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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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切り開くは地獄の景色

 瞬きをする間に過ぎ去るような一瞬の出来事。周囲一帯を照らし出すほどの凄まじい稲光が、山の神の体内である大空洞を陽の昇る昼間のように明るく照らす。


 ただそれが、洞窟の壁を打ち壊すのとは違っているのを表すかのように、切れ込みが入った外壁から外の光が差し込むのと同時に、赤黒い血の飛沫が辺りに吹き荒んだ。


 その量は大型の生物を斬った時の比ではなく、まるで押し寄せる壁や飛沫のように辺りにある様々な物を押し流して行く。山の神の血によって染まった瓦礫や大木などが上空に吸い込まれていく。


 景色が一変する光景の中には、ツクヨの居る足場やミネ達が移動した足場も含まれていた。


 ツクヨが中からデストロイヤーのクラスの力と、有り余る程の生命エネルギーを蓄えた草薙剣の最大出力を撃ち放った直後、大空洞の外でも大きな動きがあった。それは主に、山の神へ向けて何やら思惑のある装置を構えていた黒衣の男になる。


「来たッ・・・!!」


 巨大な装置を上空に構えていた黒衣の男が、山の神の体内にツクヨの放つ邪悪な気配を頼りに狙いを定めていた。そしてその箇所から、高出力の斬撃が放たれる。


 濃霧によって淡い白色に覆われていた景色が一変し、山の神の鮮血で空が陽の沈む間際の不気味な色へと変わり、血の雨が降り注ぐ。大地には血の波が押し寄せ、そこら中の物を下方へと押し流していく。


 凡そ山の光景とは思えぬ地獄絵図に、金属同士が擦れ合うようなギリギリとした音が響き渡る。それは上空でツクヨの放った斬撃を受け止める黒衣の男の仕業だった。


 彼の召喚した四つの巨大な刀が、山の神の中から飛んで来た凄まじい速度と高出力の斬撃を受け止める。その瞬間、周囲の血の雨は彼を中心に吹き飛び、下の方にあった大木などは、衝突した衝撃はだけで粉微塵に切断される。


 草薙剣が放った斬撃は、衝突した時に生じる衝撃波と共に細かな斬撃を周囲に撒き散らしていたのだ。血の雨の中をかまいたちの様に鋭い空気の塊が駆け抜ける。


 飛び散った斬撃の一つ一つが、最早剣士のクラスが放つ上位スキルに匹敵する威力を誇っていた。森の木々を刻み、大地に切れ込みを刻む。並の者なら存在する事さえ叶わぬ環境の中、唯一衝撃波の発生源である黒衣の男の周りの空間だけ、台風の目の様に穏やかな空間を維持している。


 だが穏やかなのはその空間だけで、黒衣の男は受け止めた斬撃を必死に抑え込んでいる。しかし妙なのは、彼のその行為自体にあった。彼程の実力であれば、その斬撃を避けたり、受け止めたとしても、軌道をずらして受け流すことも可能なはず。


 しかし黒衣の男は、その凄まじい威力の斬撃を受け止めたまま動かず、ただただ耐える事しかしていない。このままではいずれ押し負け、装置ごと彼は斬撃に消し飛ばされてしまう事だろう。


 そうまでして何故彼がその斬撃を受け止めているのか。その答えを持ってきたのは、彼と同じ黒い衣に身を包んだもう一人の黒衣の人物だった。


「すまないッ遅れた」


「間に合って良かったぜッ・・・!早く始めてくれッ!!」


 何も無いところから空間を歪めて現れたもう一人の黒衣の人物は、斬撃を受け止める黒衣の男と話した後すぐに複数の分身を周囲に散らし、上空で陣形を組む。


 そしてその身体から溢れんばかりの魔力を放つと、ツクヨの斬撃を挟む様に上方と下方に空間の歪みが生じ、そこから現れた白く光る巨大な手が出現する。


 現れた巨大な手のひらに挟まれた斬撃は、周囲に放っていた衝撃波を弱めていき、次の瞬間には何処かへと消滅していった。同時に崩れ落ちる様に消滅する巨大な刀の装置。


 ボロボロと崩れ、星屑のように魔力の塵を降らせる中、力尽きたかのように落下を始めようとする黒衣の男を受け止める、もう一人の黒衣の人物。


「良くぞ耐えてくれた。お前の功績はいずれ必ず我々を救う光となる・・・」


「そいつは・・・良かった・・・」


 最後の力を振り絞り、黒衣の男は気を失ってしまう。彼を受け止め斬撃を消した黒衣の人物は、山の神の方へと振り返り、何故かツクヨの身を案じる言葉を残した。


「布都御魂剣に続き草薙剣も覚醒させたか・・・。こんなところで失うには惜しい人材だ。無事であるといいが・・・」


 そう言い残すと、黒衣の人物は再び空間を歪めて何処かへと消えて行った。壮絶な場面は収束を迎えたが、未だ残された回帰の山には、山の神の血液や斬撃により吐き出した瓦礫の一部が降り注ぎ大地を荒らした。


 山の神が山頂に集めた生命体を喰らう神饌の儀をギリギリ回避する事に成功したアクセルとケネト達は、ツクヨが中から斬撃を放つ頃には既に二号目付近にまで降りて来ていた。


 それ故か、黒衣の男が斬撃を受け止めた時に生じていた被害には遭わず済んでいたようだ。彼らのいる辺りにも、まだ霧の影響は出ていたが、山の神の血の雨はや斬撃を含む衝撃波の影響は受けていない。それどころか、まるで何も起きていないかのように静かなものだった。


「なぁ、あれから妙に静かじゃねぇか?」


「あぁ・・・。あの馬鹿でかい穴が落ちて来てから動いていないのか、或いはこの濃霧で隠されているだけか?」


「隠されるって・・・この霧全部が結界だってかぁ?」


「可能性の話だ。だがあながち的外れという訳でもあるまい。あれからそれなりに経った。だが音沙汰がないのは不自然でしかない。あれ程大きなものが動けば、揺れや音が伝わってくる筈だからな」


 事態が大きく動き出していた濃霧の中の回帰の山。しかし山の神が降りたった山頂付近以外の場所では、驚くほど不気味な静けさが周囲を覆い尽くしていた。

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