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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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特徴が無いという特徴

 アクセルの話は、以前ツクヨとツバキに話したものと同じで、彼もあの時から思い出した事に変更点はなかった。幼き日に黒い衣の人物に助けられたこと、そしてその人物の顔や年齢、名前などその一切が不明である事をシンに伝える。


 現実世界からやって来たシン達以外にも、黒い衣の人物達に接触した者がこの世界にいる。しかもその話は近年のものではなく、シン達よりも長く生きているアクセルとケネトが子供の頃から居たという。


 つまり、よっぽど突拍子のない話じゃない限り、黒い衣の人物達がこちらの世界に現れたのは、シン達のいた現実世界に異変があってからではないという事になるだろう。


 黒い衣の人物達は異変が起きた時期よりもだいぶ前から、こちらのWoFの世界に存在し暗躍していたと思われる。そして異変が起きた後も、何らかの目的のために行動していることから、異変を起こす事自体が目的ではなかったという訳だ。


「それほど前から奴らは・・・」


「何だ、お前もあの人の事何か知ってるのか?なら、お前も知ってる事を教えてくれねぇか?俺とケネトはその命の恩人に、もう一度お礼をしたいんだ」


「・・・・・」


 アクセルの言葉はまるで、少年のように裏表のない純粋な言葉だった。彼は黒い衣の人物が何者かなど探るつもりもなく、ただその時に救われた恩を返したいだけなのだ。


 ただ、シンの知る黒い衣の人物達は、アクセル達を助けたような人情のある者達ではない。彼にそんな話をしていいのだろうかと悩むシン。もしここで彼らの恩人である黒い衣の人物が悪者であると話せば、とてもではないが良い気分ではなくなる。


 そんな事で協力関係が決裂するとは思っていなかったが、シンは馬鹿正直に黒い衣の人物達の情報を伝える事はせず、以前に海上レースに開会式が行われたグラン・ヴァーグに現れた話や、この森でカガリを助けた際に見た黄金に輝く川の麓で、それらしき人物と話した事について、アクセルに語った。


「あの時にか!いや、だが俺のところには誰もいなかったぞ?ってか、お前あの時に話したのは嘘だったのか!?」


「はっ話をややこしくしないように合わせただけだ。それにアクセル、お前が黒い衣の人物達について話してくれたから、俺もこうして話してるんだ」


「おっおう、そりゃぁありがとよ。でも待てよ・・・?ここでお前があの人っぽい人を見たと言うんなら、ここに来てるのか?」


「いや、それはどうだろうな。そもそもあの空間自体が何なのか分からないんだ。ここではない何処かかも知れないし、時代や時間さえ超越した空間だったかも知れない。探そうなんて気は起こすなよ?」


 シンの注意喚起に、アクセルも闇雲に探して一行を振り回すような真似はしないと約束をする。ただ、ケネトと同じく気配を探れるシンに、その黒い衣の人物の気配の特徴について尋ねる。


「気配の特徴もなにも・・・あの空間のせいでそもそも正確には掴めなかったし、何も特徴と呼べるような違いは無かったような・・・」


「特徴が無い・・・?」


「あぁ、それこそ街の人々と同じような、ただの生命体としての人の反応・・・。それしか感じられなかった」


 アクセルの言うように、何か特徴でも見つける事が出来たのなら、近くに黒い衣の人物が現れれば見つける事ができるかも知れない。必死に手掛かりを思い出そうとするシンの話を聞いて、アクセルはそれで十分だと語る。


「何だよ、あるじゃねぇか特徴」


「え?いや、だから特徴が無いって今話したばかり・・・」


「“特徴が無い”ってのが特徴なんだよ。それだけで随分と絞れるじゃねぇか」


「ッ!?」


 口角を上げて得意げな顔をするアクセルを見て、シンはハッとさせられる。彼の言う通り、それだけである程度の人物像が絞れる事にシンは気が付いた。


 要するに黒い衣の人物という見た目に加え、気配自体は戦闘を行うような者達とは違う街のNPCと同じ気配を纏っているという事になる。それが黒い衣の人物を探し当てる手掛かりとなるのだ。


「まぁしかしだな、そもそも全身を覆う黒い衣を纏ってる者自体が目立つからな。それにローブ姿となりゃぁ、危ない理念を掲げる集団や魔術師ってのが定番だ。特徴が一致してるからって、直ぐに話しかけるなよ?」


「あっあぁ・・・気をつける」


 アクセルの呼び掛けは、シンがしようとしていた事を見事に見抜き踏みとどまらせる。元よりシンも、その特徴に気がついた時に脳裏を過っていたからだ。


 二人が話をしているうちに、野営を設置する為のスペースが確保され、一夜を過ごすには十分な量の薪も集められていた。食料は持参の分しかないが、モンスターに追いかけ回された影響もあり、想定以上のペースで山頂へと近づいていた一行は、このまま山頂付近の調査を行い、一度街へと戻る計画を立てる。


 野営の焚き火が起こす煙は、そのままギルドの捜索隊への無事を知らせるメッセージにもなっている。これを受け取ってくれれば、ギルドの捜索隊も迎え入れる準備をしてくれる筈。


しかし、肝心のそれを受け取る側は、彼らが焚く焚き火の煙を見つけられずにいたのだ。

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