ミネという人物
街で書物庫の場所を聞きながら無事に辿り着いたミネ。そこで調査隊の歴史について調べ始めたミネは、そこでこの街のギルドと調査隊の確執について知る事になる。
歴史から見てもギルドと調査隊はあまり仲の良い組織ではなく、周期的に仲違いを繰り返しているのが分かる。その度に互いの総人数に変化があるようだったが、ミネという人物に注目して調べていた彼は、更に信じがたい記録を目にする。
当時の隊員名簿には、名前の同じ人物もちらほら居たようだが、ミネの名前は一定間隔毎に世代を超えて存在し、その都度調査隊の総人数が減っている傾向にあるのに気がつく。
何故減っていく傾向にあるのかは記載されていなかったが、最も調査隊が少なくなった頃にミネの名は隊員名簿から消えていたのだ。しかしこれといって調査隊の中で問題が起きた訳でもなく、ギルドと何かあった様子も文面からは読み取れなかった。
記録に残るミネという人物が、全て同一人物でそれを今まさに調べている自分でその人であるのか、記事や記録で僅かながらではあるが、身に覚えのない記憶まで蘇り始める。
表情が曇り、具合が悪そうな彼を見た一人の職員が声を掛ける。それ程自分の様子がおかしかった事にすら気付かないほど夢中になっていたミネは、怪しまれる前に重要そうな手掛かりを調べ書物庫を離れる事にした。
建物から出たミネは、書物庫で調べた回帰の山の記録で一際興味を引かれた、明確な場所が分からないという湖に向かう事にした。元より彼の記憶の源は、彼が現れた回帰の山にあると考えたのだ。
現地に向かえばより鮮明に記憶を思い出せるかも知れない。そんな思いに駆り立てられながら街を離れ回帰の山へと足を踏み入れたミネ。湖の場所がどこかも分からぬまま、あてもなくただ導かれるように足を運んで行く。
そして彼が山に入りだいぶ時間が経過し、陽が沈み始めた頃にミネは探していた湖へと辿り着く。そのあまりに美しい光景に、彼自身も頭が真っ白になる程だった。
ゆっくりと足が向かい、湖の水面を覗き込むミネ。するとそこには、年老いた何者かの姿が映っていた。驚いて尻もちをついたミネは、湖の方を見ながら暫く放心状態となった。
水面から何かが出て来る訳でもなく、周りに何か異変が現れる訳でもない。自分が見た光景は、誰かによる攻撃ではない事を悟り、一先ず安堵したミネはもう一度先程水面に映り込んだ光景が本物だったのかを確かめる為、再び水面を覗き込んだ。
すると今度は今のミネよりも若い人物が水面に映り込んでいた。
「これは・・・誰だ?」
思わず溢れた彼の言葉に答えたのは、水面に映る人物だった。一人でに喋り出す水面に映る人物に驚きつつも、ミネはその人物に言葉に耳を傾ける。その人物曰く、彼はミネの別の姿であり、先程の老人もミネの別の姿なのだと語る。
「もう気付いているんだろ?コレもコレも・・・全部お前だ。街で調べただろ?ここには古くからミネという人物が存在した。紛れもなくその全てがお前であり俺なんだ・・・」
「馬鹿なッ・・・!?あり得ない!人がそんなに長生き出来る筈が・・・。それに老人もいたぞ!?あれは俺の未来だとでも言うのか!?」
困惑するミネに、水面に映る人物は様々な年齢の姿へて変わりながら笑みを浮かべて質問に答える。だがその答えは更にミネの混乱を招くものとなる。
「ふふふ、未来の姿じゃないさ。ここに映っているのはあくまでお前の“過去”の姿だ。つまりあの老体も、お前の過去にあった姿って訳だ」
「過去って・・・。だって人は、時間の経過と共に老いるものだろう。俺だけ時が逆行しているのか・・・?」
話の見えぬミネを嘲笑う水面の人物は、そこで彼にも理解出来るようミネの身に起こっている出来事について語り始める。
「逆行じゃない・・・。あの姿もこの姿も、全て過去のモノ。覚えているか?お前が何故こうなったのか、過去に一体何があったのか。お前は嘗てこの山の儀式に参加していた」
彼の言う山の儀式。それはシン達が見た白装束の者達が行っていた、山頂での儀式の事だった。その昔、ハインドの街には山の災害から街を守る為、生贄を使って山の神様の怒りを鎮めたという言い伝えがある。
今にして思えば、生贄など何の意味もない人間が勝手に始めたものであったが、それでも人々はそれで災害が起こらず、犠牲も減るものだと信じていた。信じざるを得なかったのだ。
あまりにも無慈悲で悲惨な現実から目を背ける為に、当時の人々は迷信に縋るしかなかったのかもしれない。
「山の・・・儀式・・・?」
「生贄を神に捧げるという儀式さ。回帰の山の山頂にある古い祭壇、あれは嘗て行われていた儀式の名残だ。お前が参加した儀式では、二人の若い夫婦の子が山の神に選ばれ生贄の祭壇に捧げられる事になった」
水面の人物が語る話を聞いている内に、ミネの頭は次第に痛み始める。それと同時に、不思議と作り話のような彼の言葉を受け入れつつあった。まるで失われていた記憶が自分の頭に、情報として吸い込まれていくように。




