明かされた事実と深まる謎
カガリの事について一通り聞いた一行は、次に彼が山に入ってからの出来事について尋ねた。
ミネが山に入って行くところを目撃されたのが一昨日に夕暮れ時のこと。カガリの行方が分からなくなっていることに気が付いたのが昨日の出来事だった。
事情を知らない者達からすると、カガリは少なくとも昨日の時点で山に入っていたことが予想される。そしてシン達が六合目の付近で彼を発見したのがつい先程のこと。
カガリは丸一日回帰の山に入っていた事になる。
「カガリはいつからこの山に入ったんだ?それも整備された山道じゃないルートからなんて珍しい・・・。何か事情があったんだな?例えばミネを探しに来たとか」
いきなり核心をつくように質問をするアクセル。大方シンもミアも、アクセルの考えと同じだった。ミアとアカリが見たミネの姿を最後に、恐らくカガリもまたミネがいなくなったことを知った筈。問題はいつ山に入ったかだが、彼は思いの外早くにミネの後を追っていたようだ。
「貴方の言う通り、俺はミネさんを追ってこの山に来た。居なくなったのは一昨日の夜。ミネさんはたまに俺にも告げずに山に入ることはあったが、その時はやけに軽装だったんだ」
「軽装?それは登山の道具や調査道具って事か?」
「いえ、一人で向かう時は調査隊の仕事というよりも、山の様子を見に行く時だけだったんだ。だから一昨日もてっきりそれかと思ったんだが、ちょっと気になってミネさんの部屋を覗いてみたんだ。そしたら光脈に精気を測る為の道具すら持って行っていなくて、多分ほとんど手ぶらだったんじゃないかな・・・」
いつもの様子と違うミネに、カガリは彼には悪いと思いながらも、少しだけ後を追って山に入る決断をしたのだと言う。
初めは整備された山道の方から登り始めたカガリだったが、五号目を過ぎた辺りから、近くに精気を纏った生物の気配を感じたのだそうだ。
ミネの置いていった精気を観測する為の道具を使い、その精気の流れを測ってみると、ただの動物や魔物ではない数値が観測された。余りにも強い反応に、最初は下山を考えたカガリだったが、山の上の方を見た時に、何かの光がゆっくりと上へ登って行くのが見えたのだと言う。
「光・・・。誰かの松明の光とかか?」
「はっきりとは分からない。だが火の灯りというよりも、人工的な道具で灯したような光だったと思う。だから俺、それがミネさんなんじゃないかって思って、急いでその光を追ったんだ。そしたら・・・」
カガリが見つけたという光の進行速度はそれほど早いものではなく、走って向かったカガリが追いつけるものだった。そして光に追いついたカガリが目にしたのは、精気を纏った動物や魔物を連れて、まるで何かに誘われるように山を登るミネの姿だったようだ。
「ミネを追ってたらこの山道に出ていたって訳か。じゃぁミネはこの先に・・・?」
「まぁ慌てるな。先ずはその後、どうなったかだろ?それにいつ気を失ったのかも聞いちゃいないんだ。質問はその後にしよう」
相槌を挟むアクセルに痺れを切らしたミアが、先にカガリの話を全て聞いてからにしようと提案する。シンもミアの意見に賛成だと後押しをすると、アクセルは話の腰を折って済まないと謝罪し、カガリに続きを聞かせてくれと促した。
「どういう訳か分からなかったけど、モンスターもいたから直ぐにバレないように隠れたよ。それから暫く気付かれないように距離をとって後をつけたんだけど、そしたら急に何も見えなくなって、気がついたら真っ暗な空間に金色に光川みたいなものが見えて来たんだ」
「ッ!」
「おいおい、それって・・・!」
「みんな知ってるのか?」
シン達の反応を見て驚いた様子を見せるカガリ。どうやら彼もまた一行と同じ体験をしたようだった。だが、彼の話からすると、その空間に飛ばされてから随分と長い間眠っていた事になる。それとも一度何処かで目を覚ましたのだろうか。
「俺達もさっき、気を失ってたお前を運んでる途中で同じ体験をしたんだ。お前はそこからどうやって身を覚ましたんだ?」
「いや、それが目を覚ましたのは“ついさっき”の出来事だったんだ」
「ついさっき?アタシらがカガリを見つけてここまで運んで来てからって事か?」
「あぁ。え・・・?ってことは俺、一昨日の夜からずっと気を失ってたのか!?」
カガリから時系列を聞いた一行は、思わず言葉を失ってしまった。それはこの山の中で二日近く気を失っていて無事だったという驚きと、そこで情報が途絶えてしまったという衝撃からだった。
「ずっと気を失ってたのか!?俺達は全員、そんなに時間を置かずして目を覚ましたってのにか?」
アクセルの疑問も最もだった。カガリ以外の一行は、彼を運ぶ最中にその空間に飛ばされてからそれこそ数十分程で目を覚ましている。ツバキやアカリといった、カガリよりも若い子が居るのにだ。
つまり年齢や肉体には関係なく、単純にカガリとそれ以外であの空間に飛ばされていた時間が異なっていたという訳だ。それに加えて、シンはその空間で他の誰も経験していない出来事に遭遇している。
これは個々で見えていたものが違っていたという事なのだろうか。
するとそこへ、見張りをしていたケネトとツクヨが戻って来る。
「済まない、盗み聞きするつもりはなかったのだが、俺も話を聞いてしまってな」
「全然構わねぇよ、どうせ後で共有する話だ」
「それでなんだがな。カガリが目を覚ましてはっきりした事があるんだが・・・」
一行の話を聞いていたというケネトが、何かに気づいたようでそれをアクセルに伝えようとしている。だが彼は妙に勿体ぶるような言い回しをするので、何に気がついたのかとアクセルがその応えを求めると、それは昨日の山で見た何者かの人影に関する話だった。
「何だよ、勿体ぶらずに直ぐに言えって」
「昨日感じた気配からでははっきりと誰だかは分からなかったんだが、昨日山で出会った人影を覚えているか?その人影の気配と、今のカガリの気配が一緒なんだ」
「え・・・?だってカガリの話じゃさっきまでコイツ、気を失ってたって・・・」
「だから俺も自分を疑ったさ。だが間違いない、あの時の人影は間違いなく彼だった」
ケネトがこの回帰の山で起きた、謎の出来事を一つ解き明かしたことによって、更に彼らの抱える謎はその真相を暗闇の中へと落としていった。




