黒衣の男の刀
ツバキがガジェットを操作しカメラの視点を変えながら、録画された映像の中の景色を探す。そしてそんなツバキの操作を食い入るように覗き込みながら、手元のモニターに注目するシンと突然苦手な爬虫類の眼を見せられたアカリがツクヨの回復に役立つ薬を調合する。
「しかし、よくあれだけ大きは身体から逃げることが出来なたな」
「それがリナムルの地下研究所で拾った刀が、突然周りの精気を集め始めて・・・ってあれ?そう言えばあの刀は・・・」
ふと、自身の荷物に入っている刀を取り出してみたツクヨだったが、草薙剣は山の神の体内にいた時のように、禍々しいオーラなど纏うこともなく、ごく普通の刀のように戻っていた。
「あれ・・・元に戻ってる?」
「戻ってる?その刀がどうかしたのか?」
ミアが尋ねるとツクヨは、山の神の体内での出来事について話した。そこでシンとミアは、聞き馴染みのある日本神話に登場する刀の名前を耳にする。
「くっ草薙剣!?」
「草薙剣って・・・あの?確か八岐大蛇の話に出てくる刀の事で合ってる?」
「それ以外にあるか?確かに大蛇繋がりではあるが・・・。だとしても、それなら何故今まで黙ってた?」
「ちっ違うよ!黙っていた訳じゃない。今までは本当に普通の刀だと思って使ってたんだ。だからあの時みたいに、何か特別な能力があるなんて、思ってもみなかったんだ」
草薙剣がその真価を発揮したのは、山の神が喰らった多くに生命エネルギーが周りに多くあった事と、光脈に精気が充満する空間であった事が起因していたのだろう。
実際、ツクヨはリナムルで草薙剣を拾ってから、一度もその生命エネルギーを喰らう能力を扱う事はできなかった。何かトリガーとなる状況があり、それが刀身から溢れる程の生命エネルギーだったというところだろう。
「けど、その刀で生き物・・・モンスターを斬った事だってあったんだろ?それじゃ足りなかったって事か?」
「そうじゃないかな。多分だけど、リナムルの地下研究所って生物実験を行なってたでしょ?きっとそこでもある程度生命エネルギーを与えるような実験は行われてたと思うんだ・・・」
「けど、そこでも草薙剣の能力は開花しなかった」
ツクヨは布都御魂剣の例があったからこそ、この世界の住人達ではその宝刀の能力を目覚めさせる事が出来ないのではないかという推測はあった。そして実際ツクヨの推測は当たっていた。
如何やらこの世界にある、日本神話に登場する神剣の類は、ツクヨ達のようなWoFのユーザーにしか扱えない装備である可能性が高い。故にこの世界にとって価値のない曰く付きの刀剣の噂があれば、ツクヨの武器として大きな力になるかも知れない。
ミアとツクヨが草薙剣について話していると、カメラの映像を確認していたツバキが、アクセルの言っていた上空の装置を発見する。
「あった!コレだろ?」
嬉しそうに自分の成果を自慢するツバキが、モニターをシンに見せる。するとそこには、濃霧の中に浮かび上がら十字の長い影が浮かび上がっていた。だがそれは、シンが想像していた刀とは少し違っていたようだった。
「これが・・・刀・・・?」
「如何した?刀に見えなかったか?まぁ確かにハッキリと見えた訳じゃなかったがよぉ。けど形状はそんな感じだったと思うんだけどなぁ?」
自分の証言がそんなに外れているかと、モニターを持って来て見せてくれとせがむアクセル。彼の容態は、魔力を使い過ぎた事による極度の疲労だった為、精神汚染による影響を調べる為の検査は必要最低限になっている。
精神的な疲労ではない分、街の医療施設に着いてからというもののベッドから全くと言っていいほど動けないようだった。
仕方がなくシンがツバキからモニターを預かり彼のベッドまで運んでいき、映し出されている映像を見せる。
「そうそう!コレコレ!俺が見たのはコレよ!・・・あぁ?よく見たら魔力で作った刀の中に何か入ってねぇか?」
「“装置”って言ってたのはそれか」
映像を拡大してみると、上空に浮かんでいた大きな刀のようなものは、黒衣の男がその膨大な魔力で作り出したものであり、その透けている中には媒体となっているようだ。
「一から魔力で作り出すよりも、媒体を使って作り出す方が強力で魔力の節約にもなる。その媒体が強力であればある程に・・・」
「ってこたぁ〜、その媒体になってる刀もさぞや名刀なんだろうな」
名刀と聞いて、先程のミアとツクヨの会話を思い出したシン。一切素性の知れない黒衣の者達が持つ代物ならば、それ相応の代物を持っているに違いない。




