目を覚ます生物達
精気の流れの勢いが変わるポイントに到着したツクヨは、近場にあった足場に着地するとミネの反応を探す。多くの生物反応が流れて行く中で、人間という小さな反応を探すのは骨が折れる作業だった。
しかし多くの反応が見られる中で、精気の流れに取り込まれず停滞する反応は一つしかない。ツクヨがそれに気がつくのにそれ程時間は掛からなかった。
「見つけた!ミネさん、まだ自我は戻っていないのか?」
「・・・・・」
遠巻きに見る限り、彼の意識はまだ戻っていない様子だった。大穴が回帰の山の山頂に落ちてから、一体どれくらいの時間が経ったのだろう。大穴の中には、今回の神饌の儀式により取り込まれた生物以外姿を見せない。
だが至る所に過去の産物がある事からも、生物だけが消える何らかの現象が待ち構えているに違いない。それが直ぐの出来事なのか、或いは時間をかけてゆっくりと行われるものなのか。
ミネは山のヌシとして、そこまで分かっていたのだろうか。それでも彼の自身に満ちた返答を受け取ったシンとツクヨには、彼が勝算があるからこそ告げた覚悟だった。
ふと、その時のミネの言葉が脳裏を駆け巡ったツクヨは、狼狽える事なく、山のヌシとしての役割を今も尚果たしている彼を、全力でサポートし続けることを決意する。
下から上空へと飛んで来る瓦礫を刀で両断していくツクヨ。依然変わりなく、彼の持つ刀には徐々に力が溜め込まれていく。そんな事を知ってか知らずか、ツクヨの見事な刀捌きは続く。
ミネを見つける事が出来たツクヨは、布都御魂剣の能力を解除し、肉眼でミネの姿を捉える。そこで初めてツクヨは、自身の手に握られた刀が何やら不穏なオーラを纏っている事に気が付く。
「なッ・・・何だコレはッ!?」
そこへ飛んで来た瓦礫を、咄嗟に手にしていた禍々しい炎のようなオーラを燃え上がらせる刀を振るい両断すると、瓦礫は綺麗に真っ二つに斬れまるでツクヨを避けて行くように大穴の奥へと登って行く。
切れ味にも驚くツクヨだったが、それ以上に先程の瓦礫を斬った事により、纏っていたオーラが更に力強く膨れ上がったのを感じ、ただ事ではないことを悟る。
しかしながら、その刀は今までも問題なく使う事が出来た事や、これまでは何の変哲もない少しだけ切れ味が良いと感じるくらいの刀でしかなかった。それがここに来て突然、見た事もない見た目とまだ分からぬ不気味な能力を秘めている様子が伺える。
だが今は、その力に頼るしかない。他の武器を使っても良かったのだが、彼が何もスキルを使わず全ての瓦礫などを両断するのは難しい。
ツクヨが刀の様子に疑問を抱いていると、そこへ今度は大型のモンスターが彼の元へ飛んで来る。そのモンスターもまた、大穴の吸引力に飛ばされて来たようだが、彼はそのモンスターの様子を見て驚かされる。
何と彼の元へやって来た大型モンスターは、既に自我を取り戻していたのだ。叫び声にも聞こえる雄叫びを上げながら、足場のない空中でジタバタと手足を動かしている。
ミネを目視で捉えられる足場にいたツクヨだったが、その足場以上に大きなモンスターが迫るのに気がつく。先程の瓦礫と同じように、手にした不気味な刀で両断するか、それとも大穴内で生物の命を奪っても大丈夫なのだろうかという疑問で判断が遅くなってしまう。
そんな彼の迷いなどお構いなしに、大型のモンスターは彼の眼前へと迫る。ミネの覚悟の表情を思い出したツクヨは、神饌の儀式に生物の命を奪い、何かよからぬ事が起こるのを恐れ、咄嗟に足場から飛び退く決断をする。
ミネからは距離も離れてしまうが、刀を納め遠くの別の足場へと飛んで行く。すると自我を取り戻していた大型のモンスターは、ツクヨのいた瓦礫を弾いて彼が回避した方へ方向を変えて来たのだ。
「ォォォオオオオオッ!!」
前足が強靭に発達した四足獣。頭には畝る巨大な角もあり、その姿はまるで恐竜のようだった。その大型モンスターは発達した前足をまるで人間の腕のように振るい、ツクヨへと襲い掛かる。
「自我を取り戻したのかッ!?って事はミネも・・・?」
僅かに視線を大型モンスターから遠くに見えるミネの反応の方へ向けると、肉眼でも確認できる程の精気の流れが、さっきよりも弱まり出しているのが確認できる。
大穴のだいぶ深くまでやって来た事で、取り込まれた生物達の意識を奪っていた精気も、その身体から抜け始めたのかもしれない。このままいけば、間も無くミネの意識も山の神の支配から解放されるかも知れない。
だがそれは同時に、ツクヨ達と同じく大穴に吸い込まれた生物達が一斉に暴れ出す事にもなるのだ。




