かれねぇように奴の乗る船へと乗り込む手筈だ。・・・どうだ?出来そうか?」
「アンタを送り届けるだけなら、別に難しくないことだが・・・。キングの船に索敵要員はいないのか?それに混戦状態か・・・。流れ弾に当たらないようにも気を付けなきゃな・・・」
「そこで、お弟子さんのボードだろうよ!あれならスピードも出るし小回りも効く。気配を消すのは俺やアンタの専売特許・・・だろ?」
彼の言う通り、シンのクラスであるアサシンや、デイヴィスのクラスである忍者は敵のヘイトを背けたり、気配を消すことに長けたクラス。シンの隠密スキルだけでなく、彼のスキルと合わせて用いれば、例え索敵をする者が居ようと二人を見つけることは出来ないだろ。
デイヴィスの潜入までの流れを聞き納得する一行。ツバキも自身の作り出したボードの能力、操縦者の魔力を使いボードに反映する能力があれば、シンのスキルでボードごと消えることも可能だと考えた。
だが問題はまだある。ミアはデイヴィスに、嗾けたと言う友軍の戦力について尋ねる。その総戦力如何によっては、逆にキングに返り討ちにされ潜入する機会すら得られないことだってあるからだ。協力し合う味方の戦力ぐらい把握したいものだろう。
「潜入については分かった。だがアンタが嗾けたと言う連中や、キングとやり合う連中の戦力はどうなんだ?優勝候補って言われるだけの奴だ。生半可な戦力じゃ時間稼ぎすら出来ないだろ・・・」
ミアの言葉に、少し表情を曇らせるデイヴィス。キングに渡り合うだけの自信がないのか、友軍の身を案じてのことなのか。彼は暫く顔を俯かせると、真面目なトーンで話を始めた。
「・・・正直どれだけの戦力を集めようと、キングには勝てねぇだろう。出来るのは精々アンタの言った通り、時間稼ぎぐれぇなもんだ・・・。だからこそ俺のキング暗殺が、計画の要になるんだ・・・」
調子の良い彼がここまで神妙になると言うことは、乱戦へ持ち込む海賊や政府の者達もまた、命懸けであることに変わりない。嗾けただけで、そこまでのことが出来るだろうか。そしてデイヴィスの神妙な表情から、そんな彼らへの憂いのようなものを感じた。




