部隊の孤立
もう一つ気になる点としては、彼らの友軍の船と遭遇いてから、火矢による攻撃が止んだということだ。と、いうことは初めからこちらに向けて火矢による攻撃を仕掛けて来たのは、同じチン・シー軍の船と見て間違いないだろう。
「いや・・・彼らが最初に射って来たのか・・・?主人の命令を待たずして・・・?」
素朴な疑問だった。主人を信頼し、命令を厳守して中実に行動する彼らが、気が動転していたとはいえ、そのような行動にでるだろうか。それに攻撃は例の亡霊と共に来ていた。これもロロネー海賊団による策なのでは。ミアにはそう思えてならなかった。
「ミア、急に外が静かになったけど・・・落ち着いたのか?」
攻撃の手が収まり、船内や甲板が静かになったことで中でツバキの様子を見守っていたツクヨが、ミアの元へやって来た。だが彼女の返事を待つよりも先に、周囲の船員達の様子や近くに停まっていた海賊船を見て、その空気である程度ツクヨは事態を悟ったようだ。
「いや・・・それが・・・」
「何かあったようだね。船員の人達がピリピリしてる・・・。それに戦闘をしていないところを見ると、敵からの攻撃が止まってる・・・のか?それにしちゃこの空気はおかしい・・・」
直ぐに悟ってくれるのは、ミアにとって説明の手間が省けて助かっていた。敵からの攻撃が止むということは戦闘が終わったか、或いは何かしらの術中にあるが故に手を出してこないという事が考えられる。
そうでなければ、この場にいる船員達の態度がおかしい。ツクヨはその様子に気づくと、現場で戦っていたであろうミアに、彼らの心の中にある悩みの種について、何か気付いたことはないかと尋ねる。
「何か、引っかかることがあったのか?」
「あぁ・・・。ロロネーによる攻撃の手段が変わってな。亡霊を送り込んで来る他に、火のついた矢を放ってくるようになったんだが・・・」
彼女は、これまでの戦闘の流れをツクヨに話した。敵だと思っていた船が実は味方の船で、互いに相手の船を敵だと思っていたこと。そして火矢と共に亡霊も継続して飛んで来たことが、敵であると決定付けていた要因となっていたのだろう。
最後にツクヨにも尋ねられた、ミアの引っかかる点について。濃霧の発生はロロネー海賊団によるものではないか。火矢の攻撃が始まった時、彼らは主人であるチン・シーの命令を無視して、独断で攻撃を開始するだろうかということ。
それに加えて、この濃霧は通信機器を妨害し視野を奪うことで、彼らの十八番とも言える連携を分断する厄介な効果を持っている。彼らにとって非常に相性の悪い相手なのかもしれない。
ミアの話を聞いて、ツクヨが更なる異変に気付いたようで、それを彼女に話すと言われてみれば確かにという盲点を突かれた疑問が飛び出した。
「その・・・火矢というのは、彼らの主人であるチン・シーのリンクというスキルで共有する事によって初めて、船員の人達が使える技じゃなかったか?命令を無視した攻撃以前に、彼らには彼女の力無くして火矢は使えないのかと思ったんだが・・・」
「確かに・・・。つまり最初の火矢による攻撃は、敵がこちらを混乱させる為に放ったものだったということか?そして目視によってその相手を認識した時、それが自軍であったと知れば動揺することは確実・・・」
彼らの最大の武器でもある、大軍勢としての数の力。そしてチン・シーによる共有する力を断つことで、ロロネーは強大な力に対抗しようと策を労していた。そして、分断に成功したロロネーが次に何をしてくるか。わざわざ数を減らし、孤立させたのだからやることは一つしかない。
「マズイよ、ミア・・・。この分断は彼らの数を減らす為の足掛かりでしかない。大戦において孤立した部隊がどうなるか・・・」
「既にロロネーの次なる策が始まっているかも知れないッ・・・!アイツらにも知らせなくてはッ!」
急ぎ駆け出したミアが向かったのは、徐々に距離を空け離れていく友軍の船のいた場所。既にそれなりの距離が空いてしまった友軍に向けて、ミアは大声で忠告した。
「気をつけろッ!!敵の攻撃は既に始まっているッ!船に何かあるかも知れないぞッ!!」
ミアの声が届いているのかいないのか、友軍の彼らから彼女の言葉に対する返答はなかった。先程の疑心暗鬼になっていた時の口論が響いてしまったのか、険悪な様子で持ち場へ戻っていくその船を、ミアはただ見送ることしか出来なかった。




