刀身に宿る不気味な力
「またコレかッ!クソっ・・・山に入ってからずっとこんなだな!」
布都御魂剣の能力により、瞼を閉じた先に周囲の様々な気配を感じる中、大穴の奥へと吸い込まれていく人の気配、そして地上の方から精気を吸い上げながら上空へ送り込む精気の流れを探す。
吸い込まれていく生命体の気配から一つを見つけるには絶望的だったが、光脈の精気という生命力に溢れた気配の流れは一目瞭然だった。
「凄い気配の流れだ・・・あの中にミネさんが」
精気の流れの中に飛び込んでいく覚悟は既に出来ている。それ程悩む事なく行動に出たツクヨは、光のオーラに包まれる異彩を放つ人の気配の元へ向かう。
生きている者が生命力の源たる精気の中に全身を曝して大丈夫なのだろうか。だがそんな疑問も、その後にツクヨの様子を目の当たりにすれば、とても平気ではない事が分かる。
生命力に溢れた力。その源たる精気の流れに飛び込んだツクヨは、全身の傷や疲れが瞬く間に言えていった。そこまでは彼にとってもプラスだったのだが、全身の回復が終わると今度は徐々に身体から精気が抜けていくのを感じていた。
「これはッ・・・もしかして私の精気自体も!?」
ミネの光脈の精気を吸い上げる流れは、その中にいる全ての生命体からもその身に宿された光脈の精気を奪っていたのだ。
ツクヨよりも先に精気に流れに取り込まれていた他の生命体に反応を見ると、徐々にその生命エネルギーを奪われ身体がゆっくりと干からびていた。
悠長にしている時間はない。ツクヨは直ぐにその流れの先にある、流れを作っているミネの反応を探しに向かう。
ツクヨの見ている視界には、生命反応の他に岩や瓦礫などの無機質なものも、角ばった真っ黒な反応として見えていた。それを足場にして大穴の奥へと加速して上がって行くツクヨ。
今はまだ精気の力により全身が軽く、プラスな影響しか表れていない。今の内にどれだけミネの反応に近付けるかが勝負どころだった。精気の流れの中にも、当然瓦礫や抉られた大地など、彼の妨げになる物体も多くあった。
それを最も容易く両断して行くツクヨの刀。彼はそれを光脈の精気の影響で、自身の身体が強化されているのだと思っていたようだが、実際はそうではなかった。
正確にはそれも当てはまるのだが、今ツクヨの斬撃に普段よりも強力な力が宿っているのは、リナムルで手に入れたその刀が、隠されていた能力の全貌を表し始めていたからだったのだ。
自分や周囲の精気の反応、それに視界中に広がる様々な反応に隠れて目立たなかったが、ツクヨの持つ刀にも妙な反応が集まり出していた。それはその刀で物を斬る度に力を増していく。
その度に刀の物を斬る切れ味は増していき、それと比例するように刀が帯びる不気味な反応も強くなっていた。だが、その反応は今のツクヨには到底気付けるものではなかった。
広大な森の中でたった一本の木を探し出すように、周囲の精気の反応に紛れてしまい、自身の刀が帯びる力の反応に気付けずにいた。ただその反応は肉眼でははっきりと見える筈のものだった。
精気の反応が綺麗なオーラのように見えるのに対し、ツクヨの拾ったリナムルに集まる力の反応は黒く禍々しい炎のように刀身を覆っていたのだ。それが刀を振るう度に濃さを増していく。
正確には物を斬った時に力が増しているのではなく、その刀自体が光脈に精気を喰らい、本来の力を解放しつつあったようだ。
そして、暫く大穴の中を進んで行くと、遂に精気の流れが変わるポイントを発見する。その境目こそ、今大穴の中にある精気の流れを作り出している山のヌシ、ミネがいる場所に他ならない。




