技術力の犠牲者
ホッとした表情を浮かべながら、店からケヴィンが戻って来た。少々景色は悪いが、奥のテラス席なら空いていると言われてその場で席を取って来たようだ。
「皆さん、お待たせしました。さぁ行きましょうか」
一行が店に着くと早速一人の店員が席へと案内してくれた。店内は地元の人達で賑わい、外のテラス席はカメラやパンフレットを持った観光客でいっぱいだった。
その中でも景観の都合上、植木の影になってしまっている席が空いていた。席に着くと店員が申し訳なさそうに椅子を引いてくれた。せめてものサービスにと、何かみんなで摘めるアルバの名物料理をご馳走してくれるそうだ。
これもケヴィンの知り合いという店主の計らいなのかも知れない。
一行が席につき、朝食がてらの軽食を頼み終えると、早速ケヴィンから宮殿でアンドレイらと話したアークシティについての話の続きが語られた。
「さて、宮殿の続きですが、そこでもお話した通りアークシティは外部の者が中に入る方法にはいくつか手順が必要です。その中でも正攻法なのは、内部から招待される他ありません」
「問題はそこだな。どうやって中の者達から招待されればいい?そもそもアンタやアンドレイはどうやって入った?」
早速ミアがアークシティ入りの最初の問題である、謂わば入国の方法について以前に訪れた事があるらしいケヴィンとアンドレイの、訪問方法について尋ねる。
「アンドレイ氏はその職業柄ですよ。彼も一流の音楽家ですから、アークシティ内にも彼の音楽の噂を聞いて、是非聴いてみたいという人は少なくありません。私も同じく職業柄です」
「職業柄っていうと、探偵として何かの事件の調査に?」
シンの問いに彼は頭を縦に振る。どうやらアークシティ内で機密情報を持ち出し、外へと逃げた者がいるらしい。その人物について、情報を扱っていた研究所に招待されたケヴィンは、犯行が行われた現場で証拠と痕跡を探しながら、犯人の動機などについて研究員達に話を聞いたのだという。
その一件に関しては、今も尚継続して請け負っているようで、他の事件の解決と共に各地で情報収集を行っているのだという。
「なら、アンタと一緒なら中に入れるんじゃないか?」
「それは難しいでしょうね。再調査として私一人が入るならまだしも、皆さんは入れてもらえないと思います」
「じゃぁ入り口まで運んでもらって、そっから忍び込めばいいんじゃねぇか?」
「忍び込むって・・・そんな事をしたらケヴィンさんにも迷惑を掛けてしまいます」
「お気遣い、ありがとうございますアカリさん。えぇ、彼女の言う通り不正に皆さんを招き入れて仕舞えば、私は犯罪者になってしまいますし、皆さんも指名手配になってしまいます」
「強硬手段の線は無し・・・か」
全くアークシティと接点のない一行は、最初の一歩の余りにも大きな障害に悩まされる。するとケヴィンは、危険である事には変わりないが、別の強行手段ととある噂について話し始めた。
「危険な方法には変わりありませんが、アークシティに強い恨みを持つ者や人攫いにあった者達が集まるという、目的の為には手段を選ばない無法者達のグループがあります。彼らは以前、アークシティへの突入を試みた事があるそうなのですが・・・」
ケヴィンがアークシティに行った際に、事件の聴取を行なっているとその無法者達の起こした別の事件についての話を聞いたという。
しかしアークシティの守りは余りにも強固であるが為に、侵入を果たせた者はおろか、外壁に殆ど損壊すら与えられずに撃退されたと内部の者達から聞いたらしい。
「シンさんの能力があれば、彼らを焚き付けて騒動を起こしている内に内部に忍び込む事も出来るかも知れません。ただ忍び込んだところで、アークシティ内部の警備は厳重です。危険である事には変わりありませんが、のっぴきならない事情があってアークシティを目指すのであれば、覚えておいて損は無いと思います」
「なるほど・・・。ところで、何でアークシティを恨む者達ってのがいるんだ?」
シンの問いに、ケヴィンを含め一行は全員口を噤んでしまう。アークシティの研究がどのようなものか。それをミア達は、シンのいない間の旅で痛いほど身に沁みて知っていた。
シンが現実世界へ帰っている間にミア達が立ち寄った場所。それが忘却の街オルレラ。
そこではアークシティの元研究員であり、実験の被検体となっていた子供達に先生と親しまれていた“オスカー・フォルクマン”が、アークシティの非人道的な実験を辞めさせようと、正に必死になって抗い、子供達を守っていた。
ツバキらの活躍により、その重積から解き放たれたオスカーは、望みを彼らに託し、子供達と共に天へと昇って行った。
そこで行われていたアークシティの非人道的な研究というのが、宇宙へ至るロケットの燃料として人間の子供を利用した、“生物燃料”などと言う悍ましいものを作り出していたのだ。
WoFの世界において、全ての生命の幼少期という時期は、この世界に当たり前のように存在する魔力の影響を受けやすい時期であり、個体によっては多くの魔力をその身に宿す事もある。
特に人間の子供が有力であり、成果として安定していることから実験に用いられていたようだ。生命の尊厳を無視して、命を有限な燃料として利用する許されざる研究。
その被害者の多くが、ケヴィンの言う無法者達のグループにも属しているのだろう。無論、それらだけが恨みの対象になっている訳ではなく、他にも多くの犠牲者や被害者が存在する事は間違いない。




