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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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濃霧照らす炎の雨

 ロロネー海賊団の砲撃は、形こそそこにあれど実体のないチン・シー海賊団の船に向けて飛んで行き、命中することなく海面へ落ちていく。そして突撃して来た船は目標を失い、速度を緩めながら舵を左右にとり、周囲を探すように動き始めた。


 ミアが妖術から覚める前、最後に見ていた光景がその後どうなったのか。窓へと向かい外の様子を伺う。だが、霧が濃く外の様子がどうなっているのか、薄っすらと黒い影が動いているくらいにしか分からなかった。


 自分が一体何処のいるのかも把握出来ないが、一先ずは先程までの危機を脱し、安全な場所に位置していることだけは分かる。どうやら戦地となっている場所から少し距離が空いているようで、その上敵はまだこちらの位置に気付いていない。


 「食えぬ女だな、まったく・・・」


 「女とは、そのくらいの方がミステリアスで気を引くというものだぞ?」


 二度に渡り騙されたミアが、チン・シーという人物の手腕に呆れたような仕草をすると、彼女も冗談を交えながら人の魅力について語る。大船団を率いる女船長と聞いた時は、どんな傲慢で男勝りな女王様なのかと思っていた。


 しかし、実際に一緒になって戦っていると、なるほどこれは慕われるであろうという人柄をしていることが分かる。どんな戦況に陥ろうと、彼女が何とかしてくれるという、何処か安心感のようなものさえ芽生える程だ。


 「さて・・・。もう片翼に合図し、リンクを繋げる。今度はこちらが一網打尽にする番ぞ。シュユーよ、火矢の準備は出来ておるな?」


 「勿論、抜かりなく」


 チン・シー海賊団は、その船団を集約しロロネーの前に現れたように幻覚を見せていた。それに誘われ、ロロネーはまんまとその船団を取り囲むように進軍させて来た。そして実際のチン・シー海賊団は戦地へ向かう前に船団を二つの部隊に分断。


 中央を空けた左右に展開する陣形で進んでいたのだ。距離は妖術の連携が繋がるであろう限界ギリギリの距離。だが術を知り尽くした彼らであれば、測らずとも身体でその距離は覚えている。


 両翼に分かれた部隊が連携し、一網打尽にするということは、中央の幻影に踊らされるロロネー海賊団を挟み撃ちにする、何らかの攻撃を仕掛けるということだ。シュユーはチン・シー不在の中、武器や弓矢にエンチャントを付与し、各船に積み込ませていたのはいつでもどのような戦法を行えるようにする為だった。


 彼女の指示通り、連絡が繋がるとチン・シーはシュユーに合図し、リンクを開始する。同時に甲板では、船員達がシュユーのエンチャントした火矢を濃霧の中に見える薄っすらと見える影の方角へ構える。


 メラメラと燃える火矢に灯った炎は、今か今かとチン・シーの攻撃合図を待つ。全ての準備が整うと、彼女は幻影に惑わされているロロネー海賊団へ向けて、攻撃の合図を出す。


 「放てぇッ!」


 彼女の合図で放たれた火矢は濃霧の中を、淡い光を帯びながら飛んで行く。横一列に並んだ船員達により、綺麗にそして順々に放たれロロネー海賊団の元へと向かう。しかし、やや射線が高いように思える。


 銃が専門のミアに弓矢のことはあまり詳しく分からないが、遠距離の射撃ともなれば風や弾道が落ちることを考慮し、動く相手であれば偏差射撃の技術も必要となる。それは銃であろうと弓矢であろうと同じことだが、銃以上にそれらの技術が必要になる。


 そんな弓矢について素人のミアでも、彼らの放った火矢は目標のロロネー海賊団の船を、飛び越えて行ってしまうのではないかという角度で放たれたのだ。しかし、ロロネー海賊団との戦闘で、海賊姿の亡霊と戦った時などを見る限り、弓術の技術は長けているようだった。


 これも彼女の作戦なのだろうかと、これまで敵と一緒に騙され続けてきたミアは疑い始める。そして案の定、彼らの放つ弓矢の軌道に眉を潜ませるミアに、彼女は悠々とその射撃の意図を話し始める。


 「あれで当たるのかと言った顔だな。安心せい、我らは弓術にも長けておる。狙った位置には必ず届かせて見せる。そしてこれは、限られた弓矢でより多くの相手を焼き尽くす弓技よ・・・」


 ミアの使う銃弾と同じように弓矢には限りがある。それに加え、全ての矢にシュユーのエンチャントが施されている訳ではない。その中で彼女は、ロロネー海賊団の船をより多く効率的に攻撃する術をミアに披露しようとしていた。


 「その名も・・・、連繋弓技・火雨」


 両翼に分かれたチン・シー海賊団の船団から放たれた火矢は、その軌道上で火の粉を散らしながら格子状に飛び交い、中央に集まるロロネー海賊団の船団の遥か上空を飛び越えていく。それは宛ら火の雨のように海域一帯に降り注ぎ、濃霧の中を明るく照らす。


 ロロネー海賊団の黒くボロボロの船は、降り注ぐ火の粉を浴びみるみる内に引火し、その炎を大きく激しく燃え上がらせる。

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