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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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観察と代償

 彼のあり得ぬ回避に、疑問を抱くロロネーはじっと甲板へと降下していくハオランを見つめていた。見方によっては呆気に取られているようにも見れるが、男の目はただ獲物を見送るものではなかった。


 ハオランの動向を伺い、一つ一つの動作に注視する。ロロネーが最も重点を置いて確認っしたのは、彼の着地の寸前だった。勿論、彼の身体能力であれば難なく着地も出来るだろうが、下方へ加速した分着地の衝撃も強くなる筈。


 その衝撃をどのようにして緩和させるのかに興味があったロロネー。そして男の感は見事に的中する。ハオランの身体は甲板に降り立つ手前で、何かにワンクッション入れるような挙動を見せたのだ。


 ハオランはまるで、空中に設置されたクッションへ一度降り立ったように衝撃を和らげ、無傷で着地する。何かカラクリがあるのは確かだ。すると彼は、ロロネーを見上げて何かを企んでいるような笑みを浮かべる。


 そして片膝を曲げて身体を屈めると、船が傾くほどの勢いで飛び上がり、再びロロネーに分がある空中戦へと赴いたのだ。ロケットのように打ち上がった彼は、その途中で身体を捻り体勢を変えると、回転で勢いをつけた蹴りによる衝撃波を、ロロネーに向けて複数打ち上げる。


 「昇連飛脚ッ!」


 先程、上空から下にいるロロネーに向けて放たれた光弾とは逆に、今度は飛び上がりながら、渓谷に吹き抜ける上昇気流のようにかまいたちのように鋭い衝撃波が放たれる。


 それが自身の身体を透過するものかどうか分からない以上、ロロネーはハオランの放つ衝撃波をもらうわけにはいかない。空を滑空する鷹のように素早い身のこなしで、上半身だけのロロネーが飛び回りハオランの衝撃波を躱していく。


 すると、目算を誤ったのか衝撃波の一つがロロネーの頬を擦めていく。触れた部分から、徐々に赤い液体が漏れ出す。ゆっくり膨れ上がる血の滴が、許容量を超え頬を滑り落ちていく。


 「くッ・・・!やはりただの風圧からくる衝撃波ではなかったか・・・」


 意図していなかった出来事だが、貴重な情報を得ることが出来たロロネー。だが同時に、迂闊に彼の元へ飛び込むことが躊躇われるようになってしまう。僅かに後退の意思を持ったところで、衝撃波を放ったハオランの姿を見失う。


 何処へ消えたと周囲を探すロロネーが、背後に迫る殺気を感じと身体を傾けハオランの蹴りを躱す。今までないほどの至近距離。突如舞い込んだチャンスに、ここぞとばかりの全力で彼の首を跳ねようと剣を振るう。


 そこで初めて、ロロネーはハオランの奇妙な挙動の正体を知ることになる。全力を込めたロロネーの一閃は彼に避けられてしまったが、大きな隙を生じた代償に、彼の足に隠された秘密が明らかになる。


 「それは・・・エンチャント防具か?風属性の系統の効果か。それで空中での機動力を得ていたかッ・・・!」


 「韋駄天の加護。シュユーの最高傑作の一つさ」


 何とハオランの履いていたブーツには、シュユーによるエンチャントが施されており、宙を自在に駆け回る能力が込められていた。無論、走るというよりも風を一気に放出させ強引に彼の身体を押し出したり、持ち上げたりしていたのだった。


 「韋駄天ッ・・・だと!?」


 「貴様の得意な戦場で、そのプライド毎粉々に打ち砕いてやるッ!」


 大きな隙が出来たロロネーに、韋駄天の能力を加えたハオランの鋭い渾身の蹴りが炸裂する。骨身に染み渡る衝撃と、まるで鉄槌でも打ちつけられたかのような重たい一撃に、ロロネーの顔が苦痛に歪む。


 ハオランの空中での動きの秘密を知るには、あまりにも大きな代償。後方へ大きく吹き飛ばされるロロネーの上半身。そしてそれを追いかけるように、再び韋駄天の力で空中加速したハオランが、追い討ちを決めようと迫り来る。


 追って来ていたハオランが、一瞬にして姿を眩ましたかと思うと、僅かに高度を上げた彼がロロネーの頭上に迫り、くるくると回転しながら処刑台に取り付けられたギロチンのようなかかと落としが繰り出される。


 蹌踉めきながらも辛うじて視野に捉えていたロロネーは、止むを得ず全身を水蒸気に変える、熱を帯びた霧化で回避と同時にハオランヘの反撃を兼ねた、緊急脱出を試みる。


 「ヴァプール・エタンドルッ!」


 ロロネーの言葉と共に男の上半身は水蒸気となって、小さな爆発を起こす。以前に見せた姿を眩ますスキルによく似ていたが、微かに熱を感じたハオランは、足先から放出されるエンチャントによる風の放出で、瞬時に後方へ飛び退いた。


 彼の判断は正しかった。やはりロロネーは霧に変わるだけではなく、男のいた周辺に火傷をするような熱を帯びた濃霧を発生させる。ハオランの追撃から逃れたロロネーだったが、二人が戦い始めてから初の渾身の一撃を受けた為、不意打ちを仕掛ける余裕など無くなっていた。

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