過去の記憶に導かれ・・・
ミネの記憶からはこれ以上の情報は得られなかった。しかし記憶の中にいた黒衣の男が持つ刀と剣技には、現在のツクヨが持つ草薙剣のような禍々しいオーラはなかった。
男の話から推測するに、回帰の山の光脈ごとかぶり付いた山の神の体内には、生物の根源たるエネルギーが満ち溢れている。それを肉体という媒体に蓄え喰らうのが神饌の儀式こと、山の神の食事なのだがこれが草薙剣の能力を引き出すのに最適な状況だと言える。
それを証明するかのように、ツクヨがその刀を振るえば振るうほど、山の神の体内に充満する生命エネルギーを貪り、その身に余る程の力を蓄え溢れ出している。
つまり現状の草薙剣は、最大まで充電された状態の電化製品と同じと言える。否、厳密には違うが分かりやすく言うと、その電気を使う物と電気を蓄えておくバッテリーと理解するのが手っ取り早い。
「ツクヨ、アンタその刀の使い方は?」
「使い方?武器としてのって意味かい?私は剣士だから問題なく扱えるが・・・」
「そうじゃない、刀が溜め込んでいるその禍々しいオーラの使い道だ」
するとここで、二人の会話を聞いていたライノから、また新たな事実が発覚する事になる。それが脱出に何か影響するかと言われれば、攻撃の際の注意点くらいの違いになるだろうか。
「ちょっと待ってくれ。さっきから何の話をしている?禍々しいオーラって何の事だ・・・?」
何とライノには、ツクヨの持つ草薙剣の刀身に宿った黒いオーラが見えていなかったのだ。故に見るからに力を溜め込んでいるツクヨの武器に触れる事もなく、今に至っているのだった。
他の者が何を思い、どう感じているのか。ただでさえ常識に範疇を超えていた状況下で、他者の見解を求めている余裕が彼らにはなかったのだ。
「それで?どうなんだツクヨ、その力・・・アンタは制御出来ているのか?」
「制御出来ているというか発揮出来ているのか分からないけど、切れ味は今まで使ってきたどんな場面よりも凄まじいよ。それに能力が暴走したり、操られたりはした事はない」
「なるほど・・・つまりは切れ味が増すという現象自体は認識しているという事だな?」
「なぁミネ、今は悠長に話している場合じゃない!大型のモンスターが足場にぶつかって動いてしまった。それに・・・」
上空へ吸い上げられていく彼らの足場の周りには、他にも目を覚ましたモンスター達が寄ってきていた。それは魔物としての本能だろう。こんな状況であっても、彼らには関係なく狩猟をする事しか頭にないようだった。
「彼らにはこの状況でも関係ないようですね・・・」
「ライノ!カガリをこっちへ。俺がもう一度下へお前達を運ぶ」
「でもそうしたら貴方がッ・・・」
ライノはミネに言われた通りカガリを抱えてミネとツクヨの元にやって来る。ミネはもう一度あの移動方法を行えば、自身にどんな影響が出るのかなど既に覚悟の上だった。
それでもそうする事に踏み出そうと思ったのは、やはり先程見た嘗てのミネとしての記憶にあって黒衣の言葉と、それを証明するかのように現れた草薙剣を携えたツクヨの存在が大きい。
「いいかツクヨ。アンタにそれを扱えるかどうかは大した問題じゃない。出来なければここで全員死ぬだけだからな・・・」
「だからさっきから一体何を言って・・・!」
ミネはツクヨの腕を掴み、カガリを抱えるライノの腕をも掴むと、そのまま人の力とは思えぬ勢いで彼らを引っ張り走り出す。宙に浮いた彼らを引きながら足場を飛び立ったミネの身体は、まるで重力を得たように下へと落ちていく。




