音楽の街 アルバ
結局大した真相も掴めぬまま、マティアス司祭との面会時間は終わり、レオン達は宮殿の外へと向かう。犯人として捕えられているクリストフもまた、彼らのとっては学校の職員という繋がりがある。
音楽学校の生徒であれば彼との面会も出来るかと思ったが、こちらはマティアス司祭ほど簡単に面会できる相手ではなかったようだ。本人に直接尋ねる事は叶わなかったが、マティアス司祭からも彼の話を聞いていた三人。
しかし彼の事についても、巷で言われている以上の情報は聞き出せず、彼らの中にある違和感を晴らすまでには至らなかった。
「なぁ、結局俺らの中にある違和感ってのは、ただの勘違いだったのか?」
「・・・・・」
カルロスの率直な思いに、レオンは答える事が出来なかった。
事件を追って、普段はろくに会話すら交わすことのなかった者達との共闘。レオンやジルの中でそれは大きな刺激となり、音楽の表現にも活かせる経験となった。
そんな思いを共にした仲間の中に居た筈のもう一人の生徒。だがその存在を誰も思い出すことができない。誰もその存在を証明することができない。証明できなければ居なかったものと同じなのだろうか。
「私達といたもう一人・・・。ぼんやりとも思い出せないけど、私にとっては何か重要な事を教えてくれた存在だった。ように思う・・・」
「俺も同じだぜ。何ていうかこんな奇妙な体験の中ではあったけどよ、いい友達になれたような・・・さ」
今の彼らが知る由もないが、後に彼らの経験した別の世界線でのクリスとの調査は、彼らの演奏に大きな影響を与え、それまで各々に欠けていた部分を補うように技術力が飛躍的に向上した。
結局、彼らの中の違和感は違和感のまま終わってしまったが、クリスの変えた世界線というのは、何もバッハ一族の歴史と未来を変えるだけではなく、アルバの街の人々に明るい影響を与え、これまで以上に音楽の街は周囲の国々にも知れ渡るほど有名になった。
証明できぬ思い出の為奔走する彼らを、街の高台から眺める一人の謎の人物がいた。その人物は街の商店で買った、食べ歩きのできるお菓子を口にしている。彼は彼なりにこの世界のものを堪能しようとしていたのだろうか。
「味な・・・。よくこんな物食べられるね彼ら。・・・あ、そもそも私に味覚何てものが無いからか。今度のアップデートで追加しておこうかな?」
その人物は黒い衣を身に纏い、まるでこの世の存在では中のような事を口走っている。別の世界線でシンとクリスを嗾けていたその人物は、クリスの招いた世界線の様子を見に来ていたのだ
「人間のデータ何て入れたらそれこそ毒か。アイツらの罠に反応があったからここで待ち伏せてみたけど、危惧する程の存在じゃないじゃん。拍子抜け、時間の無駄。連中も現れなかったし収穫ゼロじゃん。最悪・・・」
彼は食べていたお菓子をまるでゴミを捨てるかのように放り、ぐったりと手摺りにもたれ掛かると、大きな溜め息を吐く。そして暫く街並みを眺めた後に立ち上がると、階段の方へ向かながらその姿は光の粒子となって消えていった。
音楽の街として有名なアルバの街。そこには音楽の父としてWoFの世界に名を馳せた音楽家、バッハが暮らしていた。そして彼の残した偉業を讃えるように様々な物が建てられ、未来永劫語り継がれるよう人々の記憶に残り続けていく。
時に彼の血を引く一族の者が、バッハ一族の偉業は我が祖先のものと事件を起こしていく。その度に語り継がれるバッハの名は変わり、人々の記憶もまた時間と共に移り変わっていく。
シン達がこの街に訪れた事により招いた結果。それは仕組まれていた事か、それとも偶然か。この時代にWoFの世界で音楽の父として名を馳せる事になったのは、現実世界のバッハと同じ、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ。
これがこの世界線に、そして現実の世界にどのような影響を及ぼすのか。未来の事は誰にも分からない。事件を強制的に巻き起こした黒いコートの人物にも、予定された未来こそあれど、その到達点に確実に到着するとは限らないようだ。
それはシン達の起こしたこれまでの現象の解決、結果によって証明されている。それを探る者達と、動き出す何者か達の黒い影がシン達を世界の異変へと招いていく。




