表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World of Fantasia  作者: 神代コウ
1670/1694

神饌の儀のその後

 時は無事、山の神の体内から脱出を果たしたツクヨ達の場面へと戻る。意識を取り戻したカガリは、体内にて気を失っていた間に、ミネ直々に最期の言葉を受け取っていた。


 現世のミネと最も長い付き合いだったカガリだったからこそ、何となくミネの様子がおかしい事に気がついていたのかも知れない。故にもしかしたら、これがミネに会える最期の機会になってしまうのではないかという危惧はあったのだろう。


 膝を抱えて丸くなっていたカガリは、暫くの間ミネという大きな人生の主柱を失い落ち込んでいた。その間ツクヨとライノは、彼の側に寄り添いながらも、ツクヨが切り開いた山の神の身体から流れる川のような血液が収まるのを待っていた。


 上空から滝のように流れていた山の神の血は、彼らが脱出してからそれ程時間を置かずして止まった。同時に濃霧に覆われた空へと引き上げていた山の神は、土砂を吐き出した後再び上昇を開始し、そのあまりにも規格外な巨体を雲の中へと消していく。


 ミネという山のヌシを利用して行われた今回の神饌の儀式は、彼の永きに渡る運命と覚悟を捧げた事により、一先ずは成功という形となったようだ。


 それを示すかのように、ハインドの街で保管されている過去の調査記録に記されている通りの静けさが、回帰の山とその周辺に続いたそうだ。


 今となっては、ハッキリと光脈の精気を感じられる者は居なくなってしまったが、ケネトやギルドの一部の感知能力に優れた者達の調べでも、精気の乱れらしき反応は伺えなかったのだという。


 儀式の失敗例のような記録とは異なる山の様子に、ハインドの街の一同はまた暫くの間の平穏を神に感謝し、畑で取れた物を山に巣くう生き物達に備えに行った。


 その際、山の神によって喰われた山の大半は、まるで何事もなかったかのように元通りになっていた。正確には神饌の儀式が行われたその日、ツクヨ達が街へ帰還した時には既に、山を覆っていた濃霧も晴れ、荒れていた地形も元通りになっていたのだそうだ。


 というのも、山の神が姿を消した後、回帰の山の麓では山から帰還した者達を迎えるキャンプが設営されており、濃霧が晴れた後にいつでも捜索に向かえるよう準備が整えられていた。


 霧の中で何が起きているのか分からなかったシン達やギルドの捜索隊が、山に残った者達の帰還を待っていると最初に姿を現したのは、アクセルとケネトの二人だった。


 整備された山道を、ケネトがアクセルに肩を貸しながらゆっくりと降ってくる。そこで初めて、濃霧の中で起きていた出来事について聞かされた一行は、回帰の山に住み着く山の神が、規格外の巨体をした白蛇の姿で現れた事を知る。


 彼らの証言が嘘でない事を証明したのは、ツバキが渡していたガジェットの映像に残されている。貴重なデータとして、ツバキはそのガジェットをハインドの街のギルドに寄付する事になり、その例として出発までの間の宿泊費や食事代がギルドから支給された。


 ツクヨ達が帰還したのは、それから陽が昇り始める少し前の事だった。


 真っ赤な血に染まった姿で現れた時には一同騒然としていたが、実際の怪我は少なく見た目以上に彼らの容態は平常だった。実際のダメージとしては、ミネという犠牲を出してしまった事の方が三人に大きな影響を与えていた。


 思っていた以上に立ち直りが早かったのは、ミネの愛弟子であるカガリだった。彼はギルドの隊員らに街まで送られ、一日休息を取った後、直ぐに救出されたというトミの妻、ユリアの病室へと向かい夫のトミと共にその目覚めを待っていた。


 ミネから最期に託された言葉に、カガリは心の支えを得ていた。加えて憧れでもあったミネが、自分を認め任せてくれた事があるというのが、彼の足を立ち止まらせずにいた大きな支えになっていた。


 ユリアが行方不明になってから憔悴していたトミは、彼女が帰った事を知ってから少しずつ体調を取り戻していった。それはカガリの看病のお陰もあった。小さい頃、よく遊びに来ていたカガリが彼女と一緒なら安心できると、トミ自身もリハビリに集中出来たからだった。


 後に一人だけとなってしまったカガリに、もう一つの家を与えたのは他でもないトミとユリアのキヴェラ夫妻だった。調査隊最後の一人となったカガリは、ギルドに対しミネから教わった事の全てを開示する事を約束した。


 それは同じくミネと親しかったライノ隊長が居たからというのもある。これはミネに言われたからではなく、カガリ自身の判断だったようだ。ライノがハインドの街に赴任してから、ギルドと調査隊の関係は良好となっていたが、これをきっかけに調査隊は合併という形になったのだそうだ。


 新たに設立されたギルド所属の調査隊の隊長には、設立の立役者となったカガリが選ばれ、ミネから教わった事を新たな調査隊の育成に取り入れ、大きく貢献したようだ。


 後にシン達に取って大きな知らせとなったのは、ツバキが提供したガジェットがきっかけで、ハインドの街による回帰の山の調査にも機械が導入される事になり、行方不明者や犠牲者を減らす機械文明が栄えたというニュースを耳にする事となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ