様子のおかしいミネ
さらっと責任重大なことを旧友に託したミネは、脱出に関しては全員が合流した後に自分が皆を出口である山の神の口の外へと連れて行くと言った。しかし肝心のその方法については一切口にしなかった。
「お前のことだ。信用しているぞ」
「あぁ、再会して早々に頼み事をしてしまってすまない、ライノ」
「構わないさ。どの道俺一人ではどうしようもなかったんだ、道標をくれた方が俺としても助かる」
ライノはミネに言われた通り、上空へと飛び上がって行く準備をする。そんな彼を尻目に、ミネは二人の今居る足場からカガリの元へ辿り着く為のルートを確認する。
暫く大穴の奥を見つめた後、ミネは最初に着地するべき足場を指差しライノに指示する。どうやらカガリのいる場所へ到達するには、一気に飛んで行くことは出来ないらしい。
幾つかの足場を経由しなければ辿り着けないのだとミネから説明を受け、ライノは最初に向かうべき足場へと飛び立って行く。足場を掴んでいた手を離すと、ライノの身体は真っ直ぐに上空へと飛び上がる。
ミネの指示通り、ライノは寸分違わぬ飛行で最初の足場へと着地する。そこは最初にいた足場よりもやや小さく、何処かの崖が欠けたものだろうか、所々ゴツゴツとしていて足場としては不安定だった。
次の足場への指示をもらう為、ライノは周囲を見渡しミネの姿を探す。すると何故か彼は、ライノよりも先にその足場におり、上空を確認しながら次に足場の位置を確かめていた。
「ミネ!?どうしてお前が俺よりも先に・・・」
「すまないライノ、話はまたの機会に。次はあそこまで飛んでくれ。今度は少し軌道を変えなくてはならないが」
依然としてライノの言葉には耳を傾けないミネ。それ程緊迫した状況なのだろうか。少し不服そうにしながらも、ライノはミネが指差すルートを確認し、次の足場へと向かう。
ミネに言われた通り、空中で途中の瓦礫を押して軌道を変えるライノ。彼の指示へ的確だった。彼の言う通りの方向に瓦礫を押しただけでライノの身体は、ミネが思い描いた通りの軌道で次に足場へと着地する。
そしてやはりミネはライノよりも早く、次の足場に到着していた。何かおかしい事に気が付きながらも、ライノはどうせ何を聞いても彼は答えてくれないのだろうと、それ以降その事については追及しなかった。
何処かよそよそしいミネに気まずさを感じながらも、如何やら次の足場から行ける場所にカガリが居るのだとミネが語る。すると彼は、今はカガリには会えないと言い、次は一緒には行けないという。
「それは構わないがミネ、もう一人の剣士の方はどうする?彼は俺達よりも随分と奥に居るんだろ?」
「彼は戦闘をしていて位置が常に移動している。俺が先に彼の位置を突き止めて来るから、ここでカガリの様子を見てやってくれ」
「あっ!おい、ちょっと・・・」
ミネはライノの言葉を待たずして、愛弟子であり我が子のように育ててきたカガリを彼に任せ、一人上空に瓦礫の中へと飛び立ってしまった。
「ったく、自分勝手にも程があるぞ。・・・一体何を企んでやがる?ミネ」
ライノはミネの様子がおかしい事を気にしながらも、彼から託されたカガリの面倒を見る事になった。彼も山の神に喰われた後、空中を飛んでいる間に瓦礫とぶつかったのだろう。身体中に痛々しい傷を負っている。
だが致命傷になるような傷は無いようだ。直ぐに手持ちの回復薬で応急処置をし、回帰の山に入る時に持ち込んだ捜索の為の荷物に含まれていた包帯で、患部を覆った。
彼が行ったのはあくまで応急処置。光脈に精気による回復効果もあるにはあるが、この時点でのライノには分からなかった。故にカガリの弱々しい呼吸に、内心気が気ではなかったようだ。
一方、自我を取り戻しつつあったモンスター達の猛攻を受けていたツクヨは、流石と言ったところか多少ダメージは負いつつも、迫り来るモンスター達を傷つける事なくやり過ごし、大半のモンスター達はツクヨよりも上空へと飛んで行った。
その最中でツクヨは、リナムルで拾った刀のとある能力の片鱗を理解し始めていた。その刀は直接モンスターを斬ることなく、モンスターの生命力だけを削り取る事が出来るようだった。
その度に刀の纏う禍々しいオーラが増幅し、生命力を削り取る切れ味が増していたのだ。それに気が付いてからは、ツクヨの動きは明らかに変わった。彼自身、非常に戦いやすくなった事だろう。
本体であるモンスターの身体を傷つける事なく弱らせる事ができ、上手くやり過ごす事が出来たのだ。生命力を削られたモンスターは、身体の力が抜けてみるみる内に上空へと昇っていった。
戦場が落ち着きを取り戻しつつある頃、ツクヨの前にも突如としてミネが姿を現した。




