男女に分かれて
買い物は専門的なアイテムを買い揃える事が多い、様々な薬草と薬品でシン達の回復薬やこの世界の薬を取り扱うアカリと、多くのガジェットで自身や仲間の強化を図り土地ごとで扱う部品を集めるツバキのグループに分かれる事となった。
「私達はそれ程買う物がないんだよね?」
「あぁ、貴本的には戦闘で使う物や回復系のアイテム。それに状態異常を治す物になるだろうが・・・」
「でもうちにはアカリがいるだろ?いいよ、アタシがアカリと一緒に回るよ。弾薬の調合に必要な物もそれ程多くないしな」
「じゃぁここは男女に分かれるって感じだね!」
「変な店に行って散財するなよ?」
「しないよッ!ミアこそ酒ばかり買い込まないでね?」
「考えてもおくよ」
いつものやり取りを交わしながら、ツバキについて行く事となったシンとツクヨのグループと、アカリと紅葉について行くミアのグループに分かれ、最後のアルバ散策へと赴く。
「何かツクヨと一緒ってのは多かったけど、シンがいるのは新鮮だな」
「俺もツバキがどんな物を買うのか楽しみだよ。またガジェット関連の物になるのか?」
「まぁそうなるな。けど流石はアルバだよな、楽器関係の店が殆どだから自ずと部品もそういうのが多い」
「そう言えば宮殿でも楽器の修理を頼まれたよね?今度のガジェットは音楽でも鳴るのかな?」
「・・・・・」
ツクヨの冗談が刺さったのか、ツバキが口を噤んでしまう。慌てて謝るツクヨだったが、意外にもツバキは彼の発想を間に受けていた。それが宮殿での一連の事件の影響なのか、はたまた失われた筈の別の世界線の記憶が僅かに残っているのか、それは今となっては確かめようもない事だ。
「そうか、確かここの音楽は音に魔力が篭っていて、人々の心や気分に影響を与えるんだとか誰かが言ってたよな。つまり音楽による強化状態が・・・」
ブツブツと独り言を始めてしまったツバキを見て、心配そうにシンに相談するツクヨ。
「だっ大丈夫かな?何だかブツブツ言い始めちゃったけど・・・」
「自分で蒔いた種だろ、俺に聞かないでくれ。でもまぁ、ツバキなら面白い発明をしてくれるかもな」
「旅を彩る的な?」
「楽しくなりそうだ」
温かい目で買い物へと向かうツバキを見守る二人は、宛ら授業参観に来た保護者のようだった。共に過ごす時間が他の仲間達よりも少なかったと言えど、ツバキとシンの間のは他の仲間達と変わらず、壁などというものはなかった。
元々ツバキがそういう性格だったというのもあるだろうが、シンが僅かに抱いていた不安を彼は微塵も感じさせないほど、近くに感じさせてくれた。互いに無意識だったとしても、そういった二人の関係性は、シンが今までに感じた事のないものだった。
一方、女性陣で観光地を回るミアとアカリ達は、音楽の街らしい面白い植物の置かれる店にやって来ていた。
「見てミアさん!花が歌ってる!!」
「こんな玩具なら見た事はあるが、まさか実在していようとはな・・・これもファンタジー世界の成せるものなのか」
「玩具?そういうカラクリがあるのですか?」
「あぁ悪い、忘れてくれ。随分と珍しい物だったんで、夢で見たものと混合しちまったのかもな」
「ミアさんでも、そんな可愛らしい夢を見るんですね」
「バッバカ!そんなんじゃねぇって!」
赤くなるミアの顔を見て笑顔になるアカリ。大人を揶揄うようになったのはツクヨやツバキの影響だろうか。初めは記憶喪失で、自分が何処からやって来て何処で生まれたのかさえ思い出せない、不憫な少女だと思っていたが、彼らとの旅の中で気持ちにも少しずつ余裕が生まれたのかも知れない。
焦って不安がるよりもいい傾向なのかも知れない。それを悪い方向に誘導しようとする大人だっているかも知れない。そんな中ミア達と出会い、こうして旅に出られたという事は、彼女にとっても幸福な事だったのだろう。
未だ彼女の出征や記憶に関する手掛かりは見つからないが、楽しい記憶や辛い思いをする人々の記憶を今の彼女の記憶に蓄積できている事は、いずれ記憶を取り戻した際に彼女自身に良い影響を与える筈だろう。
暫く花を見て楽しんだアカリは、店員にそれを一つ注文していた。
「ちょっと、そんなモン買ってどうするんだ?」
「え?だって楽しそうじゃないですか」
「楽しそうって・・・。まぁアカリがそれで良いなら」
嬉しそうなアカリの表情を見たら、とても断れるような雰囲気ではなかった。それに歌を歌うといっても、その植物自体に生命が宿り歌っているという訳でもないらしい。
店員が言うには、音の発する振動を植物自体が記憶して、繰り返し再現しようとしているのだと言う。その仕組みを聞いたミアは、これは何かに使えるかも知れないと、アカリには内緒で自分用にも幾つかその植物を購入した。
しかし残念ながらその様子は、アカリと紅葉に目撃されていた。恥ずかしくてこっそり一人で買っているのだと勘違いしたアカリは、嬉しそうに紅葉と共に笑みを浮かべその事は二人だけの秘密だと紅葉と約束をしていた。
ヒソヒソとするアカリと紅葉を他所に、植物を使った弾薬の調合に興味を示し始めたミアの元に、突然錬金術の四大元素の一つである風の精霊が姿を現す。
「植物を弾薬に使うの?」
「ッ!?」
突然知らぬ声で話しられた事により、驚きと警戒をその精霊に向けるミア。彼女が驚くのも当然と言えるだろう。風の精霊であるシルフと出会い、共に戦ったのはクリストフの作り出した別の世界線での記憶。
だが、特殊で強い魔力を有する精霊達は、完全に別世界の記憶を失っている訳ではなかったようだ。明確に何があったのかを覚えている訳ではないようだが、ミアと共に魔力を共有した記憶が彼女を形成する魔力の中に残っていたようだ。
それにより、以前よりもシルフとの友好度が上がっていたようだ。それはシルフ自身も把握しておらず、ただ友好度の数値からミアの前に姿を現すレベルに達していたから現れただけに過ぎない。
「大きい声は出さないでね。お店の人に迷惑だから」
「いや、その前にお前は一体・・・!?」
「あら?自覚がないのかしら。・・・でも確かにおかしいわね、何で私貴方にこんなに心を許してるのかしら?」
シルフは自分が風の精霊である事を名乗り、これまでもミアの戦いをミアの中から観ていたのだと語る。その戦いの中で、風属性に関する能力や魔力を使う事によって、シルフとの友好度が上がっていた事を説明する。
「戦いって・・・最近そんな戦い、あったか?」
「貴方が植物に興味を持ち始めたのもあるのかもね。それより植物を弾薬に使うなら、私に良い案があるの!先ずは・・・」
勝手に弾薬の調合素材についてアドバイスを始めるシルフに、困惑しながらもウンディーネの件もあり、精霊の力はミアの大きな戦力アップに繋がる。ここで友好的に接してくる彼女を無碍にするのは勿体無いと、実にミアらしい強かな考えを内に秘めてシルフの買い物に付き合う事にした。
「ねぇ紅葉、あの精霊さんってミアさんの?」
「キィ?」
紅葉は生物としての本能で、それがミアにとって良い影響を与える存在なのか、或いは悪い存在であるのかを本能的に分かっているようだった。心配そうにミアの様子を棚の隙間から見つめるアカリに紅葉は、そんな心配はいらないと伝えようとする。
常に一緒にいるからだろうか、アカリには紅葉が伝えようとしている事が手に取るように分かるようになっていた。ミアの側に現れた精霊が、彼女にとって悪いものではないと分かったアカリは、安心して店内を巡り自分の買い物を済ませる。
「あんまり私の属性を蔑ろにしてると、協力してあげないからね?」
「それは戦いになってみないと分からないだろ。でもまぁ、風と銃弾は密接に関わる要素でもあるから、もし力を貸してくれるんなら心強いな」
「ふふ、その調子よ。出しゃばっちゃってごめんね。もっと私に面白いものを見せてちょうだいね!」
オススメの植物や薬草をミアに買わせるだけ買わせると、シルフは彼女の側から姿を消した。丁度植物の調合には疎かったから助かったとはいえ、当初の予定よりも多くの出費となり、ツクヨに注意された酒があまり買えなくなってしまった事に、ガックリと肩を落としていた。




