ソウルハッカー、魂の一撃
自ら獲物を森に隠す様な行動をとる黒衣の男に違和感を感じつつも、気配を消しながら接近して攻撃のチャンスを伺うアクセル。
「何故奴はこんなこと・・・?いや、これは逆にチャンスか?あんなの無視してツクヨを追い掛けた方が良いんじゃ・・・」
「それは困る」
「ッ!?いつの間にッ・・・!」
自ら吹き飛ばし、その距離を広げた筈の黒衣の男は、どういう訳か既にアクセルの気配を探し出し、気付かれぬうちにその背後へ回り込んでいたのだ。
「テメェで吹き飛ばしたんだ、大凡の位置くらい分かるってモンだろ」
隠れていた木ごとへし折る蹴りを入れた黒衣の男。突然の攻撃に慌てて前方へ飛び込む様に回避するアクセル。すると、木が倒れるよりも先に回り込んで来た男が、次なる一撃をまだ回避途中の体勢で無防備なアクセルに叩き込む。
男の回し蹴りがアクセルの顔面を捉えたかの様に見えたが、辛うじて両腕でこれをブロックした彼は、そのまま森の奥の方へと吹き飛ばされて行く。
「・・・・・」
森へ消えて行くアクセルの姿を見つめながら、黒衣の男は珍しくその口を閉じていた。一方、吹き飛ばされたアクセルは、何とか受け身を取る方法を模索していた。
「あっ危ねぇ!まともに食うところだったぜ。んな事より木!受け身とらねぇと!」
直ぐに両腕を左右に伸ばし、丁度良い太さの木に狙いを定めると、ソウルハッカーのスキルで木から生命力を引き摺り出し、それをゴムのロープのように使って受け身を取る。
「位置が分かってたって?クソがッ・・・俺ぁ完全に気配を消してた筈だぞ。いくら大体に位置が分かったって、あそこまで正確に場所を突き止められる筈がねぇ。一体どんなトリックが・・・?」
「トリックなんかねぇよ」
「ッ!?」
またしても正確に位置を突き止められてしまうアクセル。この時も彼は気配を消していた。それにも関わらず、遠く離れたアクセルの位置を探り当てたのに、男は何も仕掛けなどないと言う。
そして黒衣の男はそのまま、アクセルの居場所を突き止めている方法について、とてもアクセルには信じがたい話を始めたのだ。
「俺がお前の居場所を突き止めている方法・・・それは“座標”さ」
「座標だと?・・・ッ!?」
話に気を取られたアクセルに、男は刀を鞘ごと振り抜く。喋りに気が逸れているせいか、男に振るう攻撃をアクセルは辛うじて回避出来ていた。その間にも黒衣の男の言う、座標というものの話は続く。
「どうせお前には理解のしようもねぇから話してやるが、俺にはお前が何処にいるのか、その座標が数値として見えている。だから気配を消そうが枯葉に身を隠そうが、俺から逃れることは出来やしないんだよ」
「それがお前の能力・・・?」
「能力って言うのも違う。これはスキルやクラスに備わる特性なんかでもねぇ。俺もまだ“コレ”を与えられて間もない。故にまだ仕様に慣れてないんだ。さっきお前と一緒に居た男・・・。奴が持っていた刀は、普通の人間じゃ扱えない代物だ。もしあれが本物なら・・・」
攻防を繰り広げる最中、僅かに喋りを止めた男が遠くを見つめる様な目をした。アクセルはその隙を見逃しはしなかった。今度は動きではバレぬよう、自分自身を囮に使い、背後の木から魂を結びつける煙の様なオーラを伸ばした。
だが、黒衣の男はそれさえも気付いていたのか、アクセル攻撃を躱した後にも関わらずその触手のように伸びるオーラをも避けて見せた。
「何ッ!?」
「俺が話に気を取られていたとでも思ったか?」
黒衣の男の背後の木から伸びた、触手のようなオーラはそのまま男に避けられ正面に立っていたアクセルに命中してしまう。するとアクセルの身体から魂が引き摺り出され、彼の魂は力強く拳を振り上げていた。
「・・・!」
「お前が避ける事も、織り込み済みだッ!!」
アクセルの魂の拳が、遂に黒衣の男に届いた。ダメージとしてはそれ程大きくなかったかも知れないが、それでもこれまで触れる事すら出来なかったアクセルにとって、この一撃の意味は大きかった。




