ソウルハッカー
五合目の捜索を終え、更に先へと歩みを進める一行。光脈の精気に当てられたモンスターとの戦闘を経て、精気が齎す影響について新たな知識を得たシン達だったが、山の山頂に近付くに連れて目印に到着する前にも、モンスターの襲撃を受けるようになっていた。
その時シン達は初めてアクセルの戦闘方法を目の当たりにする。彼のクラスのスキルは、この回帰の山において精気の影響で意思を得たモンスター達に絶大な効果があった。
「魂への攻撃。アクセル、アンタのクラスって・・・?」
「ん?何だ、そんなに珍しいか?そう、俺のクラスは対象の魂を引き摺り出して攻撃する、“ソウルハッカー”だ。元々は別のクラスだったんだが、ここでの活動の中で有力なスキルを使えるこのクラスに転職したんだよ」
「アクセルの前のクラスが、今のクラスに有用なものが多かったって言うのもでかいよな」
アクセは元々、体術をメインとして戦うクラスだったようで、今のソウルハッカーのクラススキルを遺憾なく発揮できる動きが可能になったのだという。
現在のクラスから別のクラスに転職する際、そのクラス間に互換性のある場合、一部のスキルや能力を引き継いだまま転職できるのがWoFの世界の仕様だ。
簡単に言えば、魔法使いのクラスから剣士のクラスに転職した際には、魔法使いの頃に使えていた魔法は使えなくなるが、魔法使いから魔法剣士のクラスへの転職であれば、一部の魔法を引き継いだまま魔法剣士へと転職できるという訳だ。
魂への直接攻撃という事で、防御力を無視して攻撃できるという破格の攻撃手段となるが、勿論強力な能力にはそれなりのリスクや対策も用意されており、ソウルハッカーの魂を引き摺り出すスキルは対象の精神力や魔法防御力に影響を受けるようだ。
要するに相手の精神力が高いと、そもそもスキルが成功しなかったり、魂を引き摺り出せても大したダメージを与えられなかったりという、何もできない時は何もできないというデメリットも背負っているのだと言う。
一行がアクセルのクラスについて説明を受けていると、丁度良いところに先程一行を襲った精気を取り込んだモンスターが立ちはだかる。
「さて、クラスの説明をしたところで実際に見てもらおうじゃねぇか」
そう言って襲い掛かるモンスターの前に出たアクセルは、モンスターの攻撃を躱しながらその身体に触れる。そしてモンスターへ向けて伸ばした手を、握りしめながら引っ張ると、モンスターの身体から魂だけが引き摺り出される。
白い煙のようなものがモンスターの形へと姿を変えながらアクセルの元へ引き寄せられると、それを容赦なく蹴り上げるアクセル。それから数発の追撃を行い、魂を掴んでいた離すと引っ張って伸ばしたゴムのように、モンスターの魂が本来あるべき身体へと戻って行く。
魂が身体に戻ると、その直後モンスターの身体が大きく上空へ跳ね上げられ、木の枝を降りながら地面へ落下し撃退に成功する。
「意思があるって事は、魂の形がより鮮明になるって事だ。これが意思のないモンスター相手だと、正確に魂の形が生成されず、狙ったところに攻撃が出来なかったりするんだよ」
「それで回帰の山特攻のスキルって訳か。こりゃ頼りになる」
「今のモンスターくらいなら問題ないが、この先はもっと強力なモンスターも出て来るだろう。次の目印からはチームを分けずに捜索しよう」
「あぁ、それはありがたいが、整備されてる山道ってのはどうなってるんだ?そっちの方が安全ならそっちから登った方が・・・」
捜索の依頼の為ということもあるのだろうが、道中が危険になってくるのなら、登山道として整備されているという山道であれば、先へ進むだけなら安全なのではないかと尋ねるシン。
だが当然、整備された登山道といっても安全が保障されている訳ではない。単純に足場がしっかりしており、足や身体への負担が少なく五号目付近までなら、整備の際に施された結界によりモンスターが近寄らない工夫が施されているようだが、先程一行を襲った個体のように意思を持つモンスター達は退けられないようだ。
「この辺りまで来たら、登山道だろうと獣道だろうと同じ事なんだよ。だったら一直線に目的地を目指せる道の方が良いだろ?」
「それに今はヌシが活発に移動している可能性もある。こうなったら何処から登ろうが安全な道なんて無くなってしまう。俺達の危惧している、今のヌシが人間であれば尚更な」
ヌシが人間になっているのなら、人間の使う道を使い、人間の匂いや気配に誘われて人間のいる方へやって来る事が考えられるのだと二人は語る。その際はヌシ特有の、精気の流れを引き連れてやって来るというおまけ付きだ。
動物がヌシになるよりも、余程人間の方が人間にとって脅威になり得るという訳だ。
それ以降も様々な話をしながら、一行の気配に誘われたモンスターを追い返しつつ登って行くと、漸く登山道の中腹以降の第一歩となる六号目の目印へと到着する一行。
しかし、六号目の目印が取り付けられている木は、何かにへし折られたように倒れており、周辺は荒らされたように草花が散らされ薙ぎ倒されていた。




