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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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巡る精気

 難なくモンスターの群れを退けてしまったアクセルとケネト。流石はハインドの街を拠点に回帰の山の依頼をこなしているだけのことはある実力を持っていたようだ。


「さてけねと、向こうの様子は?」


「今調べてるよ。・・・うん、まだ少し周囲にモンスターが残ってるようだが、問題なさそうだ」


「流石、海上レースの上位入賞者御一行様だな。こっちの捜索も済んだし、合流地点へ向かおう」


 ひと段落した二人は、五合目の目印となっている木の元へと向かっていった。


 一方、アクセルらが戦闘したのと同時刻。シン達もまた群れで現れた精気を含んだモンスター達との戦闘を繰り広げていた。


 前線で戦うシンとツクヨは、それぞれ近接武器を手に次々とモンスターを退けていく。数の有利を武器に襲い掛かるモンスターが、そんな彼らの隙を突くように攻撃を仕掛けるも、そこにはミアの援護射撃が待っている。


 陣形としても隙の無い布陣で、危なげもなく中心にいるアカリと紅葉、そしてツバキを守り通していた。しかし、一見通常のモンスターより少し大きいくらいにしか見えなかったが、そこらのモンスターよりも体力が高くタフだった事が交戦して分かり始めた。


「しぶといね・・・。倒せないって事はなさそうだけど」


「何かカラクリがあるのかも・・・」


「カラクリ?山の精気だとか?」


「精気か・・・」


 山の精気で人はおかしくなる。そう聞かされていたシンは、光脈から溢れる精気には人の精神に異常をきたす何らかの作用が働いていると考え、今目の前にいるモンスター達もまた、精神的な異常、それも強化に作用する変化を与えられている状態にあるのではと考えたのだ。


「もしかしたら、肉体的なダメージはあまり有効ではないのかも」


「と、言うと?」


「状態異常を入れたりだとか、魔力に干渉する攻撃でなら効率的にダメージを入れられるんじゃないか?」


「このまま戦ってもいいけど、色々試してみるに越したことはなさそうだね!」


 ツクヨは武器をリナムルの研究所で入手した物へと持ち替え、シンは武器による攻撃ではなくスキルを使っての攻撃を試みる。


 幸い、森の中は影が多くシンのクラスであるアサシンのスキルの効果が向上している状態にある。周囲の至る所の影に自身の影とのリンクを行いながらモンスターの攻撃を躱していく。


 そして飛び掛かるモンスター達の影に、自身の影の一部を送り込むと、彼らが活躍した海上レースで戦った海賊、ロッシュ・ブラジリアーノのパイロットというクラススキルから着想を得た、対象の意識に潜り込み肉体の操縦権を奪う取る”操影”を使い、モンスター達の意識の中に一斉に干渉する。


 対象が増えれば増えるほど、精密な操縦は出来なくなり、単純な命令しか下せなかった。だがこの手の相手にはそれで十分だった。


 元々高度な意思の疎通を行える程のモンスター達ではなかったようで、シンの影が脳に与える視覚情報の錯乱により、モンスター達の見ている景色が逆転し、上下や左右があべこべとなって映る。


 感覚が狂わされた事により上手く動けなくなったところへ、ツクヨが素早い身のこなしと的確な刀捌きでモンスター達を斬りつける。だがツクヨの斬撃も、肉体に損傷を与えるものではなく、斬られたモンスター達の身体からは出血や外傷は見られない。


 ツクヨがリナムルの研究所で手に入れた刀で斬りつけたのは、その者が持つ魔力を伝達する流れだったのだ。それを断ち切られたモンスター達は、ただ身体の大きな狼へと成り下がり、この世界におけるシン達の相手ではなかった。


 自身と相手の実力差を本能で察したのか、シンとツクヨの連携にやられたモンスターの群れはちりじりになり、森の中へと逃げて行った。


「おい!逃げちまうぞ!倒さなくていいのかよ?」


 去って行くモンスター達を追おうとするツバキを、ミアが止める。逃げて行くのならこれ以上戦う必要はない。モンスターの討伐が今回の目的ではないとと告げると、ミアは手にした銃をしまい、シンとツクヨもそれぞれ武器を収める。


「何だよ、もうちょっとコイツの試運転に付き合ってもらおうと思ったのによ」


「モンスターと言えど、無闇に命を刈り取るのは良くないよツバキ。それに、事この山に関しては特に殺生には気を付けないといけない気がする・・・」


 動植物に関心のあるアカリと紅葉は、森の中に漂う異質な雰囲気を感じているのか、何やら不安そうな表情を浮かべながら周囲を見渡していた。


「何か感じるのか?アカリ」


「えぇ・・・先程の皆さんとモンスターの戦いで、何だか周りの植物達がざわついている様な気配を感じます。具体的なことは分からないんですけど、何かを恐れているような・・・」


「気配か・・・。まぁこの辺の捜索はもういいだろう。一旦合流地点へ戻ろう。さっきのモンスター、普通のとは少し様子が違かった・・・。アイツらなら何か知ってるかもな」


 ミアに促され、一行は一旦五合目の目印のあった合流地点へと戻って行く。アクセルとケネトは先に合流地点に戻っていた。二人と再会した一行は、早速先程森の中で遭遇した出来事について話を切り出した。


 そこで初めて、シン達はアクセルらもモンスターの群れに襲われたという事を知らされる。どうやら彼らとて、事前にモンスターの異変に気が付いていた訳ではなかったようだ。


 ただこれ程早い段階で、精気の影響を受けたモンスターが現れるとは思っても見なかったと、考えが甘かった事を一行に謝罪した。これからはこれまで以上に気を引き締めなければならないと注意を促し、一行は更に森の奥地へと歩みを進める。


 その道中でアクセルは、先程一行を襲ったモンスターの成り立ちについて、資料から得たという知識を皆と共有する。


 回帰の山に生息するモンスターは、光脈の精気に当てられた動植物を好み食べるのだという。その影響で精気を含んだ肉や植物を体内に取り込み、通常種よりも強靭な個体へと成長し、生半可な攻撃では怯みもしない特殊な生物へと昇格するようだ。


 精気は生命体の中に含まれると、光脈の流れの中に帰ろうとする働きがあるようで、精気に当てられた人間が山へ入って行ってしまうのもその影響だと考えられている。


 精気に導かれ光脈に辿り着いた生命体は、肉体を捨て去り魂ごと精気と一緒に光脈へと取り込まれてしまう。光脈から溢れた精気は生命体の魂を取り込み、新たな精気として生成し、また周囲へと溢れて行く。


 そうして巡った精気の中には、嘗て人間だった者の意思も含まれているのではないかと考える者も少なくなかった。巡り巡って、それらを取り込んだモンスターには、他の個体には見られない動きや挙動を見せる個体がいる。


 それが一行を襲った、意思を含んだ精気を取り込んだモンスターだったとアクセルとケネトは考えているようだ。

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