一行を救った仲間の帰還
「全力で戦えねぇってのは難儀なもんだな・・・」
「銃を使えないから、今回はミアもツバキやアカリ達と一緒だね」
ミアの得意とする銃撃では、周囲に物騒な音が響いてしまう。今回やる事のないミアは、アカリとカガリの護衛に付いている。といっても、最悪の事態に備えての護衛であり、その時まで武器を使うのは禁止されていた。
「はっ、まぁ今回はゆっくり休ませてもらうさ。しっかり働いてくれよ?剣士さん」
少しふてくされた様子で、大きな木の根元に寄り掛かり目を閉じるミア。すると間も無くして、今度は上空から一行の元へ近づく何かの気配に気が付くケネト。
だがその気配に彼は覚えがあった。モンスターではないようだが、どうやら人でもない。光脈に精気に当てられているという様子もない事から、危険な状態にある生命体ではないと予想される。
「もう直ぐ見えて来るはずだ。ツバキ、映像を確認してみてくれ」
「あいよぉ〜。どれどれ・・・んじゃその不気味な奴が何なのか、見てみますかねぇ」
ツバキもミアと同様に戦闘を控えるようにと言われ、今回は偵察役として上空にガジェットを飛ばし、カメラからの映像で一行に情報を伝えていた。ケネトの感じたという気配の正体を確かめるべく、手元のモニターの映像に目を通していた。
そんな彼の目に、一行を喜ばすであろう吉報が映り込む。
「おっおい!これってッ・・・!!」
「どうしたの?ツバキ」
明るい表情でモニターに齧り付くツバキを見て興味を引かれたアカリが、そんな彼に近づき手に持つモニターを覗き込む。するとそこには、ずっと彼女と共にあった紅い鳥の姿が映っていた。
「うそッ・・・紅葉!?」
「!?」
アカリの声に反応したツクヨとミア。嬉しそうにするツバキとアカリの姿を見て、思わず優しい笑みが溢れる二人。シン達一行がどれだけ紅葉の事を心配していたのかが窺える場面を目の当たりにして、彼らが固い絆で結ばれているのだと悟る。
「彼の様子は?」
「え?あっあぁ、無事だ!怪我もしてねぇみたいだし、少し疲れてるかも知れないがアカリがいりゃぁ大丈夫さ!」
「良かった・・・本当に良かった・・・。おかえり、紅葉・・・!」
紅葉は特に傷付いた様子もなく、飛び方にもおかしいと思うような点は見当たらない。突然一行の元を飛び去り、霧に囚われた彼らを救った紅葉。
何故彼が突然そのような行動に出たのか。当時はアカリのピンチに颯爽と隠された力を解き放ったかのようにシン達も思っていたが、今まで一行の前でその姿を披露するのも珍しかったが、アルバの宮殿での戦闘以来、紅葉は身体を大きくし戦うことも増えたように感じる。
それが単純に紅葉の成長によるものなのか、何か条件があってのことなのかは分からない。紅葉の変化が心配でもある一行だったが、その戦力の増強はシン達にとっても頼りになるものだった。
ツバキのガジェットを見つけた紅葉は、直ぐにその後を追い始め、ツバキの誘導の元に一行と合流する事が出来た。木々の間を器用に飛びながら降下する紅葉は、アカリの近くに降り立ち彼女の熱い抱擁を受ける。
「おかえり!紅葉、大丈夫だった?」
「キィー!」
「へへっ、案外元気そうだな!紅葉の奴」
「凄いね。身体を大きくしたり縮めたり出来るなんて・・・。これも魔法の力って奴なのかな?」
WoFの世界では、戦闘時と非戦闘時で姿形を変える種族や魔物などは数多く確認されている。実際、リナムルの獣人達の中にも戦闘時に筋力を増強したり、体格そのものが変わる者もシン達は目の当たりにしている。
ゲームとしてのWoFでも、そういった生物やモンスターは多い。故に決して珍しい生物という訳ではないのだが、大概のそういった生物というのは、それを使役する魔獣使いやモンスターテイマーなどというクラスの者や、或いは召喚士などといったクラスの特徴でもある。
それ以外だと、敵側のボスモンスターであったり、特殊な薬物により強制的に姿形を変えるといった場合などがある。
だがこれだけ並べ連ねてみても、やはりアカリには当てはまらない点が多過ぎる。彼女に魔物を使役するような素養はなく、召喚士や陰陽師のように召喚獣や式神といった類のものを呼び出すことも出来ない。
「再会を喜んでいるところ悪いが、彼は元のサイズに戻れるか?あまり気配を周りに悟られる訳には・・・」
「どう?紅葉、小さくなれる?」
「キィ!」
アカリの言葉を聞いて、紅葉はその紅く美しい身体を縮め、いつものサイズへと戻る紅葉。便利な身体に目を奪われつつも、一行の周囲には依然として精気を纏ったモンスターが人の気配を察知してやって来る。
「こんなのがずっと続くのか?」
「だからこそ、本来は光脈の精気の流れを読み、荒れていない時期を選んで一気に越えるのが定石なんだ。今回は精気の流れも乱れ、ヌシの移動も活発になってる。本来であればこんな状態で山に入るのは自殺行為だ」
「だが今回の依頼は、そんな中での捜索依頼・・・」
「あぁ。トミの奥さんを探すには精気の流れを運ぶヌシが活発になっている時じゃないと、確かな足取りも掴めないだろうしな」
ケネト曰く、行方不明者のその殆どが光脈に飲まれたか、精気に当てられて精神に異常をきたし、山の中を彷徨っているかだと言う。カガリの言うミネが森の生物を従えていたと言う光景の謎も相まって、今回の捜索は回帰の山の調査でも珍しい現象を解き明かす鍵にもなるだろうと、アクセルとケネトは考えているようだ。
「ここいらでギルドに恩を売っておくのもいいだろう。それにこんなに色んな事が重なるのも珍しい。悪いが街の為にももう少し協力してくれ・・・」
「元からそのつもりらしい。何よりツクヨの奴が、その依頼人であるトミって人に随分と思い入れがあるようだしな」
「気が変わっていないようで安心したよ。だがもう直ぐ山頂だ。次に明るくなった時が最後のチャンスかも知れない」
荒れた山の山頂付近で、ここまで被害を抑えられている方が奇跡に近いと語る。しかしこんな状態もいつまで続くかはケネトにも分からない。それに一行には既に精神の異常とも取れる、何者かの幻覚が見えているのだ。
これ以上長居するのは危険かも知れないと、次に陽が沈むまでがタイムリミットとし、一度街へ戻ると一行の方針が固まる。
 




