いざ表舞台へ
ミアが総大将同士の雌雄を決する戦場へ向かっていると、突然大きな爆発音と共に光線のような光が見えた。
「なッ!?何だあれは・・・。目的地の側からか?」
それは、船員から聞いた目的地の船に近い、ゴーストシップと見間違う程にボロボロになった船だった。光と音源は間違いなくその船からだった。目的の船が正確な位置ではない事と、その激しい戦闘の跡からミアは、すぐにそこがチン・シーとロロネーの戦う戦場であることを悟る。
「なるほど・・・あそこか。ウンディーネ!進路変更だ、あの海賊船に向かうよ!」
そう言うと、一発だけ通常の弾を新たな目的地の方へ撃ち込み、精霊ウンディーネに位置と方角を知らせる。すると彼女は、最初の目的地に向けて繋げた水の道を変形させ、新たな目的地付近へと伸ばす。
「少し距離が伸びたせいで、目的地までは繋げないわ」
「十分。これだけの勢いが付いてれば、あそこまで飛べるだろう」
変更された水の道を下り、亡霊達の追手を振り切る。道を塞ぐように待ち構える者達を撃ち払い、ストリーム・ロードの終着点へと近づく。道の先は水の形が固定されておらず、まるで小さな滝のように水飛沫を散らせながら、海面へと流れ落ちていた。
バランスを取っていた足を、今度はジャンプする体勢へと移行させる。そして水の道が途絶えるタイミングを図ると、グッと木のボードを踏み込み流れの勢いのままに身体を任せ、大きく跳躍する。
全身に風を感じながら戦場の上空を飛び抜ける。戦火による黒い煙や砲撃音、沈む船など周囲一帯を見渡すことが出来る。そこへ、座礁した船のマストが倒れ込み、ミアの進行方向へと倒れて来る。
このままでは、マストに張られたシートに包まれてしまう。ミアは急ぎ別の銃へと持ち替える。ショットガンのように銃身の長い銃を取り出すと、メアとの戦いの時に調合してあった余りの赤い弾を込める。
それはマグネシウムのパレットと破片で出来た弾で、砲身を通る際に酸素と激しい反応を起こすことで、ドラゴンのブレスのように銃口から火を噴く銃弾。
「ミア、それは・・・?」
「まぁ見てな。アンタ達精霊の力を借りずとも、人は科学の力で魔法を使うんだ」
ミアは行く手を阻むマストのシートに銃口を構える。ショットガンの射程距離まで近づくと、一気に引き金を引く。すると、彼女の手にしているショットガンの銃口から、まるでファンタジー映画のドラゴンのように真っ赤に燃える炎を吐き出した。
炎はシートを燃やし、人が一人通り抜けられる程の穴を開ける。炎が通り抜けた後のシートは、ジリジリと燃え広がりながら穴を拡張して行く。空中で身体を丸め、まるでサーカスの火の輪潜りのように、シートの穴を通過しようとする。
だが、当然その周りは炎による熱で彼女の身体を焼いてしまう。そこでミアは、ウンディーネに自身の身体に水を纏わせるよう合図を送る。
「ウンディーネッ!頼むッ!!」
ミアの言葉に意思を通わせた精霊は、即座にミアの身体に触れると、その身体を水のベールで覆った。燃えるシートの穴を潜り抜け、無事窮地を乗り越えたミア。水のベールが解除され、止めていた呼吸を再開し大きく空気を身体に取り込む。
徐々に降下することで、船上の亡霊が何体か彼女の存在に気付く。そして浮上して来ると、手にしている剣で彼女を休めせることなく襲いかかる。身体を回転させ進行方向へと向き直すと、再び迫り来る亡霊の群れに迎撃の準備を取る。
ショットガンを仕舞い、今度は二丁の拳銃を取り出す。そして淡青に光マガジンを込めると、銃口を敵に構えることなく引き金を一度だけ引く。すると、銃口から水圧カッターのように短い刃が現れると、すれ違う亡霊を次から次へと斬り捨てて行く。
「こりゃぁ良い・・・。ガンスリンガーの苦手な近距離をカバー出来る」
そして亡霊を倒しながら目的の船に近づくミア。だがこのままでは、その勢いのまま船に直撃してしまい無事では済まない。そこで彼女が取った手段は、やはり精霊の力を頼るというものだった。元々ウンディーネの力ありきの作戦だった為、分段に彼女の力を頼ることにした。
「さぁ最後だ、ウンディーネ。頼んだよ」
「全く・・・。精霊使いが荒いですね、貴方は・・・」
チン・シーやロロネーが居ると思われる、激しい戦闘の光景を見せた船に大砲の弾のように降下するミア。その先にウンディーネは、空中に水球を作り出しミアの身体を受け止めるクッションを配置する。
ミアの身体は、海に落ちたように落下の勢いを殺しながら、ゆっくりと甲板の上に無事辿り着く。着地の衝撃を和らげる為に、焼けた甲板の上でゴロリと転がり、片膝をついて起き上がる。
顔を上げるとその先には、ロロネーを貫いた後のハオランが、拳を振り抜いたままそこに何かが居たであろう場所から煙を立てて、立ち尽くしている光景があった。そして、それを目にし一つの戦いの終止符を見届けたミアは、徐々に海域を飲み込んでいた濃霧が晴れて行くのに気付き、呆然と周囲の光景を見渡した。




