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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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脱出計画の破綻

 彼はその腕に気を失ったカガリを抱え、物陰から姿を現した。ツクヨは彼との面識こそなかったものの、ミネから脱出する手助けとなる人間だと聞かされていた上に、このような状況でまだ命のある人間など他にいないであろう事から、彼がハインドの街にギルドに所属する隊長の一人、ライノである事を理解した。


「ミネッ・・・!?これは一体・・・」


「貴方がライノさん・・・ですね?」


「君は?そうか、君がミネの言っていた協力者か!名前は確か・・・ツクヨといったか?」


「どうしてそれを?」


 ライノも事前に、この山の神の体内に協力してくれる者がいるという話をライノにしていた。彼がツクヨの事を知っていたのは、ギルドに届いた捜索依頼の名簿の中にシン達の名前があったからだった。


 しかし、ハインドの街において行方不明者など日常茶飯事。そんな中でどうして彼らの名前だけ鮮明に覚えていられたのか。それはその捜索依頼の名簿の中に、アクセルらの名前とミネの唯一に弟子であるカガリの名前が並べられていたからだった。


 以前にミネと別れた時から、ライノはギルドと調査隊の確執を失くす事に尽力していた。周りに理解されぬ努力のせいか、ライノはなかなか組織の中で出世する事が出来なかった。


 仲間達の信頼こそ人並み以上にはあったが、時折理解されない行動に出たり、必要とされていない仕事を多く請け負っていた事から、次第に協力してくれる者の数は減っていった。


 だがそれをライノは決して恨んだり引き止めたりはしなかった。誰だって自分の事が第一と思うのは普通のことだろう。現状の仕事量や給料で満足する者や、今の環境が馴染んでいる者達が殆どの中で、調査隊との揉め事や新しい取り決めなどを調停し、現在の立場や環境を変えたがる方が煙たがられるのは必然と言えよう。


 それでもライノは、自分がその損な役割を引き受けてでも、回帰の山と向き合う機会の多いハインドの街を守る為、そしてそのキーマンであるミネを説得する為に、彼は迷うことなくこの道を歩み続けた。


 そして今漸く、その目的の人物であるミネと、長年謎だった回帰の山のシステムについて中核を成す場所に来ている。後はこれらを山の神の体内から連れ出す事ができれば、長らく謎だった回帰の山の情報を街の者達に共有し、進むべき未来の話が出来るようになる。


 故に何としても、その証人であるミネと今回の出来事について知るツクヨやカガリ達と、ここを脱出しなければならない。そう思っていたライノだったが、その脱出の糸口を握っていたミネの疲労した姿を見て、彼の表情からは希望の光が失われていった。


「なるほど、私達に捜索依頼が・・・。あれ?でも一体誰がそんな物を?」


 ライノから名前を知っていた経緯や目的を簡略化して聞いたツクヨだったが、彼はそれどころではなかった。ツクヨの元へ飛び立つ前、俺がみんなを脱出させると力強く言っていたミネが、どういう訳かもう脱出は不可能だと言い始めたのだ。


「どういう事だミネ、一体何があったと言うのだ!?」


「すまない・・・。まさかこれほど魂を消耗する行動だったとは、俺自身も知らなかったんだ。この腹の中なら、俺の魂が存在し続ける限りいくらでも移動出来るのだと思っていたが、どうやらそんなに都合の良いものではなかったようだ・・・」


「先程の移動のことか。だが俺達だけでは、この風の中を下へ降る事は不可能だぞ?それどころか、この足場もいつまで保つか分からない・・・。今は運良く引っ掛かっていて固定されているが、お前がいなくなった後、何度も崩れかけてる。さっきお前達が着地した衝撃だって、俺はてっきり・・・!?」


 ライノの話を聞いていたミネが、遂にその場に倒れ込んでしまった。最早身体を起こしている事すらままならない程、彼の魂は衰弱してしまっていたようだ。


「駄目だ・・・お前の話すらまともに入ってこない・・・。魂を擦り減らすということは、ここまで思考をも低下させるもんなんだな」


「マズイな・・・。これ以上余計なことでミネの魂を消費させる訳にはいかない。君は何か脱出の糸口を見つけたか?」


 衰弱するミネの様子を見て、彼にこれ以上頼り切るのは得策ではないと、ツクヨに何か脱出の案があるか尋ねるライノ。だがツクヨも、ミネの移動方法を持ってして脱出できると思ってた為、他に思いつく策など何もなかった。


 他に脱出の方法を考え始めようとしている最中、まるでそんな彼らを急かすかのように事態は更に悪化し始める。


 ミネがツクヨの元へ向かった後、ライノとカガリがいた足場は他の瓦礫や土などによって引っ掛かり、下から吹き荒ぶ山の神の吸引力から辛うじて耐えていた。


 しかしそんな彼らの命綱とも言える足場に強い衝撃が走る。バランスを崩したツクヨとライノが何事かと、身を乗り出して衝撃のあった下方付近を覗き込む。


 するとそこには、意識を取り戻した大型のモンスターが、風に流されて彼らの足場に激突していたのだ。その衝撃により、彼らの足場は動き出してしまい、再び山の神の体内を奥の方へと進み始めてしまう。

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