恩師を探して・・・
それではこれまで回帰の山に飲まれていった人間達も、その生命のコントロールによって誘われた可能性があるのではないか。そして今まさに突然人が変わったかのように黙ってカガリの前から姿を消した、ミネもまたその影響を受けて山に入ってしまったのではないかという考えに一行の意見は纏まった。
「じゃぁミネさんは今も操られてッ・・・!」
居ても立っても居られない様子で立ち上がり、真っ暗の森の中へ向かおうとするカガリを止めるツクヨとケネト。確かに彼のいうように、今直ぐにでも助けに行かなければミネがどうなるか分からない。
ただ必ずしも当たっている訳でもない推測で、ここにいる者達の命を危険に晒す事は出来ない。助けに行くつもりが、ミネを救えぬだけで無く全滅という最悪の展開も十分考えられる。
未だ謎の多い山道を無策で突き抜けるのは自殺行為に等しい。
「よせカガリ!今からじゃ無謀だ」
「でもミネさんがッ!急がないと取り返しのつかない事になる!」
「だが無事かも知れない」
ミアの言葉に強い視線を向けるカガリ。他人事だと思って楽観的に発した言葉と彼は受け取ったようだ。だが当然ながら、ミアはそんなつもりでカガリに言葉をかけた訳ではない。
冷静さを欠いてまともな判断を下せなくなっている彼を落ち着かせる為、ミアは言葉を続ける。
「そもそも意思を持たない者のコントロールって話も、正確な情報ではない」
「けど、ケネトさんは昨日、俺のことを見たってッ!」
「だがお前は無事だった。人間をコントロールするのは、人間にしか出来ない事をやらせたいからなんじゃないか?だとしたら、ミネも用が済んだら放置される可能性も十分にあり得るだろう」
自身の例を出され一瞬口籠るカガリ。少しは冷静さを取り戻したようで、反論の言葉を吐くものの、その声色は穏やかになり声量もだいぶ小さくなっていた。
「それは・・・そうかも知れないけど」
「それに助けに向かう筈のアタシらが死んじまったら、元も子もないだろ。明日明るくなったら捜索を再開する。だから今は身体を休めろ」
カガリはミアやケネトらの説得により腰を下ろし、素直に言われた通り明日の捜索の為、身体を休める事を約束した。
それから暫く、交互に見張り役を交代しながら一夜を明かした一行は、木々の隙間から明かりが差し込み始めた頃、野営を片付けカガリがミネを追っていたという山道へと向かった。
流石に明るくなると、あれだけいたモンスターの気配もすっかり無くなり、代わりと言ってはなんだが、遠くに幾つかの大型のモンスターの気配が感じられるようになった。
それらは恐らく、夜行性で群れを成して行動する者達とは違い、強敵だが争いを好まない草食のモンスターだとアクセルらは語る。しかしそう言った大型モンスターも、決して人に慣れている訳ではないので、やたらに近づかないよう注意を促していた。
「カガリ、お前が覚えている最後の場所はどの辺なんだ?」
「もう直ぐだと思う。俺は気を失う寸前、あの場所で倒れたらミネさんやそれについて行ってる魔物達にバレると思って、反対方向に下がったんだ」
「ミネの気配は追えるか?」
「普段のミネさんの気配なら勿論分かるけど、あの時のミネさんの気配は周りの動物や魔物に飲まれていて・・・。でも現地に残されてる痕跡でもあれば、何か掴めるかも知れない!」
ミネの捜索を決して諦められないであろうカガリの熱意は、その言葉だけでも強く感じた。彼のやる気が損なわれていないのはいい事だった。生命の感知だけならシンやケネト、多少であればアクセルやミア達にも可能だが、より強くミネの気配を感知出来たり山の調査で役立つ道具を使いこなせるのは彼だけだからだ。
足早に向かうカガリのおかげで予定よりも早く彼が倒れていた場所へと到着する一行。早速そこからミネが辿ったであろう道を探す為、カガリの記憶を頼りに先ずは痕跡探しを行う。
カガリから指示を受けたのは、先ずは痕跡として定番の足跡やミネの服の切れ端、持ち物などの捜索だった。それらは行方を探すに当たっても、大きなヒントとなるものだった。
次に注意すべきものとして、ミネが万が一意識が戻り、何処かに魔力で痕跡を残しているかも知れないという事だった。これはカガリが山で調査を行う際に最初に学んだことだった。
自身の魔力を使って植物や地面に痕跡を残しておく事で、帰り道が分かったりもし遭難した際に、捜索隊が発見しやすいようにする工夫が含まれていた。魔力に痕跡はクラスに関係なく、誰でも出来るものらしく、少し習えばツバキやアカリでも容易に出来るものらしい。
そういった習慣が身体に染み付いているミネだからこそ、もし自身の身に何かあると察していれば、長年共に暮らしてきたカガリに向けて、何らかのメッセージを残しているかも知れない。
一行は当初の目的であるトミの依頼を遂行しながら、ミネの痕跡も探して行く。単純に捜索能力の低いツバキとアカリは、それぞれの持ち味を生かし、一行の役に立とうと頑張っていた。
ツバキは自身の発明した空飛ぶカメラを駆使して、手元に持つデバイスと連携し上空から周囲の様子を探ってくれていた。三号目付近や山の麓の辺りには、ギルドの捜索隊のものと思われる合図や狼煙があげられている。
そしてアカリはというと、彼女自身は山にある薬草の調合に使えそうな物を収集しながら、捜索には紅葉の動物としての本能や感知能力に頼った捜索をしている。紅葉は最初に山へ入った際にも、誰よりも早く精気の流れをその身に感じる性質を持ち合わせている事が分かっている。
アカリはそんな紅葉の容態を心配しながらも、彼の体調をサポートするアイテムを使いながら捜索の手伝いをしている。
すると、最初にミネの痕跡を発見したのは、そんな精気を感じやすい性質を持つ紅葉だった。突然頻繁に鳴き声を上げながらアカリの元へ戻って来た紅葉は、一行を案内するように森の中を進み、何かを見つけた場所の近くの木の枝に止まると、下を向きながら木の幹を突いている。
「ここに何かあるの?紅葉」
「急にどうしたんだ?あの紅い鳥は」
「何か彼にしか感じない物が、この近くにあるんだろう。周辺を探してみよう」
目的もなく騒ぎ出したり誘導する紅葉ではないと、ミアは率先して紅葉の止まる木を探し始める。暫く皆で周辺を探していると、紅葉の止まる木の根元の土が、小さく不自然に盛り上がっているのアカリが発見する。
「ねぇ、ミアさん。ここ何かあるみたい」
「ん?どれ・・・」
一緒に紅葉の止まる木を重点的に探していたミアにそれを伝えると、何があるか分からないからと、近くに落ちていた木の枝で土を掘り起こしてみる。するとその中から、森の動物が埋めたのであろう数種類の木の実が見つかった。




