空飛ぶ大都市
「ちょっと待ってくれ、ケヴィン。アークシティの事ならアンタが教えてくれるんじゃないのか?」
「?」
シンの反応を見て不思議そうな表情を浮かべるアンドレイとその一行。それがまた彼らの疑問をより深めていく。シンの問いに対しケヴィンは、彼らがアークシティの事について何も知らなかったのだと思い出すと、安心して欲しいとシン達を宥める。
「大丈夫ですよ。アークシティの件についてはちゃんと私からご説明しますとも。それにご安心を。あそこへ行った事がないのなら、それがまた普通の反応というものです」
「普通の反応ってのはどういう事だ?」
話を聞いていたミアが誰よりも先に気になっていたことを尋ねる。するとケヴィンは、そんな彼らの初々しい反応を楽しむような表情を浮かべる。ミアに茶化さないで早く教えろと怒られ、漸くケヴィンは彼らの疑問について語り始める。
「失敬、皆さんの反応が実に初々しくて、つい結論を引っ張ってしまいました。ゴホンッ・・・では周りくどいことは抜きにして、そのままお話します。アークシティの”アーク“とは”方舟“の事。その名の通り、アークシティとは”空飛ぶ大都市“なのです」
「空を飛ぶ都市ッ!?」
「わぁ!何ともファンタジーだね!」
驚くシンとミアとは違い、現実から掛け離れた設定に目を輝かせるツクヨ。確かにゲームの話や他人事なら素直に楽しめたのかも知れないが、これから自分達が向かう先が、質量を無視して空を飛ぶという、構造上不安や浮かしている動力が気になってしまい、恐怖の方が前面に出て来てしまうような話だった。
「呑気な事言ってる場合か!空を飛ぶって一体どんな原理で・・・いや、それ以前にどうやって街に入るんだ?」
「こっちも何らかの飛行手段を用いるんじゃないか?」
現実的な思考でアークシティ入りの方法を考察する二人に、ケヴィンは申し訳なさそうな表情を浮かべながら話に割って入る。
「方法についてなんだけどね。”こっちが“勝手に向かう事は出来ないんですよ」
「え?」
驚く彼らに対し、今度はアンドレイが答えた。
「アークシティは謂わば”招待制”なんですよ。今回のアルバの式典と同じように、何かしらで選ばれた人や、有権者やアークシティの住人から招待された人しか正式に入る事は出来ません」
「と、言うより許されていない、の方がしっくりきますけどね。アイツらの態度を見ると」
声がしたのは、アンドレイの護衛であるローブのフードを深く被るチャドという護衛の方からだった。だが本人は自分じゃないと言い、手を大きく左右に振っていた。
本当の声の主は彼の影から現れた小人族、ケイシーの仕業だった。アークシティの印象を悪くしてしまうと、主人であるアンドレイに優しく叱られたケイシーは、再びチャドの後ろへと隠れてしまった。
「まぁ、要するにアークシティに入るには色々と条件があるという事です。それに加え、容易に街に入れない理由がもう一つありまして。寧ろそっちが本題というか・・・」
そう言いながらケヴィンは少し言い出しづらそうな様子を見せる。勿体ぶるのは無しだとミアに一喝され、それならば私を責めないでくれと言いながら、本題であるアークシティに容易に入れない理由について述べる。
「かの街はただの空飛ぶ大都市というだけでなく、その“姿を消して移動”するんですよ」
最早最初にシン達を驚かせ、空飛ぶ大都市というのが霞んでしまうくらいに、ケヴィンの言っている事が理解できなかった。言葉の意味自体は単純明快で、要するにアークシティは空を飛びながらその全貌を消して、尚且つ移動しているらしい。
勿論、シン達も言葉としての意味は理解しているものの、何から質問すべきかと思考が渋滞を起こしているようだった。
「初めてアークシティの事について話を聞いた人は、皆そうなりますとも。さて、前置きはこれくらいで十分でしょう。詳しい話は後で私から皆さんにするとして、今は時間が押しています。アンドレイ氏、貴方が知る限りで構いません。今アークシティはどの辺りにあるかご存知ありませんか?」
今となればケヴィンが言わんとしていた事が理解できる。何故出発しようというアンドレイを引き留めてまで話を聞こうとしていたのか。彼は少しでも正確なアークシティの位置を、シン達に教えてくれようとしていたのだ。
「私達の情報がどれくらい参考になるかは分かりませんが、少し前にアークシティへ行ったという友人の話であればお話しできます。みんなはどうだい?」
アンドレイは自分の護衛や、迎えに来た別の護衛達にもアークシティの位置について尋ねてくれた。少しずつ情報が集まっていくと、どうやらアンドレイ一行が知る限り、少し前までは北の山を越えた辺りの大草原上空に滞在していたという情報が得られた。
「と、まぁ私達が知っているのはこんなところです。参考になりましたか?」
「えぇ、十分です。そこから少し推理していけば、大まかな進路を予想する事もできるかも知れません。呼び止めてしまって申し訳ありませんでした」
「これくらい、なんの問題もありませんとも。ではこれを貸しにしておきましょう。私の周りで何か起きた際には、探偵の頭脳をお借りするとしましょう」
「お安いご用で。安くしておきますよ」
社交辞令のような会話を交わしながら、出発の時刻を迎えるアンドレイと握手を交わすケヴィン。そしてアンドレイはシン達とも握手を交わそうとしてくれた。
彼もまた、シン達に何か感じるものがあったのか、何か機会があればまた会う事もあるだろうと述べて、宮殿を去っていった。




