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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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大空洞の外の出来事

 時は少しだけ遡り、神饌の儀式が行われて間も無く。黒衣の男の力の前に成す術もなく吹き飛ばされたアクセルは、五号目付近まで飛ばされそこで相棒のケネトと合流する。


 山頂付近に発生する未知の濃霧と不気味な雰囲気に、撤退することを決めた二人は、空から落ちて来る大穴に巻き込まれる寸前で、辛うじて外側に逃げる事が出来ていたようだ。


 ハインドの街と回帰の山を中心に、それなりに長くクエスト依頼を受けながら問題解決に努めていたアクセルとケネトでも、山の神による神饌の儀式を目の当たりにするのは初めてだった。


「はぁ・・・はぁ・・・。何だありゃぁ!?空からデケェのがッ・・・」


「俺に言われても知らんッ!だがただ事ではない。あれがシンとツクヨがミネから聞かされたという”神饌の儀式“というやつなのかも知れん」


「儀式だぁ?儀式ってのはもっと粛々と行われるモンだろ!?空に大空洞でも召喚したってのかぁ?」


 息を切らしながら儀式というものについて語るアクセルは、魔力が尽きたのかその場に膝をついていた足を滑らせ、うつ伏せに倒れてしまう。どうやら二人が神饌の儀を逃れられたのは、アクセルの能力によるところが大きかったらしい。


 アクセルの身体を気遣い、身体が動かせる程度に回復を施すケネト。同時に彼はそのアクセルの機転と判断に命を救われたと感謝を告げていた。


「だがあそこでお前のスキルがなかったら、俺達は間違いなくあの大穴に飲まれていた・・・。相変わらず頼りになる奴だよ、アクセル」


「おかげさまでこの様だがな。お前も無事で良かったが・・・。なぁ、俺達は何とかなったが、山頂へはミネやツクヨが向かったんだろ?アイツら大丈夫か・・・?」


 アクセルの問いにケネトはかける言葉がなかった。単純に神饌の儀に巻き込まれた彼らがどうしているのか分からないというのが大半だが、あんな巨大な大穴に飲まれたらと思うと、とても無事とは思えなかったからだった。


 大穴が落ちて来た所には、何やら巨大な白い壁のようなものが天に向かって聳え立っていた。濃霧のせいでそれが何処まで続いているのかも分からない。しかしその白い巨大な壁とは反対の方向には何もなく、取り囲まれているといった様子はないようだ。


 周囲を見渡し状況を確認するアクセルとケネト。するとそこで、アクセルは白い壁から離れた位置の上空に、黒い影のようなものを見つける。


「何だ、アレ・・・」


「おっおい、アクセル!」


 彼はそのまま木を登り高い位置に移動すると、その影が想像以上に大きなものであった事を目の当たりにする。長細い棒状のようなものが、まるで蝶の羽のように斜めの十字になっている。


 そして目お凝らして見てみると、その中心には誰かがいるようだった。飛んでいるのか吊られているのかハッキリとは分からない。だがブレる事なくその場に停止していることから、自らその位置に居るというのが窺えた。


「誰かいる・・・?」


「まさか・・・アイツかッ!?」


 直ぐに気配を読み取ったアクセルはその異常な気配の強さに、神饌の儀式が行われる前に回帰の山で戦った黒衣の男である事を確信する。だが高い位置に滞空している事もあり、いくら大木の上に登ろうと届く距離ではない。


 しかしアクセルはお構いなしに、周囲にある一番高い大木の上まで登ると、その勢いのまま上空へ向けて飛び上がった。当然、人間の跳躍力程度では到底届くことはなかったのだが、ケネトにはアクセルが何をしようとしているのかが分かった。


「チッ・・・仕方ねぇな。アシストしてやるから、無茶だけはすんなよッ!」


 そう言うとケネトは武器となる伸縮するロッドを取り出すと、クルクルと器用に回しながら数発の火球を放つ。彼の放った火球は、アクセルの方ではなく、彼の下方に広がる木々の枝を燃やして折っていく。


 一見するとアクセルが安全に地面へと着地出来るように、森に穴を開けたようだが、邪魔な枝を排除したのは、着地の為ではなく助走の為だったのだ。


 上空へ飛び上がったアクセルは、彼の跳躍力で跳べる最高地点に到達すると、飛び上がった勢いは反転しそのままケネトが開けた森の穴へと落下していく。


 だがここからがアクセルの目論みだった。


 上空から森に入った時点で、アクセルの身体を白い煙のようなものがまるでゴムのように彼の身体を捉え、地面の方へと伸びていく。トランポリンを高い位置から踏み抜いたように、アクセルの身体は落下の勢いを利用して周囲の木々から伸びる白い煙を伸ばしていく。


 そして地面ギリギリまでやって来たアクセルは、衝撃に備えた体勢を取る。そして撃ち出される大砲の弾のように、アクセルの身体は風を切って上空へと打ち上げられた。


「野朗ッ・・・何考えてんだか知らねぇが、今度こそ一泡吹かせてやるッ・・・!!」


 勢い良く向かって来るアクセルの気配に、黒衣の男が気が付いていない筈はなかった。それまで無反応だった黒衣の男は、このまま向かってこないのなら相手をするつもりもなかったようだが、その期待を裏切るアクセルの行動に大きな溜息を吐いた。


「はぁ・・・こっちは“奴”の位置を確認するのに忙しいってのに。悪いがもう手加減はしてやらない」


 アクセルが凄まじい勢いで黒衣の男に迫る。黒衣の男は刀を構えて迎え撃とうと体勢を変える。拳を構えるアクセルが黒衣の男に接触しようとした瞬間、男は僅かにアクセルの軌道上から外れ、彼とすれ違う形でこれをやり過ごした。


 黒衣の男の後方にアクセルが飛んで行く。だがその一瞬の間に刀を抜いていたのか、黒衣の男の手元では刀が鞘へと戻され、小さく金属を鳴らした。


 アクセルの方もただすれ違っただけではなく、彼のクラスであるソウルハッカーのスキルで、黒衣の男の身体から魂の一部を引き抜いていた。


 互いの思惑が閃光のように駆け抜け、文字通り魂を賭けた一撃が上空の戦いに終止符を打つ。

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