世界の光脈
宿に戻った二人はミアに迎えられ部屋に入ると、そのまま寝ているアカリ達を起こさぬ様、その日は大人しく眠りにつくことにした。
翌日の早朝、一番最初に目を覚ましたツクヨはシンとミアにメッセージを残して、一足先に街へと繰り出して行った。目的はギルドの様子とアクセルらの動向だった。
昨晩は色々なことがあり、明確な出発の時刻と失踪者達の捜索への同行の申請の結果など、確かめたいことが沢山あった。水平線の向こうから陽が完全にその姿を表した頃、ギルドの内部では騒々しく多くの隊員が準備を整えている。
「おや?貴方は確か協力を志願して下さった有志の方では?」
「はい、ツクヨと申します。今は何をされているのですか?」
「昨日失踪した隊員の捜索隊を編成し、その準備をしています。ご迷惑でなければ、出発の際にお声がけしても宜しいですか?」
「それは助かります。宿の場所は・・・」
ツクヨはギルドの隊員に泊まっている宿屋の名前を伝える。これで少なくとも置いていかれる事はなくなった。呼び掛けの約束を取り付けたツクヨは、会話を交わしたついでにアクセル達の事について隊員に尋ねた。
どうやら彼らも協力者として志願しており、既に顔馴染みになっていた彼らは、一足先に山の麓の拠点設置に協力しに向かったとの事だった。彼らはギルドの隊員曰く、ギルドの者達以上に北の山に入る機会が多く、経験や知識で言えばギルド側としても是非とも協力したいと思っていたらしい。
設営の準備をしながら、現場に向かった隊員と山での注意事項と決め事について相談をしている筈だと隊員は語った。これ以上足を止めさせるのも悪いと思ったツクヨは、再度呼び掛けの件を任せてその場を去って行った。
ツクヨが宿に戻ると、既にシン達も目を覚ましており出発の準備を整えて待っていた。
「おかえり、どうだった?ギルドの様子は」
シンの問いにギルドであったやり取りをそっくりそのまま伝えるツクヨ。彼が帰って来たら直ぐに出発だと思っていた一行は、ギルドの隊員が呼びに来るまで猶予があると知ると、いつでも向かえる準備だけ済ませ、各々の時間を過ごし始める。
その際に、昨晩シンが山で気を失っている間に体験した出来事についても、ミア達と情報を共有して何か思い当たる事はないかの確認をする。
しかし当然ながら誰もその経験を聞いて心当たりなどはなかった。だが、ミネとカガリに面会し話をしたミアとアカリは、そのシンの見たという黄金の光を放つ川こそが、回帰の山の地下に眠る膨大なエネルギーの正体なのではないかという、アクセルらと同じ感想を抱いていた。
「そんな経験をして、身体は何ともないのか?シン」
「あぁ、特になにも・・・。別に力がついた訳でもなければ、出来なくなった事も今のところは何もないみたいだ」
「海でもそういった、生命エネルギーが溢れてるポイントってのはあるらしいが、それに巻き込まれたらひとたまりも無いって聞くぜ?どんだけ豪運だったんだよ、すげぇな」
大地に生命エネルギーの溢れる箇所があるのなら、生命の母とも呼ばれる海にもその様な場所があってもおかしくはない。ツバキは嘗てウィリアムからその様な話をされた時の事を思い出していた。
陸地と違い海は常にその姿を変える為、生身の人間であれば近づくだけでも命に関わる危険な場所として、多くの船乗り達は近づかない様に言い伝えていたらしい。そしてその近辺は、大型の魔物が度々目撃されたらしい。
「だからここの山の光脈の事を聞いた時、でっかい魔物や生物が潜んでるんじゃねぇかって思ったんだが、そういう訳でもなさそうなんだよなぁ」
「確かに生命エネルギーなんて聞けば、単純に考えるとそうなっても不思議じゃねぇよな。じゃぁここの光脈ってのは、一体何にどんな影響を与えてんだろうな?」
「それはそこにある植物や作物、所謂自然になんじゃないの?」
「それにしては妙に影響が抑えられてるって話だ。何かそれらを制御するシステムが成り立ってるんだろうな」
ミアはそれが山の“ヌシ”と呼ばれるものなのではないかと考えている様だ。だがシンやツクヨは、ヌシと言えどたった一つの生命体にそこまでのことが出来るとは到底思えなかった。
そんな山に秘められた謎について話し合っていると、宿屋の店員が一行の部屋の扉をノックする。どうやらギルドの隊員が知らせに来たようだ。
宿はまだ継続して借りると店員に話し、シン達はギルドの隊員と合流して山の麓に設けられているという、捜索隊の拠点へと向かう。




