映像データに残された真相
そもそもこちらの世界で出会う彼らは一体何者なのか。シン達よりもこちらの世界の事を把握しており、シン達のような現実世界のユーザーを特に狙っているという様子もない。
加えて何度か遭遇する中でも、シンやツクヨを始末できる実力とチャンスがありながらも、彼らを殺すことなく寧ろ成長を促したり、その時その時のストーリーで壁となる障害を乗り越える手助けをしているとも取れる行動が目立つ。
そしてシン達の追う黒衣の者達と同一人物であるかは分からないが、アクセルとケネトも嘗て黒衣の男に命を救われたのだという。回帰の山で出会した黒衣の男に自分たちの事を尋ねたアクセルだったが、返答は彼の期待したものではなく、それどころか何度も殺されかけたと一行の前で明かした。
「あの後にそんな事が・・・」
「何だ、ツクヨは一緒じゃなかったのかぁ?」
事情を知らないツバキが、ツクヨを追って山を登って行ったアクセルが黒衣の男と戦ったのなら、一緒に戦っていたものと思っていたようで、ツクヨの反応に疑問を持つ。
「それが私も襲われはしたんだけど・・・」
「そいつはその黒衣の男に先へ投げ飛ばされたんだ。早く行けってな感じでな」
「自ら先に行かせたと?」
「何だか“やらせたい事”でもあったみたいな感じだったぜ?まぁお陰でこうしてライノとカガリも無事に連れ帰る事が出来たみたいだしな」
如何にも腑に落ちない黒衣の男の行動に言葉を失うシン。彼もまた海上レースの際に、別の黒衣の男と戦闘をしている。当時の記憶を思い出すに、その黒衣の男の能力はシンと同じ影を使ったものだった。
だがアクセルの言う黒衣の男は、刀をメイン武器として使用していたらしい。更には、山の神に何か仕掛けようとしていたのか、上空で巨大な刀を召喚していた事からも、シンが海上で会った黒衣の男とは別人であることが窺える。
「んで?俺のカメラを起動させたのはいつ頃からなんだぁ?」
「空からデケェ穴が落ちて来た後だ。正確にはその後、空飛んでた黒衣の男に一発かましてやるつもりだったんだが・・・」
何度も殺されかけたのがアクセルのプライドを傷つけたのか、脳裏に蘇る当時の記憶に彼は表情を曇らせる。止まってしまった口を動かさせる為に、ミアがアクセルを煽り話を続けさせた。
「返り討ちにされたと?」
「カッコ悪りぃ話だな・・・。少しは手の内も分かってて、その上で全力で挑んだってのに全くダメージを与えられないなんてよ・・・」
アクセルからカメラの起動時刻について聞いたツバキは、自身の持つもう一つのガジェットを起動してモニターを用意する。シンが何をしているのかと問うと、彼はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの得意げな表情で答えた。
「俺のガジェットのカメラってさぁ、こっちのカメラと連動してんだよね。つまり、今解析に渡されたガジェットのカメラの映像は、俺の持ってるこっちのカメラでも観れるってわけよ!」
すると、ツバキが起動したガジェットに連動してモニターにカメラの映像が映し出された。そこには回帰の森に立ち込めた霧の時に上空へ飛ばしたものと同じような、真っ白い景色が映し出されている。
「何も見えないな・・・」
「そう焦んなって。今視点を変えてみるからよぉ」
ツバキの操作でモニターの映像が回転する。すると今度は、アクセルらの証言にもあったような巨大な白い壁のようなものが映る。更にそこから映像をズームしてみると、壁には確かに鱗状のような模様が薄っすらと見える。
これはアクセルの言っていた、山の神が白蛇の姿をしている可能性という話を裏付ける、一つの証拠にもなる。
「これ・・・鱗か?」
「スゲェ!ミアもアカリも見てみろよ!ホントにでかい蛇みたいだぜぇ」
興奮した様子で二人にもモニターに映し出された映像を見せるツバキ。丁度その時、映像にはその山の神のものと思われる巨大な赫い眼が映った。ツバキの言っていたものとはかけ離れた恐ろしいものと目が合い、思わず驚きの悲鳴をあげるアカリ。
「馬鹿ッ!一応ここ病院だろ!?それにただの爬虫類じゃねぇか」
「違う、眼だ・・・サイズ感は分からんが、赤い眼が映ってる」
「はぁ!?んなまさか・・・うぉッ!ホントだ!デケェ眼が映ってやがるッ!じゃぁホントにこれが山の神って奴なのかぁ?」
一行の騒がしい様子に、扉の方からこちらを睨む視線を感じた。施設の者が静かにしろと言った視線をこちらに向けているのに気が付いた一行は、黙って頭を下げると施設の者はゆっくり扉を閉める。
「ま・・・まぁコイツが本当に山の神の姿だとしてだ。肝心の黒衣の男ってのは何処に居たんだ?」
「その白蛇から反対の方さ。ある程度離れたところに、十字の影が浮かび上がる筈だ。それを探してみろ」
アクセルの言う通り、そのままの高度を保ったまま反対の方角を向き、ゆっくりとズームしながら濃霧の中に浮かび上がる影を探す。




