新たな組織の影
オッドよりも先に出雲に接触を図っていたのは、アサシンギルドと同じく異世界から来た者達を束ね、WoFユーザーを捕えては調査に利用する一大組織であるフィアーズだった。
言葉巧みに出雲を唆したのは、スーツ姿の胡散臭さが滲み出る“ランゲージ”と名乗る男だった。彼らはオッドよりも先に、現実世界を生きる者達の領域へと進出を開始していたのだ。
フィアーズの人員と力があれば、わざわざ協力関係を築かずとも恐怖や支配で従わせればいいだけなのではと思われるが、そうしなかったという事は何か危惧すべき事が他にもあったのだと考えるのが妥当だろう。
ランゲージは出雲に、オッドが話した事とほぼ同じ、現実世界に起きている事象と転移して来た者達の存在、今後起こり得る現象への注意喚起などの話をした後に協力を申し出ていた。
返事は今直ぐ出なくてもいいが早ければ早いだけ良いとだけ言い残し、ランゲージは出雲の元を去っていった。それから丸々一日が経過している。催促に来るにはまだ早い様に思えるが、フィアーズ側がどれだけ待ってくれるかも分からない。
何よりも、あの胡散臭いランゲージという男が、何の条件やメリットも無しに待ち続けるとは思えない。それは初見で会った出雲がそう思うほどには怪しい男だという事。
しかし、ランゲージ側にあってオッド側に無いもの、それは異変を利用したフィアーズ側の技術力だった。彼らの技術力は日々進化している。街中のハッカー達への攻撃や接触により、現代の技術力を取り入れ、WoFのユーザー達を使った異世界の調査に現実世界の敵対する者達に対する牽制なども行っている。
信用という面で明らかに勝っていたオッドに、出雲は別の者からも同じく協力の要請があった事を相談する事にした。オッドの所属するアサシンギルドに協力するかどうかはさて置き、一旦フィアーズの今後の動きや目論見について意見を聞きたかったようだ。
「フィアーズ・・・ランゲージ・・・」
「アンタよりも先に話を持ちかけて来た人物と、その者が属する組織だ。話した内容的にはアンタの話と同じだったが、何か企んでいるような胡散臭さがあったように思えてならない。何故組織的な力を持つ彼らが、今更俺なんかに接触を試みたんだろうか・・・」
「考え得る事としては、あなた達警察組織を敵に回したくなかった。或いはハッカー達のような半グレの者達とは違う技術力や組織力に目をつけたからか・・・」
だが後者は考えづらいだろう。異世界から来た者達の存在など、到底信じられる話ではなく、そんな彼らの攻撃を食らえばいくら警察と言えどひとたまりもない筈だ。
やはり理由としては、今はまだ警察組織を敵に回したくない、或いは敵に回す余裕がないと考える方が妥当なのかも知れない。では何故フィアーズに警察組織を相手にする余裕がないのか。
考えられる可能性は、フィアーズが警戒する程の敵対組織が見つかった可能性があるという事だ。もしそれが本当なのだとしたら、オッドが現在所属しているアサシンギルドにとっても由々しき事態となる。
ましてその組織がアサシンギルドとも敵対するようであれば尚のこと。どちらにせよ、そのような組織の存在がある以上、これまで以上に慎重に行動しなければならない。
先ずは事実確認と、フィアーズが何を掴んでいるのかを知る為に捜査を行わなければならない。だが今のアサシンギルドには調査に時間を割ける余裕も人員も足りない。
出雲のドローンの解析が終了し次第、この事を現在のアサシンギルドを纏めている白獅に報告しなければならないとして、出雲にはフィアーズの危険性や目論見を説き、協力への返答は慎重になるように促す。願わくばアサシンギルド側に着いてくれれば助かるのだが、これもオッドの独断では決め兼ねるとこの件は一旦保留とし、出雲を安全に現実の世界へと戻らせる事になった。
ドローンを出雲に返し、元来た出入り口の扉まで着きそうオッド。出雲は連絡を取りたい時はどうするのかと彼に尋ねると、今は都合が悪いのでまた後日アサシンギルド側から使いの者を送るとだけ伝え、出雲は雑居ビルの裏口から路地裏へと出て行った。
これはシンが現実世界へ戻って来る前の出来事。
この後、アサシンギルドにはシンの協力で入手したWoFの回復薬が送られてくる事になり、人員の確保や各地のアジトにあるデータや機材の回収が行われる。
出雲へ出した申し出も、アサシンギルドの体制が整えば漸く形になると、オッドや白獅らは回復薬が入手でき次第、早急に任務へと取り掛かっていった。
だがその間にも、現実世界では様々なところで異変に関する事件や事故が起こり、出雲に考えさせる時間を奪っていった。




